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2008年11月21日

日本私大教連、中教審「学士課程教育の構築に向けて」答申案に関する声明

日本私大教連
 ∟●中教審「学士課程教育の構築に向けて」答申案に関する声明

中教審「学士課程教育の構築に向けて」答申案に関する声明

2008年11月15日

日本私大教連中央執行委員会

 11月6日、中央教育審議会は「学士課程教育の構築に向けて」と題する答申案を発表した。本答申案は「学士課程教育の構築が、我が国の将来にとって喫緊の課題である」との認識に立ち、「学士の水準の維持・向上のため」と称し、①学位授与の方針、②教育課程編成・実施の方針、③入学者受け入れの方針 の「三方針を明確に」する「教学経営の確立」と、それを実施する手法として「PDCAサイクルの徹底」を謳っている。

 1991年大綱化答申以降、大学は多様化とともに、競争を原理とする市場化がすすめられてきた。今回の答申案にはこのような多様化や競争至上主義の弊害について、一定の反省が見られる。即ち、本答申案は、「大学とは何かという概念が希薄化している」という問題意識の下に、財政支援の充実や、教育の機会均等への危惧の念を表明するなど、大学の公益的な使命を説いている点は、評価されて然るべきである。

 しかしながら、財政支援を梃子にした競争の構造化による国家介入の恐れや、規制の緩和などに見られる「大学の淘汰」を前提とした、新自由主義的な傾向は依然として残っている。

 本答申案の基調は、経済財政諮問会議や産業界の意向を色濃く反映したもので、卒業生を産業戦士と位置づけ、大学をして学生に「社会人としての基礎力」を着けさせることを目的としており、社会の主権者に育成することを回避するものとなっている。

 これを受けて、本文では「『何を教えるか』よりも『何ができるようにするか』」が強調されている。学問を担い、学問を授ける府である大学では「何を教えるかに」力点があり、その結果として「出来るようになるスキル」が獲得できると考えられる。よってこの基調では、大学が専門学校化する懸念がある。

 その他の重要な特徴として、「大学の自治」を「大学の自主・自律」に置き換えて強調する一方で、「学問の自由」に触れているところがほとんどない。そもそも「学問の自由」とは、真理を探究し、人類の存続に寄与し、時々の権力に屈することなく社会の木鐸であり続けるために認められており、「大学の自治」はそれを保障するものである。学士課程教育を施すのは大学であり、「学問の自由」「大学の自治」に触れていない本答申案に奇異の感が拭えない。

 また、「成績評価の厳格化」や「出口管理の強化」と質保証システムを強調するあまり、大学が社会に供給する人材である前に、学生が「学びを通して成長する存在」であることを看過しているのではと危惧される。

 更には、教学経営と大学の組織評価を一体のものとして捉え、その管理手法としてPDCAサイクルをアプリオリに規定しているが、「教学と経営の分離と調整」を前提とする大学では、トップダウンを含意するこのサイクルは馴染み難いものである。

 今回の答申は、財政支援などによって競争優位な大学に有利なものとなり、むしろ格差拡大を促す結果となることを深く憂慮せざるを得ない。

 我々は本答申案について以上の危惧や憂慮を表明するとともに、学問の自由と大学の自治という大学の理念と社会的使命を自覚し、平和と民主主義を担う主権者を育成する大学人としての立場を堅持し続けることを声明する。

以 上


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