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2010年02月04日

横浜市立大学、天下りより出向が問題

横浜市立大学教員組合
 ∟●組合ニュース、2010.2.1

●大学職員

 昨年末の組合ニュースでも紹介させて頂いた、『全大教新聞』の2009年12月10日号の記事(http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/kumiai-news/zendaikyo091210.jpg)が、ご好評をいただいているようで、こそばゆい限りである。各方面からご注目頂いた図表の横にもきちんと示してあるのだが、このグラフは、2001年6月9日の『日本経済新聞』に山本真一筑波大学教授(現広島大学教授)が寄せられた文章の中にあったデータをグラフ化したものに過ぎない。組合が市場原理主義の本拠地とも揶揄される日経を肯定的に引用するのも珍しいかもしれないが、さらに付け加えるならば、この山本真一という方は、大学教育に関する多くの著書をお持ちではあるものの、出自は文部官僚である。

 この文章の中で山本氏は「国公立の事務局長はその年数が極端に短い。その上、公立では中堅職員についても短い」「公立では、昨日まで知事部局に勤務していた「素人」の職員が、人事異動の一貫でたまたま大学に来ているという状況があるからである」(「」も原典のまま)と指摘した上で、「公立では、大学職員そのものの専門性育成が課題ではあるまいか」とまで言い切っている。さらにこの文章を踏まえて日経は「国公立大学が独立行政法人化されれば、経営手腕のない大学は生き残れなくなる。人事システムの見直しが必要だ」としている。

 今回の大学破壊を肯定的にとらえる一般教員が一人もいないことは明らかだが、唯一よかったことがあったとすれば、入試、教務などの大学の生命線における、市派遣職員から専門職へのポストの置き換えだったかもしれない。学生課で学生を知り、教務課でカリキュラムを組み、入試課で社会の評価を実感する職員が、人事課、経営企画課などの間接業務にまで進むようになったらどれだけすばらしいだろうと、私学では当然のことに小さな夢を抱いた一般教員もいる。そして独立行政法人化にはそのような方向性があったはずである。

 人を育てることがその主要任務である大学において、自前の固有職すら育てられないのでは、鼎の軽重が問われることになる。関内の地方公務員が固執する、Professor(教授)、Associate Professor(准教授)に任期制を強いるシステムは、日本を含む世界の非常識であるが、職員に将来展望を持ちづらくさせる任期制を強いるシステムも、特段の能力があるわけでもない出向役人が権力を振るうための具にしかなっていない。

●天下りより出向が問題

 1月28日の各紙の報道によると、横浜市は、OB職員の外郭団体への「天下り」について、年齢、在職期間、役員報酬に上限を設けるなどの見直し案を公表した。本学の理事長、事務局長なども引っかかってくるであろう。但し、対応は十二分に可能である。国立大学のように「きちんと構成員の選挙で選ばれた学長」が理事長を兼務するならばポストすら一つ減らせるわけだし、事務局長も私学から得ることができる。

 しかし、実際のところ、公立大学において天下りより大きな問題は設置者からの出向である。池田輝政、伊藤公一らの大学破壊の率先者はもちろん、独法化以前においても、関内での出世のみを狙って、短期的な功を焦り、長期的な視点もなく、大学を単なる踏み台としておかしくした輩は多い。

 大学は、一人の学生が過ごす期間だけでも4年間かかるわけで、短期的に異動を繰り返す地方公務員にふさわしい職場ではない。また、公立大学職員になることを望んで公務員試験を受けるものがいるとも思えない。こういった大学職員としての素養がない地方公務員がいじくるから、公立学校は、学校と一蓮托生の教職員が運営する私学に劣ることになってきてしまっているのである。

 独法化前後から脱出する教員が多く、毎年のようにゼミを変えられる学生が相次いだ。私立一流校が多くのOBに愛校心を持たれ、支えてもらえるのは、直接教わった教員が卒業後何年経っても学舎に残っていてくれるからである。強制的な配置転換によって公立高校の水準を私学より貶めた地方公務員は、まったく無反省に、全員任期制を強要して大学にまでその失敗を拡散しているのである。

●文部科学省様助けて下さい

 『朝日新聞』2010年1月10日29面の、文部官僚から東京都品川区立大崎中学校校長に出向している浅田和伸氏へのインタビュー記事である。「教職員の忙しさも実感した。多いと週20コマ近くの授業を抱え、それに加えて事前の準備や提出物の点検、採点をする」「土日も休み無く働く教員がいた」

 「多いと20コマ近く」との表現は、たぶん中学、高校の校時で18コマあたりを指すのであろう。横浜市立高校、神奈川県立高校のコマ負担が、標準16コマで14コマの教員もいるという状況なので、推察がつくところである。

 中学高校の校時18コマは、大学の校時に換算すると9コマである。文部官僚出身の浅田氏は、中学校においてこのコマ数を多すぎるとしているわけだが、指導書もなくリピートの授業もほぼ無いために事前の準備がよりかかり、入試も自前で作らざるを得ず、自分自身の市場価値を維持するために研究を捨て去ることもできない大学教員に、9コマのコマ負担を強いるこの大学のカリキュラムは、浅田氏が指摘する区立中学以上に大問題である。実際、大学における9コマ36単位とは、履修する学生にすら週36時間の学習が必要とされる時間である。教師に9コマを負担させれば、要求される書類書きや最低限の会議参加だけで、確実に労基法が定める40時間を超える。

 全国の労働者の休職率が0.5%程度なのに対して、東京都の公立学校教員の休職率が1%にもなり問題視されている(2009年11月の各紙報道)わけだが、本学八景キャンパスの教員の休職率はその数倍である。独法化前はほとんど休職者がいなかったわけで、強要する任期制に過剰なコマ負担、人事無策の責任は支配者たる横浜市派遣職員が取らねばならない。……


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