研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2009年08月21日

横浜市立大学、全員任期制および統治システムにおける憲法違反性

大学改革日誌
 ∟●最新日誌(8月20日)

8月20日(2) 本法人の全員任期制は、中田市長のもとで強行した大学「改革」により、導入されたものである。市当局と大学との関係は、国家と大学の関係と同じである。それは、教員の身分を決定的に不安定にした。教員組合の働きでさまざまのチェック体制を作り、その直接的な打撃を何とか押しとどめているにすぎず、その状態は基本的には不安定である。これひとつとっても、憲法違反の体制となっていることがわかる。全員任期制と評価制度(任期更新における上から任命の管理職の評価権限)は、「教育機関において学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障する」ことに反するからである。教育行政=大学統治は、市長の理事長任命権と理事長による副理事長任命権、学部長・研究科長の選挙規定のはく奪(法人化前には明文化された選挙規定があった)によって、市長の干渉がストレートに大学に貫徹しうるシステムとなっている。大学教員の士気・自主的精神は抑圧される。評価において差別やマイナス評価されるのを恐れる状態で委縮効果が出る反面、この間いくつかの事例で出てきているのは「公平性・透明性」のない人事評価の問題である。この間、問題となったのは、「上から」任命の管理職経験者の昇任における優遇(何階級かの特進)である。

芦部憲法・・・「2 学問の自由の保障の意味
(1)憲法23条は、まず第一に、国家権力が、学問研究、研究発表、学説内容などの学問的活動とその成果について、それを弾圧し、あるいは禁止することは許されないことを意味する。とくに学問研究は、ことの性質上外部からの権力・権威によって干渉されるべき問題ではなく、自由な立場での研究が要請される。時の政府の政策に適合しないからといって、戦前の天皇機関説事件の場合のように、学問研究への政府の干渉は絶対に許されてはならない。『学問研究を使命とする人や施設による研究は、真理探究のためのものであるとの推定が働く』と解すべきであろう。
(2)第2に、憲法23条は、学問の自由の実質的裏付けとして、教育機関において学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障することを意味する。すなわち、教育内容のみならず、教育行政もまた政治的干渉から保護されなければならない。」(136頁)

8月20日(1) 本学の統治システムが、徹頭徹尾、非民主主義的で、憲法違反であるかという点について、若干、私の考えを補足しておきたい。

① 理事長、副理事長、学部長、研究科長の任命の問題=大学統治機構の問題。

1. 法人の定款 | 横浜市立大学
定款(大学HPの検索で、「定款」と入れれば、該当ページが出てくる)によれば、
------------------------------------------------
(理事長及び副理事長の任命)
第10条 理事長は、市長が任命する。
2 副理事長は、理事長が任命する。
-----------------------------------------------------

 公立大学法人における理事長が市長任命であり、市長の任命責任は決定的である。

 理事長が、憲法の精神(第23条の精神)をわきまえ、統治システムを民主主義的なものに改正するのかどうか、「設置者権限」なるものを振りかざして、これまでのように独裁的な体制のままにしておくのか、決定的に違う。

 副理事長(学長と事務局長、当初は外部から経営のプロとして孫福氏が、急逝のあと松浦氏が選ばれたが、その突然の辞任のあと一次空席で事務局長が代理を務めていたが、現在ではいつのまにか事務局長が任命されている)は、理事長が任命権を持つ。

 学長の任命権は、理事長が持っているわけだが、どのように選ぶか?

 まず、定款によれば、経営と教学の最高責任者を統合した学長・総長制度の国立大学と違い、理事長と学長を別にしている。これは地方独立行政法人法の大学特別規定を利用したもので、公立大学でも理事長と学長を同一人物とするというのが基本で、複数の大学などを持つ公立大学の場合、法人全体を統括する理事長と個々の大学の学長とを分ける必要があることから、例外的に設定されたもの。その例外規定を、大学ひとつしか持たない公立大学法人・横浜市立大学では、適用した。

 そこには、学長を憲法23条の基準に従い「大学の自主的判断」で選出する可能性を与えるという意味で、一定の意味はあるかと思われる。
 むしろ、この理事長と学長を分けたことの意味を、憲法に照らして最大限有効にするのが、「定款」と憲法の要請とを調和させることになろうかと思われる。
 ところが、現在の本学は、「定款」の文言だけをしゃくし定規に適用し、そうした定款が成立するための基本法(憲法)をないがしろにした運用を行っている。
-------------------------
 (学長の任命)

第11条 大学の学長(以下「学長」という。)は、理事長と別に任命するものとする。
2 学長を選考するため、学長選考会議(以下「選考会議」という。)を置く。
3 学長は、選考会議の選考に基づき、理事長が任命する。
4 前項の規定により任命された学長は、前条第2項の規定にかかわらず、副理事長となるものとする。
5 選考会議は、経営審議会を構成する者(理事長及び教育研究審議会を構成する者を除く。)の中から当該経営審議会において選出される者3人及び教育研究審議会を構成する者の中から当該教育研究審議会において選出される者3人をもって構成する。この場合において、経営審議会において選出される者のうち1人は次条第2項に規定する者とし、教育研究審議会において選出される者のうち1人は第18条第2項第5号に規定する者とする。 
6 選考会議に議長を置き、委員の互選によってこれを定める。
7 議長は、選考会議を主宰する。
8 前3項に定めるもののほか、選考会議に関し必要な事項は、議長が選考会議に諮って定める。
----------------------------

なぜ、憲法の基本精神をないがしろにしているといえるか。

「3 学長は、選考会議の選考に基づき、理事長が任命する」とあるが、
それでは、選考会議は、「大学の自主的判断」(憲法第23条の要請するところ)が行えるようになっているか?

 選考委員は、だれがどのように選ぶのか?
 選考委員の選出は次のようになっている。
 「5 選考会議は、経営審議会を構成する者(理事長及び教育研究審議会を構成する者を除く。)の中から当該経営審議会において選出される者3人及び教育研究審議会を構成する者の中から当該教育研究審議会において選出される者3人をもって構成する。この場合において、経営審議会において選出される者のうち1人は次条第2項に規定する者とし、教育研究審議会において選出される者のうち1人は第18条第2項第5号に規定する者とする。」

 経営審議会を構成するもの3人、教育研究審議会において選出されたもの3人。

 それでは、経営審議会を構成するもの3名は、だれがどのようにして選ぶのか?
 定款によれば、

「第1節 経営審議会
 (設置及び構成)
第14条 法人の経営に関する重要事項を審議するため、経営審議会を置く。
2 経営審議会は、理事長、副理事長及び理事をもって構成する。」

 このうち、理事長は選考委員にはなれない(学長選考会議の規定)。しかし、それ以外の者は、学長選考委員になれる。
 副理事長と理事の中から3名ということ。
 副理事長、理事は誰が任命するかといえば、定款によれば、理事長。
 したがって、学長選考委員に理事長がなっていなくても、理事長の意向が100%貫徹する(それが可能な)ようになっている。

 それでは、教育研究審議会のメンバーはどうか?
 その構成は、定款によれば、

「第2節 教育研究審議会
 (設置及び構成)
第18条 大学の教育研究に関する重要事項を審議するため、教育研究審議会を置く。 
2 教育研究審議会は、次に掲げる者をもって構成する。
 (1) 学長
 (2) 副学長
 (3) 学長が定める教育研究上の重要な組織の長
 (4) 大学の附属病院の長
 (5) 法人の役員又は職員以外の者で大学に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、学長が指名するもの」

 教育審議会のメンバーは、学長、副学長、それに(3)の学部長や研究科長など、それをとってもすべて上からの任命が貫徹しているものばかり。どこにも、大学人の選挙によってオーソライズされたものはいない。

 徹頭徹尾、市長・市役所・行政機構の論理で各役職が任命できるようになっている。(諸規定を作ったのが市の役人=管理職であり、自分たちがよく知っている市の管理職の任命方式をそのまま大学にあてはめたと見ることができる。市の場合は、まさに現在選挙戦が行われているように、市長が「市民による選挙」という民主主義のシステムで選ばれているからこそ、統治の民主主義的正当性がある。しかし、大学の場合、すべて、任命制である。どこにも選挙システムがない。)

 そうした教育研究審議会から3名を選ぶ。
 どこにも、憲法23条の要請する「大学の自主的判断」が入る余地がない。

 中田元市長は、国と地方自治体との関係では、地方自治体の権限を拡大することを主張し、その運動を今後も続けていくとしている。
 しかし、いざ、横浜市内のことになると、市長・関内の絶対的権力が、少なくとも大学に対して貫徹するようなシステムを作ったといえよう。
 すなわち、市と大学との関係では、市当局の独裁体制とでもいうべきシステムである。大学の自治、大学の自主的判断は、金(予算)と経営陣・管理職すべてを、市長・その側近等で掌握できるようにして、抑圧する(すくなくともそれが可能な)システムとなっている。

②学校教育法95条における教授会審議事項=重要な事項、の問題

法人の定款 | 横浜市立大学の教育研究審議会規定によれば、その審議事項として、次のような規定がある。

------------------------------------------------------------------------
第21条 教育研究審議会は、次に掲げる事項を審議する。
 (1) 中期目標について市長に述べる意見及び年度計画に関する事項のうち、大学の教育研究に関するもの
 (2) 地方独立行政法人法により市長の認可又は承認を受けなければならない事項のうち、大学の教育研究に関するもの
 (3) 学生の円滑な修学、進路選択等に必要な助言、指導その他の支援に関する事項
 (4) 学生の入学、卒業その他学生の在籍に関する方針及び学位に関する方針に関する事項
 (5) 教育課程の編成に関する事項
 (6) 教育研究の状況の自己点検及び評価に関する事項
 (7) その他教育研究に関する重要事項

2 教育研究審議会は、経営審議会に対し、意見を述べることができる。
-------------------------------------
太字強調した箇所、すなわち、

(4) 学生の入学、卒業その他学生の在籍に関する方針及び学位に関する方針に関する事項
(5) 教育課程の編成に関する事項

 これらは、学校教育法第95条により、教授会の審議すべき重要事項である。
 それでは、教授会はどうなっているか?

 学則の教授会規定によれば、下記のようである。

「第 75条大学各学部に教授会を置く。
2 教授会の運営に関することは別に定める。
(教授会の代議員会)
第 76条教授会は、その定めるところにより、教授会に属する教員のうちの一部の者をもって構成される代議員会を置く。
2 代議員会の議決をもって、教授会の議決とする。
(教授会の審議事項)
第 77条学部教授会は、以下の事項を審議する。
(1) 入学、進級、卒業、休学、復学、退学、除籍、再入学、転学、転学部、転学科、留学、学士入学等学生の身分に関すること
(2) 学部運営会議から付議された、その他学部の教育に関すること (教授会の議事等)
第 78条教授会の議事及び運営について必要な事項は、教授会に諮りそれぞれ学部長が定める。」

 つまり、教授会には、教育課程の編成に関する事項の権限がないとされている。
 明文はないが、教育研究審議会の審議事項にあって、教授会にないのがこの教育課程の編成に関する事項。

 太字強調のところは、学校教育法第95条による教授会の重要審議事項である。
 しかし、この4年半、教授会で審議されたことは一度もない。(念のために言えば、教授会の構成員も、明確な規定がない。教授だけなのか、准教授も含むのかなど、学校教育法の規定ともかかわり、本来明確にすべきだが、国際総合科学部では公立大学法人化以前の規定を継承し、准教授も含めている。

 なぜか。代議員会規定があるから。
 すなわち、

「 (教授会の代議員会)
第 76条教授会は、その定めるところにより、教授会に属する教員のうちの一部の者をもって構成される代議員会を置く。
2 代議員会の議決をもって、教授会の議決とする。」

 それでは、代議員会で、教授会が審議すべきとしたすべての項目が「審議事項」とされたか?
 実態はそうなっていなかった(いない)。

 「審議事項」とされたのは、ただ一つ、学生の身分に関するものだけ。
 それでは、学生の身分に関して実態において、「審議」されたか?
 審議に値するような資料が提示されたか?

 特に問題となる(なってきたし今後もなるであろう)のは、PEである。当局が秘密主義によりデータを出さないので詳細は分からないが、2年時留年だけで相当数に上る。これだけの学生を1年、2年、ないし一部は3年も留年させ、2年に据え置いている。さらにこのままいくと4年間でも留年させ続けるということになる。そうしたことは一切教授会審議の対象となってこなかったにもかかわらずである。

 PEはその実態から、当然にもそれは重大な教育課程の編成、カリキュラムの編成にかかわる「重大問題」のはずである。
 ところが、その重大な問題に関して、「PEは代議員会の審議事項ではない」と切り捨て、一切、審議事項として取り上げず、結論の進級判定だけを押し付けてきた。これが、代議員から得ている情報である。

 どうしてこのようなことが可能になるのか?

 学部長やその他の管理職(コース長)それに学部運営委員の過半数を「上から」任命できるシステムになっており、代議員の声などきちっときかなくても、押し通せるから。
 ここにも、管理職すべてを上から任命している本学の根本的問題が露呈していると私はみる。
 さらに、代議員の口を封じるものとしては、上からの任命された管理職による教員評価(昇進・昇給にかかわる)がある。
 さらにそれと連動して、任期制がある。とくに、法人化以後の新しい教員はすべて任期制採用である。
 これらがすべて大学の自由な雰囲気を圧殺する、すなわち憲法違反状態を作り出している、と考える。
 
 中田市長のもとで「改革」を強行した市の管理職がいったことば、「教員は商品だ」「運営に口出すな」が、法人と大学の統治すステムに貫徹している。それが、定款と学則に貫徹している。そして、その現実こそ、憲法に違反している。「大学の自主的判断」の入る余地が皆無に近いからである。そもそも大学を構成する大学人の意思がどこにあるかを確認するシステムがない(「改革」過程で破壊されたままな)のである。


|