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2009年12月11日

茨城大学学長、声明「国立大学運営費交付金等の事業仕分けについて」

茨城大学
 ∟●国立大学運営費交付金等の事業仕分けについて(学長声明)

国立大学運営費交付金等の事業仕分けについて(学長声明)

(1)大学運営の基盤となる予算や教育研究のための補助金等が見直し又は縮減と判定され、産学官連携の事業は廃止と判定されました。教育研究予算は成果主義の観点での見直しには馴染みません。
(2)大学の収入は、運営費交付金、授業料及び申請によって獲得する補助金等によって支えられています。茨城大学の運営費交付金は5年間で3億5千万円も削減されました。経費節減や教職員の人件費削減等で経営努力していますが、もはや限界です。
(3)補助金等が削減されれば、自由な発想や可能性の芽を摘んでしまいます。産学官連携の推進にも急ブレーキがかかり、地域振興等が不十分になります。
(4)我が国の教育投資は、OECD加盟国中最下位です。国際的な競争力が必要とされる時に削減を続けていては日本の衰退は免れません。
(5)60年間で6万8 千人が卒業又は修了し社会で活躍しています。茨城大学の伝統を守り、地域とともに発展する大学でありたいと思います。茨城大学は、未来を拓く学生の学びの場を明るく有意義なものにしていきたいと考えています。

≪事業仕分けの結果は衝撃です≫

 政府の行政刷新会議が行った事業仕分けにおいて、国立大学運営費交付金の見直し及び特別教育研究経費の縮減の判定がなされました。また、運営費交付金以外にも公私立大学も対象の競争的資金による先端研究、若手研究者育成及び大学の先端的取組支援等の事業は縮減、国立大学の地域科学技術振興・産学官連携事業については廃止と判定されたところです。
 成果や効率化による事業の評価は必要ですが、教育関係予算について“短期的成果主義”の観点から拙速な判断がなされることを危惧します。

≪予算削減の状況は深刻です≫

 運営費交付金は学生数等によって配分される大学運営の基盤的経費であり、茨城大学の収入財源の約50%を占めています。そもそも基盤となる予算の確保は不可欠ですが、本学の運営費交付金は、政府の方針で平成16年度の法人化以降、毎年約1%減少しています。これまで約3億5千万円も削減され、大学の本来の機能を維持しかねる深刻な影響を与えつつあり、その対応は既に限界に達しています。
 本学は、管理的経費の削減はもちろんのこと、教職員の人件費を削減する一方で、自己収入の増加を図るなど競争的資金や外部資金等の確保により、経営改善に努めているところでありますが、教育研究の質の低下や研究成果創出の低迷を危惧しています。
 平成22年度の全国立大学の運営費交付金の概算要求額は前年度とほぼ同額ですが、附属病院の運営、医師不足等に対応した予算を充実させる内容となっています。要求どおり全額が認められたとしても病院を持たない地方国立大学にとっては、実質的な削減が継続されるものと憂慮しています。
 さらにこれまで以上に運営費交付金等の実質的削減が続くことになれば、教育研究活動の足元が崩壊しかねません。

≪事業仕分けの影響は私たちの将来への夢を脅かすものです≫

 科学研究費補助金等の競争的資金は、研究者の自由な発想や大学の先端的取組による申請に対し、厳正な審査に基づいて配分されるもので、本学の効果的な教育への取組や科学技術・学術研究の進展に多大な貢献をしてきました。その縮減は、育てるべき、無限の可能性を秘めた着想の芽を摘んでしまうことになりかねません。
 ことに、廃止と判定された地域科学技術振興・産学官連携事業については、本学の産学官連携を戦略的に展開するための事業として平成20年度に採択され、産学官連携コーディネータの2名を5年契約で雇用し、大学が生み出した知的財産の民間企業等への移転を進めて地域経済の活性化を図るべく活動をしているところですが、打ち切りに追い込まれてしまいます。地域振興、活性化の推進体制の弱体化は免れません。

≪教育投資はそもそも不十分なのです≫

 こうした経費は、本学に求められている優れた人材の輩出、地域や社会に活かされる研究成果の創出、知的で文化的な社会の構築により、地域とともに安定的に発展する礎を支えるものです。近い将来の国の知的基盤の弱体化につながることになる削減・廃止は誠に遺憾であります。
 資源の少ない我が国にとって、優れた高等教育を受けた将来を担う人材は、国力の源泉です。諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹きつけ、育成しようとしている中で、ひとり我が国だけが投資の削減を続けていては、国際的な競争に打ち勝つことは困難であるのみならず、将来にわたって日本の国力が衰えていく懸念を強く持つところです。現在でも大学等への公財政支出が対GDP比で先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)加盟国中最下位なのです。

≪皆さんと共にある茨城大学の伝統を絶やすことはできません≫

 本学の学生たちは厳しい社会状況の中で知的刺激を受けて目を輝かせて成長しています。本学を巣立つ有為な人材を社会が待っています。共に研究・連携し地域の活性化に期待を寄せる多くの人がいます。そして何よりもこれからの社会を担う将来ある子供たちのために、活力があり、健康的、文化的で持続可能な社会を残していかなければなりません。
 私たちは、その熱意、要請及び責務に応えようと懸命に努力を続けています。本学には約9,700人の学生(含大学院生)等が学び、約1,000人の教職員がその支援に当たっています。毎年2,100人が卒業又は修了し、これまでに合計68,000人が巣立ちました。卒業・修了生は茨城県を中心に活躍し、地域・社会の発展、振興に力を発揮しています。
 関係の皆様方のご理解をいただくとともに、高等教育、学術研究振興関連予算の確保を切に望むものであります。

平成21年11月30日

国立大学法人茨城大学長
池 田 幸 雄

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