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2009年04月09日

日本私大教連、私立大学等の授業料減免事業等支援経費の大幅な増額ならびに学生支援機構奨学金の「回収率向上策」に関する緊急要請

2009年4月8日

文部科学大臣
 塩 谷  立  殿

日本私立大学教職員組合連合
(日本私大教連)

私立大学等の授業料減免事業等支援経費の大幅な増額ならびに
学生支援機構奨学金の「回収率向上策」に関する緊急要請

 マスメディアも頻繁に取り上げているように、経済状況の急激な悪化の影響による家計急変で就学困難に陥る学生・高校生が急激に増加していることが明らかになっています。3月23日付け北海道新聞は一面トップで、道内で600人以上の生徒が経済的事情で大学進学を断念したという衝撃的な記事を掲載しています 。
 とりわけ私立大学においては、学費負担の重さはすでに家計の限界水準に達している一方、この間の経常費補助の削減や学生数の減少による収支状況の悪化のため、学生への経済的支援策を思うように講じられない大学が少なくありません。こうした問題によって、私立大学生の就学困難状況はより深刻なものとなっています。大学に合格し意欲と希望を膨らませながら入学金が用意できず入学を断念しなければならない高校生、家計の急変により学業の継続を断念せざるを得ない学生、就職が決まっていながら学費を払えないために除籍になる学生、学費を捻出するために休学してアルバイトをしなければならない学生が増加している現実は、我が国の「教育の機会均等」保障が極めて脆弱なものであることを証明しています。
 日本私大教連はこうした事態を重く捉え、貴省に対して、去る2月9日、各私立大学が行っている家計急変に見舞われた学生・大学院生・新入生への学費負担軽減の取り組みに対して、特別補助とは別枠で緊急の予算措置を行うよう要請するとともに、国会議員や私大団体に協力を求めてきました。しかし貴省の対応は、2009年度予算案の枠組み以外の措置はできないとの回答に終始する極めて遺憾なものでした。
 厚生労働省は、今年6月までに非正規労働者19万2千人、正社員1万人以上が失職するとの調査結果を発表しています(3月31日)。経済・雇用状況が早急に回復する見込みはなく、家計の困難さが増すことにより、就学困難状況が拡大しさらに深刻化することは火を見るより明らかです。
 こうした状況に鑑み、日本私大教連は以下2点について緊急に要請いたします。

1.私立大学等が行っている経済的に就学困難な学生を対象とした授業料減免事業等支援経費(経常費補助金特別補助)を、現在検討されている2009年度補正予算において、大幅に増額すること。

 私立大学等が行っている授業料減免等奨学事業は、平成19年度で374大学・短大が実施し、要した経費は総額で約60億円(対象学生数のべ2万1千人)、1大学平均で約1600万円となっています(補助金交付実績より算定)。これに対する授業料減免事業等支援経費(経常費補助金特別補助)による交付額は総額21億円弱、1大学平均にして約558万円、対象学生1人当たりではわずか10万円弱に過ぎません 。
 補助金の配分基準では、奨学事業経費の50%以内を補助するとされていますが、同年度の補助率は50%補助で算出した交付総額が予算額(20億円)を超えたことにより圧縮され 、35%弱に落ち込んでいます。
 一方、この間の経常費補助の抑制・削減と、入学者数の減少によって、5割近くの大学が定員割れを起こし、3割以上の大学法人が経常赤字となっているなど私大の財政状況は年々悪化しており、とりわけ地方・大都市圏外の大学、小規模の大学の経営状況は大変厳しくなっています 。そうした大学では、授業料減免などの学生支援策を講じることがいっそう難しくなっています。経常費補助金特別補助の交付を受けている867大学のうち、過半数以上の493大学が授業料減免事業等支援経費の補助を受けていませんが、これらの大半が財政上の制約により奨学事業を実施できていないものと推測されます。
 以上のような実情を踏まえ、すべての私大において、財政状況に関わらず経済的に就学困難な学生に対する授業料減免等の支援策を実施できるよう、2009年度補正予算によって思い切った財政支援を行うことを要求します。具体的には少なくとも、平成19年度の事業水準で全大学が実施した場合の総事業費約140億円を、経済状況の悪化に対応するため5倍増して総額700億円と見積もり、その50%の350億円を補助することを要求します 。

2.日本学生支援機構奨学金における「個人信用情報機関の活用」を中止・撤回すること

 政府の奨学金回収強化の方針を受けて、日本学生支援機構(以下、機構)は昨年12月、「個人信用情報機関への滞納者の情報登録」を行うことを決定しました。機構は、国民各層の反対や懸念・疑問の声を無視して、2009年度の新規採用者だけでなく、現在奨学金を利用している全学生にも「個人信用情報の取扱いに関する同意書」の提出を求め、署名しなければ貸与の開始、貸与継続を認めないとの極めて乱暴な方法で手続を進めています。機構は、2010年度より3ヶ月以上の滞納者を情報機関に登録するとともに、同機関の借用情報を入手し、多重債務者に対して法的処理を行うなど、「貸金業」なみの対応を想定しています。
 2005年から2006年にかけて高校3年生とその保護者を対象とした『高校生の進路追跡調査・第1次報告書』 によれば、「返済が必要な奨学金は、将来に何か起こるかわからないので借りたくない」と回答した保護者が41.0%、「返済が必要な奨学金は、将来に子どもの負担となるので、借りたくない」が40.5%に上り、年収400万円以下の所得層でも「奨学金は借りたくない」とする家庭が4割弱になっています。生徒の回答でも「返済が不安だから、なるべく借りたくない」が47.4%に上ります。奨学金は借りにくいものという実感を抱いていることが浮き彫りになっています。今日、雇用情勢がさらに悪化していることを考えれば、将来不安がより増大し、多額の奨学金を借り入れることに対する抵抗感がさらに強まっていることが容易に想像できます。
 「個人信用情報機関の活用」はまさに奨学金滞納者のブラックリスト化にほかならず、今日の深刻な雇用・経済情勢の中で、奨学金を真に必要としている学生をますます奨学金から遠ざけるものであり、「教育の機会均等」を保障する奨学金制度の趣旨から逸脱する愚行にほかなりません。
 そもそも、奨学金延滞理由の第1位は「低所得」(45.1%) であり、本来ならば欧米諸国のように一定の所得水準に達するまで返済を猶予するなど、借りやすく返しやすい制度に改善することこそ求められています。
 以上のことから、私たちは、機構が個人信用情報機関を活用することを中止・撤回するよう強く要求します。

以上


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