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2008年11月13日

日本私大教連、「経営困難」法人への経営指導に関する文科省および私学事業団への要請結果について

京滋私大教連
 ∟●「経営困難」法人への経営指導に関する文科省および私学事業団への養成結果について(通知)

2008年11月10日

各地区・県組織執行委員会 御中
各直接加盟単組執行委員会 御中

日本私大教連
中央執行委員長 丹羽 徹


「経営困難」法人への経営指導に関する文科省および私学事業団への要請結果について(通知)

 日本私大教連中央執行委員会は10月15日、『「経営困難」法人指導に対する文部科学省及び私学事業団の経営指導に関する日本私大教連の提言』を発表し、同日に文部科学省(以下、文科省)へ、また27日には日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)へ要請を行いました。
 私学事業団の学校法人活性化・再生研究会が『私立学校の経営革新と経営困難への対応―最終報告―』を発表して以降、文科省および私学事業団は「経営困難」法人に対して、『最終報告』に提示された「経営判断指標にもとづく経営状態の区分」を軸とした指導・助言を強めています。その結果、少なくない理事会が「経営判断指標」による「判定結果」(=経営状態区分におけるランク付け;B4~A1)のみを取り上げて、人件費削減や募集停止の口実にするという事例が生じています。またいくつかの学校法人では、文科省もしくは私学事業団から、赤字部門の閉鎖(募集停止)と人件費支出の削減を強く指導されたことによって、大学運営や労使関係に大きな混乱をきたしている事例も生じています。文科省もしくは私学事業団の経営指導が、多くの場合、経営困難を引き起こした原因であるところの理事会の専断的運営や無責任経営を棚上げし、理事会による安直で一方的な人件費削減や募集停止を助長しかねないものであることは極めて重大です。
 文科省ならびに私学事業団は私たちの要請に対し、『提言』の内容に概ね理解を示すとともに今後の経営指導を慎重に行うことを表明していますが、引き続き警戒を強める必要があります。
 本文書は、文科省・事業団要請で示されたそれぞれの見解・考え方から、重要なポイントをまとめたものです。『提言』、各要請結果概要報告書とあわせてご活用ください。

1.破綻までの時間的余裕を示すがごときに単純化した「経営状態の区分」は問題であり、使用を取りやめるべきであるという要望に関して

<文科省の見解>
○文科省で個別法人の経営状態を把握するに際しては、私学事業団の「経営判断指標」だけで判断してはいない。確かに指標を活用してはいるが、指標には不十分な点や問題点があるとわかっている。この指標のみをもって経営状態を判断するということはまったくない。
○「経営判断指標」は最終報告の一部であって、それ以外に必要なことがいろいろ書かれているので、昨年8月以降に指導を行った法人には最終報告を配って、「ちなみに」という形でこの区分のここに該当しますよということを伝えてきた。そのとき、ご指摘のように、「この指標がすべてではない」ということをはっきり伝えていなかった。文科省が学園の経営状態をどのように判断したのかが、法人にうまく伝わっていなかったかもしれない。今後、法人に説明する際には留意したい。
○『提言』には、昨年末の新聞報道やIDE掲載の清成座長の記事について問題が指摘されているが、文科省としても問題と考えているので、事業団に対して誤解を招くようなことが生じないように、本来の指標の趣旨、意味を正確に伝えるようにということを強く言っている。
○破綻に至る年数の考え方は、『提言』にあるとおりと考える。

<私学事業団の見解>
○この経営判断指標だけで判断しているわけではない。最終報告の13頁にもその点ははっきり書かれている(*)。
(*該当箇所抜粋)
 「(13頁下から3行目)…この指標だけでは経営悪化の度合いを判断することは困難である。私学事業団や文部科学省の指導・助言の開始に際しては、学生数の推移、支援団体等からの寄付、施設設備の状況等の関連するほかのデータや定性的な要因を総合的に分析することが必要である。」
○経営判断指標そのものがどうかということについては、様々な判断指標があるし、それに対する見方も様々なので、議論しても決着がつかないだろう。その意味では所詮一つの見方であるという観点はもたなければならないと認識している。指標自体の議論よりも、むしろ指標を使った結果どうなのか、どういう方向に持っていくのかという議論の方が大切であると考える。

2.理事会が、文科省または私学事業団から赤字部門の閉鎖や人件費削減を指導されたとして、教職員に説明すらせず一方的にそれらを実施するなどの問題が生じていることについて

<文科省の見解>
○文科省は、けっしてそういう指導はしていない。もちろん、収入が改善できなければ収支バランスを取るために支出を抑制することを考えなければいけですよ、ちなみに一人当たり人件費は平均と比べてこうですよというような説明はしているが、それが現場には人件費削減を指導されたと伝わっているならば、そのような誤解を生む指導内容とならないように留意していきたい。

<私学事業団の見解>
○事業団は、経営状態が悪化している状態をデータで分析して、このまま行ってはいけないですよという助言をしている。ただ募集停止すればいいなどと言っているわけではない。
○経営が立ち行かなくなった段階で、続けるのかやめるのか二者択一を迫られたとき、続けるのであれば相応の体質に作り変えなさいといわざるを得ない。学生増など収入を増やすことはもちろんだが、同時に支出も抑制しなければならない。一方、続けられない場合もある。複数の学校を設置してどの部門も赤字になっていて、そのままでいけば共倒れになる場合が多い。そのときはどの部門を残すべきか決めて、それ以外の部門はできるだけスムーズに募集停止しなさいと言う。スムーズにというのは、学生の転学だとか教職員への対応などで金が必要なので、余力があるうちにできるだけ早く閉鎖するようにという意味だ。少なくとも先々どうするか見通しを出して、改善計画に盛り込むように理事会に要請している。

3.理事会だけに依拠した経営指導には問題があるので、広く教学機関や教職員組合からのヒアリングを行うべきであるという要望について

<文科省の見解>
○文科省としては、経営の最終的な責任を負っているのは理事会という私学法に定められている趣旨を踏まえて、理事会でしっかり責任ある対応をとってほしいとお願いしている。しかしご指摘の通り、経営改善計画がうまくいくかどうかは教職員の理解がなければ不可能だし、理事会のやり方によってはいちばん大切な教育研究に悪影響が生じるということは文科省も認識している。
○経営指導にあたって、広く教学機関や教職員組合からのヒアリングを行うことについては、文科省の事務的な問題もあって現段階でやりますとは言えないが、法人を呼ぶときにはできるだけ教学代表の学長や校長にも来ていただくようお願いしているし、経営改善計画に対する教職員の合意がどうなっているかを確認して、特に教職員の身を削るようなことが含まれる計画の場合は、学内の手続をしっかり踏まえるようにお願いをしている。

<私学事業団の見解>
○最近かなり重視している。事業団は経営改善計画作成支援という形で法人に入っていくが、その際には必ず理事長・学長・役員だけではなくて、募集・入試・教学・キャリア支援など、入口から出口まで各担当者にヒアリングを実施するというヒアリングの「イメージ図」をメンバーに配って、理事会にこのように進めることを理解した上で経営相談を申し込んでもらうという前提でやっている。この「イメージ図」では「組合」という表現は使っていないが、教職員の担当者からということでやっている。
○教職員組合に意見を聞かないと話が進まない状況があれば、「イメージ図」に「組合」と書いてなくとも教職員組合の話を聞く。
○この間、「イメージ図」の流れで実際にやってみて、経営者の認識と教職員の方々の認識がまったく違う部分が明らかになって、そこで逆に経営者の方にこちらから詰め込むような場面もあり、やってよかったと感じているので、広く意見を聞くことは重要であると考えている。

4.理事会が、経営困難が生じている原因と現状について分析し、評議員会、監事、教授会、教職員組合に対して、十分な説明を行うよう指導すべきであるという要望について

<私学事業団の見解>
○当然その通りだと考えている。こういうことをやれていない法人があるので、しっかりやったうえで改革案をつくるように言っている。このことも「経営改善計画作成モデル」の中に明記して理事会に対して説明している。
○理事会にきっちりやってほしいという期待をもっているが、理事会がそれをしない場合は、私学事業団が必要に応じて教授会などの諸機関や教職員組合に説明を行い、意見を聞いたり理解を求めたりする必要はあるだろう。ただし、教学を代表している学長や学部長を飛ばしていきなり教授会にというわけにはいかないので、事業団としては教学側、学長、学部長など段階を追うことになる。もちろん教授会や教職員組合を敵視するわけではないし、差別なくやっていきたいと思っている。

5.上記以外の要望事項について

 上記以外の要望事項について、『提言』7頁に列挙した項目にそって私学事業団から以下の回答を得ています。

(2) 消費収支差額ではなく、帰属収支差額が採算を示していることを明確にして指導すること。
○私学事業団は先行してそのように行っている。

(5) 理事会が学内構成員に対して、十分な財務資料の開示を行うよう指導すること。
○最終報告でもさんざん言っていることである。当然と考える。

(7) 理事会が経営改善計画を策定するにあたっては、評議員会、監事、教授会、教職員組合に対して、必要な審議、手続きを適切に保証し、十分な説明責任を果たすよう指導すること。
○そのように行っている。

(8) 理事会が教授会の意思を尊重するよう指導すること。
○お互いがお互いを尊重するように言っている。

(9) 理事会が労働基本権を尊重し、教職員組合との団体交渉に誠実に応じるよう指導すること。
○いわずもがなのことと考える。

【経営指導に関する状況把握と情報提供のお願い】
文科省および私学事業団による経営指導が行われた際には、下記の文書を入手するなどして、どのような指導が行われたか内容を把握し、日本私大教連書記局に情報をご提供ください。
①文科省の学校法人運営調査を通じて経営改善を指導された場合は、調査結果および改善状況のフォロー結果に関する文科省高等教育局長通知が発行されています。
②私学事業団に経営相談を行った場合、事業団私学経営情報センター(旧称、私学経営相談センター。08年4月に改組新設)経営支援室が、『学校法人○○○―経営の現状と今後の課題について―』という冊子を作成しています。

以上


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