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2009年10月21日

国立大学法人32大学理学部長会議、「理学の教育と研究に対する基盤的支援の充実について(提言)」

京都大学理学研究科

国立大学法人32大学理学部長会議からの提言

理学の教育と研究に対する基盤的支援の充実について(提言)
―かけがえのない自然を理解し、共存する豊かな人類社会を実現するために―

国立大学法人32大学理学部長会議
平成21年10月9日

 理学とは、自然界に潜む原理や法則という普遍的真理を探究する学問であり、理学系の学部と大学院は、自然界の未知なる領域に果敢に挑戦する若者に、高度な教育と最先端の研究の場を与え、それらを通して自然とともに共存する人類社会を作り出すことを目指してきた。とりわけ科学技術立国を目指す我が国にとって、理学系の学部と大学院における教育と研究の振興は、最も重要な基盤的要素である。そして、すぐには実用には結び付きにくいという学問の特殊性により、理学の教育と研究のさらなる充実とその発展には、国立大学法人の役割がとりわけ重要である。

 しかしながら、現在も進行中の大学改革の流れの中で、運営費交付金が毎年削減され、一方で、研究経費はもちろんのこと教育経費すら過度に競争的資金に集中している。それゆえ、教職員が漸次削減されていく中、研究の面では短期的な成果や直接的な産業界への還元が重視されることになり、また、教育の面では新規のアイデアを取り入れた教育プログラムが要求されるにいたった。これらの状況を反映して、多くの国立大学法人では、本来あるべき長期的視点による教育と研究に支障を来しており、後継者の育成や研究の安定的継続が困難になってきている。現在、私たちはこの困難な環境のもと、最大限の力を振り絞り教育と研究の質の低下を招かぬよう努力しているものの、限界を迎えつつあると言っても過言ではない。今こそ、運営費交付金という基盤的経費の充実により、理学の教育と研究の振興を図り、独創的研究の推進と若手研究者の育成とを担保する制度設計をしなければならない。

 以上の趣旨に則り、我々は以下の提言を行う。

1.基盤的経費による安定的な教育と研究の活動の保証
 教育経費や研究経費に対する過度の競争的資金への依存を是正し、長期的かつ安定的な教育と研究を保証する資金投資の仕組みとして、運営費交付金に代表される基盤的経費を充実させること。

2.理学の教育と研究の評価のあり方の再検討
 国立大学法人の中期目標・中期計画の設定と評価のあり方を再検討し、短期的成果や直接的社会還元に過度に依存した評価を廃して、理学に代表される基盤的研究と教育とを長期的視点で計画し、充実させる、基礎科学評価と呼ぶべき新しい評価方法を構築すること。

3.人材育成システムの構築
 研究者育成の成果を短期的に判断することを避け、大学院修了者のキャリアパス形成のための社会全体を通した制度を構築すること。たとえば、給付型を含む奨学金の充実、大学院生への各種経済支援、女子学生や留学生増加策への長期的支援、就職活動による教育への弊害の排除、企業や行政官庁への博士号取得者の積極的雇用策の導入等を行うこと。


[ニュース報道]
理学部長会議、短期的成果偏重の大学交付金改善求める

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