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2010年02月03日

嘱託採用拒否撤回裁判控訴審、東京高裁不当判決

被処分者の会

声明

1 本日、東京高等裁判所第4民事部(稲田龍樹裁判長)は、都立高校の教職員13名が卒業式等の国歌斉唱時に校長の職務命令に従わずに起立しなかったことのみを理由に、定年等退職後の再雇用職員(嘱託)としての採用を拒否された事件(東京都君が代嘱託採用拒否事件)について、教職員ら勝訴の東京地裁判決を取消し、教職員らの請求を棄却する不当判決を言い渡した。
2 本件は、東京都教育委員会(都教委)が2003年10月23日付けで全都立学校の校長らに通達を発し(10.23通達)、卒業式・入学式等において国歌斉唱時に教職員らが指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること等を徹底するよう命じて、「日の丸・君が代」の強制を進める中で起きた事件である。
 都立高校では、10.23通達以前には、国歌斉唱の際に起立するかしないか、歌うか歌わないかは各人の内心の自由に委ねられているという説明を式の前に行うなど、国歌斉唱が強制にわたらないような工夫が行われてきた。
 しかし、都教委は、10.23通達後、内心の自由の説明を一切禁止し、式次第や教職員の座席表を事前に提出させ、校長から教職員に事前に職務命令を出させた上、式当日には複数の教育庁職員を派遣して教職員・生徒らの起立・不起立の状況を監視するなどし、全都一律に「日の丸・君が代」の強制を徹底してきた。
 一審原告らは、それぞれが個人としての歴史観・人生観や、長年の教師としての教育観に基づいて、過去に軍国主義思想の精神的支柱として用いられてきた歴史を背負う「日の丸・君が代」自体が受け入れがたいという思い、あるいは、学校行事における「日の丸・君が代」の強制は許されないという思いを強く持っており、そうした自らの思想・良心から、校長の職務命令には従うことができなかった。
 ところが、都教委は、定年等退職後に再雇用職員として引き続き教壇に立つことを希望した一審原告らに対し、卒業式等で校長の職務命令に従わず、国歌斉唱時に起立しなかったことのみを理由に、「勤務成績不良」であるとして、採用を拒否したのである。
3 判決は、国歌斉唱時の起立等を命じる校長の職務命令が憲法19条に違反するかという争点については、2007年2月27日のピアノ事件最高裁第三小法廷判決と同様に、一審原告らが国歌斉唱時の起立を拒否することは、一般的に一審原告らの内心の自由の本質又は核心と不可分に結びつくものではなく、校長の職務命令は、一審原告らの思想・良心を否定する行為を命じるものではないとして、憲法19条違反と認めなかった。
4 また、判決は、校長らの職務命令が、全体的にみて、実質的に都教委が発出させたものであるとは認めたが、都教委による10.23通達及びその後の指導について、地方教育委員会が所管の学校に対して行う教育の内容方法に関する介入は大綱的基準の限度に限られないとし、必要性、合理性が認められる場合に、地教委が、卒業式等の在り方等について具体的に介入することが、改定前教育基本法10条の「不当な支配」に該当するとは言えないと判示した。
5 さらに、判決は、原判決が、本件採用拒否は国歌斉唱時の不起立を極端に過大視したもので、定年まで勤めた一審原告らの勤務成績に関する他の事情をおよそ考慮した形跡がなく、都教委の裁量権を逸脱・濫用していると判断した点についても、公務員の再雇用制度は、新たに公務員として任用する行為であって、再雇用に係る要綱に定める成績要件についての評価及び判断に係る裁量権は、かなりの程度に広いので、その不採用が不法行為を構成するのは例外的であるとし、再雇用を希望する者が抱く期待が法的保護を受ける期待権であるとは解されない、とした。
6 わたしたちは、このような不当判決に対し、強く抗議の意思を表明する。
 まず、判決が「日の丸・君が代」を職務命令をもって強制することを憲法19条違反と認めず、安易にピアノ事件最高裁判決と同様の判示を行ったことについては、憲法の番人としての裁判所の役割を放棄したと評せざるを得ない。
 国歌斉唱時の起立斉唱を拒否することと思想・良心との結びつきを表面的にしか見ようとせず、憲法19条の保障の範囲を狭く押し込めてしまう判決の論理は、精神的自由の根源である思想・良心の自由の保障の意義を没却し、憲法19条を空文化するものであり、根本的に疑問である。
 また、判決が、都教委の10.23通達及び校長らに対する一連の指導等を、改定前教育基本法10条の「不当な支配」にあたらないと判断した点についても、教育への行政の介入の危険に鈍感であり、無批判に行政に追随したものというほかない。1976年の旭川学テ最高裁判決の法理についても、明らかに理解を誤るものである。
 さらに、判決が、従前の運用とかけ離れた恣意的な「選考」が行われた点にも目をつぶり、都教委の行政裁量を過度に尊重したことは、行政に対する司法のチェック機能の放棄である。従前はほとんど全員の希望者(過去に懲戒処分を受けた者を含む)が合格していた再雇用制度について、再雇用希望者の期待権自体を一律に否定した判決は、裁判所の極めて保守的な姿勢を示している。
 ただ1度国歌斉唱時に起立しなかっただけで職を失う、そのような異常な事態に対して、司法が法と良識に基づいて歯止めを掛けることができなかったことは、誠に残念というほかない。
 わたしたちは、この不当判決に対して速やかに上告を行い、最高裁において断固として闘い続ける所存である。
7 10.23通達及び校長の職務命令を明確に違憲・違法と断じた予防訴訟東京地裁判決(2006.9.21)にもかかわらず、ピアノ事件最高裁判決以降、安易に「日の丸・君が代」の強制を合憲とする不当判決が続いているところであり、極めて憂慮すべき事態である。
 都教委は、予防訴訟判決後も、「日の丸・君が代」の強制を全く改めようとしておらず、不起立等を理由とする懲戒処分や、不起立を理由にした再雇用拒否、再発防止研修命令等を毎年繰り返している。
 わたしたちの事件の後にも、同様の再雇用拒否等を受けた教職員による訴訟が裁判所で複数係属している。
 しかし、そのような都教委の姿勢が誤っていることは、今後の関連訴訟(予防訴訟控訴審、君が代強制解雇事件控訴審、東京「君が代」裁判控訴審等)や、本件の上告審で、遠からず明らかになるものと確信している。
 今後とも、教育現場での「日の丸・君が代」の強制に反対するわたしたちの訴えに対し、皆様のご支援をぜひともいただきたく、広く呼びかける次第である。
 
2010年1月28日
東京都君が代嘱託採用拒否事件原告団・弁護団

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