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2009年11月04日

日本私大教連、政策提言

日本私大教連
 ∟●国立大学に比して格段に厳しい私立大学生の就学困難、劣悪な教育・研究・労働環境、深刻な定員割れなど、私立大学の諸問題を解決し、大学の主要部分を担う私立大学が社会の負託に応える高等教育機関として、その役割を果たすための政策提言

国立大学に比して格段に厳しい私立大学生の就学困難、劣悪な教育・研究・労働環境、深刻な定員割れなど、私立大学の諸問題を解決し、大学の主要部分を担う私立大学が社会の負託に応える高等教育機関として、その役割を果たすための政策提言

2010年10月16日
日本私大教連中央執行委員会

はじめに
 これまで政府・文科省は、高等教育機関の国家戦略上の役割を、輸出産業中心の国際競争力を重視する観点からのみ強調し、競争と淘汰の大学政策を推進してきた。小泉改革・大学版構造改革では、わずか1割台の補助率でしかない基盤経費である私立大学経常費補助を、国立大学の運営費交付金と歩調を揃えて減額し、他方で毎年度猫の目のように看板を塗り替えるCOEやGPなど多額の競争的資金をばらまいてきた。また現在の中教審大学部会は、規制緩和から一転して、大学の質の保証システムの導入を検討しているが、この方向は、国立私立格差、都市大規模私大と地方・中小私大格差を固定化し、公費の重点配分を一層誘導する危険性をもっている。
 わが国の大学が当面している課題は、危機的状況の打開である。特に学校数では81.5%、在校生数では74.7%を占めている私立大学(短大を含む)の状況は、文字通り危機的なものとなっている。まず学生の高い学費と生活難、企業優位の就職活動による就学困難である。親の借金により入学し、アルバイトに追われ授業に集中できず、3年の秋には就職試験に駆け回る、4年の秋には内定取り消しにおびえながら卒論等に取り組んでいる。しかも卒業後には3人に1人が非正規雇用という時代に、奨学金を借りていた者には金利付きの奨学金返済が待っている。こうしたわが国の私立大学生のおかれている状況こそ、緊急に解決しなければならない最大の課題である。
 学生の学んでいる大学の教育・研究・労働条件も、私立大学は国立・公立大学に比して、劣悪そのものである。学生一人当たりにして私立大学は国立大学の14分の1しか国庫負担が行われていないことは、国立の平均1.6倍という私立の高い学費の原因であるのみならず、教員一人当たり学生数の面でも、施設の面でも劣悪なものとなっている。教員は多くの授業コマをかかえ、受験生確保のための高校回りや通年化した入試業務に追われ、加えて文科省主導の外部資金獲得のための書類づくりや会議で多忙を極めている。担当する学生達の名前も覚える暇もない教員もいる。任期付教員や非常勤教員といった身分が不安定な教員の急激な増大は、教育の継続性を損ねている。職員のアウトソーシングによって、非正規職員の割合は平均で約半分ともなっており(日本私大教連の非正規雇用教職員実態調査結果09年7月)、正規職員の業務は過重となっており、学生対応・学生支援の質は低下している。
 私大学生たちは、時間を気にせずに、学問や社会、生き方について討論できる場も十分ではなく、気を許せる友人・教員との関係がつくりにくくなっている。大学によっては学生が荷物をおける専用ロッカーすらなく、教室から教室へ移動するだけの(しかもアルバイトの合間に!)、まるで渡り鳥状態である。だれとも口をきかずにすむ学生もいる。学生の基礎学力問題やメンタルヘルスが関心を集めているが、それに対応するための人的な余力や財政余力がなくなっている私立大学も少なくない。
 もともと1割台前半の経常費補助率で財政基盤の弱い私立大学にあって、18歳人口の減少、地方経済の低迷(父母の所得減少、学生の卒業後の就職先がない)、現下の経済不況の影響を受けているのは、地方・中小規模私大である。地域でいえば北海道、宮城を除く東北、北関東、中国、四国、入学定員でいえば800人未満の私立大学の存続は厳しさを増している。もともと少人数教育を特質としている中小規模大学や地域の文化拠点である地方大学は、大規模私大に比べて、図書館や校地、必要教員数などについて規模のメリットが出にくく、加えて近年の認証評価業務や学生支援業務、入試業務が加わることで、採算がとりにくく、定員割れが採算割れに結びつきやすい。
 特に地方私立大学についていえば、地方の学生が大規模都市私大に集まる理由は地元にいても仕事がないという理由が大きい。それでも地元で進学を希望する若者について、進学機会を提供することは政府の責任であろう。
 大学は18歳青少年のみを対象とした高等教育機関ではないという議論がある。海外では、社会人の通学、またパートタイム学生の比重の高まりが指摘されている。とはいえ各大学が累積単位制度を設けたとしても、政府による財政面での支援(学費・奨学金の充実)、企業に対する指導などの強力なバックアップなしには具体化はされない。また遠隔地教育について、ITを活用した教育方法の導入が指摘されているが、これも活用できるのは一部の教育課程に過ぎず、教育の質保証の面からは、格段の条件整備が必要である。
 上記の基本認識にたって、従来の自民党政府が、大学教育の条件整備義務を怠り、貧困な財政基盤のもとで競争・淘汰の政策を進め、私立大学学生と私立大学の教育・研究条件の劣悪な状況を放置し、悪化させてきた。私たち日本私大教連は、次の政策方向によって、社会の要請に応える高等教育の充実をはかることができると考え、以下の政策を提言する。……


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