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2010年04月08日

国際人権A規約第13条の会・大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会、政府宛「国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書」

13条の会と大学評価学会特別委員会の要請行動
国際人権A規約第13条の会、内閣総理大臣鳩山由紀夫要請書
大学評価学会・国際人権A規約第13条問題特別委員会、国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書

13条の会と大学評価学会特別委員会が共同で要請行動を行いました

 2010年3月15日(月)、国際人権A規約第13条の会(13条の会)と大学評価学会・国際人権A規約第13条問題特別委員会(大学評価学会特別委員会)は、2団体で共同して、「高等教育における無償教育の漸進的導入」の問題で関係機関への要請行動を行いました。要請先は、内閣総理大臣と文部科学大臣であり、民主党幹事長室と文部科学大臣政務官を訪問し、要請文を手渡しました。
 民主党幹事長室では、文部科学省担当の広野ただし副幹事長が応対してくださり、約30分にわたって懇談しました。副幹事長からは、「財政的に困難な状況なもとで、まずは高校教育から実質的に無償化に着手したところである」「要請の趣旨は政府にしっかりとお伝えする」などの発言がありました。参加者は、「2010年度予算案では、高等教育予算を充実させていく展望が見えない」「若者を励ますような姿勢を明確に示してほしい」「学生や父母の経済的困難は深刻さを増しており、まったなしの状況である」などと述べ、「留保」の撤回と、高等教育予算の増額、「無償教育の漸進的導入」の推進を強く求めました。
 文部科学大臣への要請では、高井美穂政務官が対応してくださり、執務の合間の慌ただしい時間でしたが、約20分間懇談することができました。政務官からは、「給付型の奨学金を前向きに検討していきたい」「財政支出を増額していくためには、国民が納得してくれる高等教育の質が求められている」「外務省からは、中等教育に関する13条2項(b)のみ『留保』を撤回する案も出されているが、われわれとしては(c)を含め前向きに考えていきたい」などと、率直な見解が示されました。政務官との懇談では、限られた時間の中でしたが、高等教育のありようについても突っ込んだ意見交換が行われました。
 このほか、要請行動の合間に、文部科学省の記者クラブで記者会見を行い、マスコミ各社に対し、要請行動の趣旨と「高等教育における無償教育の漸進的導入」の重要性を伝えました。参加した記者からも質問が寄せられました。また、参議院文教科学委員会委員の藤谷光信議員を訪問し、懇談しました。
 ここで少し個人的な印象を、2点に限って述べさせていただきます。まず、今回の要請を通じて、新政権が誕生したとはいえ、そして、国際人権A規約第13条2項(b)(c)の「留保」撤回を公約した政党が国会で多数を占めているとはいえ、これを実現させるには、わたしたちの運動と研究が重要であるということを痛感したということです。
 そして、高学費政策を転換させ「無償教育の漸進的導入」を推進していくだけでなく、「競争的な教育」を転換させていく課題を正面に据えることの重要性です。受益者負担論と自己責任論は一体的なものであり、この両者を克服していくことが必要です。「お金をかけても学ばない人間がいる。だから、税金は使えない」がごとくの論調がありますが、子どもたち、若者が苦しんでいる現状を社会的に捉えることが大切です。教育を権利としてとらえるとともに、社会との関係でとらえていくことの重要性を改めて感じました。
 今回の要請行動には、13条の会から代表の三輪定宣さん(千葉大学名誉教授)、碓井敏正さん(京都橘大学)ほかが参加しました。大学評価学会特別委員会からは、特別委員会代表の重本直利さん(龍谷大学)ほかが参加しました。
 要請行動が実現するに際しては、水岡俊一参議院議員および種田豊秘書のご協力を得ました。記して御礼申し上げます。      (文責:細川孝(13条の会運営委員会代表))

* 以下は、2団体の要請文です。川端達夫文部科学大臣宛の文書も同じ内容です。

2010年3月15日

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様

国際人権A規約第13条の会     
代表 三輪 定宣(千葉大学名誉教授)
碓井 敏正(京都橘大学教授)

要請

 第174国会の施政方針演説(1月29日)で鳩山由紀夫首相は、「……すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます。……」と述べられました。わたしたちは、今回の首相の発言を全面的に支持し、これを心より歓迎いたします。
 ぜひ本国会において、国際人権規約A規約(社会権規約)第13条2項(b)(c)の「特に、無償教育の漸進的な導入により」により拘束されない権利に関する「留保」を撤回することを求めるものです。そして、「無償教育の漸進的導入」のための施策を推進されることを求めます。

1.2009年8月の衆議院選挙で示された民意
 この間の急激な経済状況の悪化のもとで、格差・貧困問題はよりいっそう深刻化し、「構造改革」の矛盾は誰の目にも明らかとなりました。先に行われた総選挙では、これまでの政治のあり方に反省を求める民意が明確に示され、民主党を中心とする政権の発足につながりました。選挙の争点となり、国民から大きな期待が寄せられたのが、教育政策であります。政権発足後、政府は後期中等教育(高校教育)の無償化に着手されたのです。

2.国際社会から見直しを迫られる「留保」
 日本政府は、1979年に国際人権規約A規約(社会権規約)を批准する際に、上記の通り「留保」を宣言しました。この審議の際には「留保については諸般の動向をみて検討すること」が、そして1984年7月には「諸般の動向をみて留保の解除を検討すること」が、いずれも全会派によって附帯決議されています。
 以来30年間にわたって日本政府は「留保」を続けるだけでなく、「無償教育の漸進的導入」の理念に逆行する「有償教育の急進的高騰」を進めてきました。このようなもとで、国際社会からは、「留保」の撤回を求められるところとなっていることは周知の事実です。 
 しかしながら、昨年12月に国連の社会権規約委員会に提出された「政府報告書」では、「留保」撤回の意思は示されておりません。国連人権理事会の理事国として、そして日本国憲法をもつ国として、早急に是正されなければならないと考えるものです。

3.21世紀の市民社会にとって不可欠な「無償教育の漸進的導入」
 21世紀の社会は「知識基盤社会」であると言われます。一握りの優秀な人間をつくりだし、その者たちが社会を牽引していくのは、「知識基盤社会」ではありません。市民誰もが豊かな知識を有し、科学的な知識にもとづきながら社会的、人類的な諸課題に連帯して取り組んでいけるような社会が期待されているのです。
 「知識基盤社会」を実現するためには、高等教育までを含め、誰もが安心して学べるよう学習権を保障していくことが欠かせません。このことは国際人権A規約第13条の精神とも合致するものです。21世紀の豊かな市民社会を実現していく上で、高等教育までを含め「無償教育の漸進的導入」を総合的な施策のもとに、計画的に推進していくことが急務となっています。

以上

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿

国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書

 
2010年3月15日
大学評価学会・国際人権A規約第13条問題
特別委員会代表 重本直利(龍谷大学)

要請趣旨(以下の大学という表記には研究機関、短期大学を含む)
2004年4月1日より、文部科学省によって認証された評価機関による大学評価が法的に義務づけられました。言うまでもなく大学評価は教育・研究のありように直結するものです。また、学問の自由、それに基礎づけられた大学の自治の根幹に関わるものです。認証評価機関による評価、その他の評価機関による外部評価を含め大学評価のあり方は、今後の大学の帰趨を決する大きな課題と言えます。この評価にあたって、まず何よりも問われるべきは、その基礎的条件(土台)としての高等教育予算の評価です。周知のようにGDPにしめる日本の高等教育予算は、OECD諸国にくらべ著しく劣っており、速やかにGDP 1.0%水準の確保が求められています。また、この高等教育予算の低さは、国公私立大学の授業料を平均すると世界一の高さになり、国民の教育負担はすでに限度を超えております。1966年12月に国連において採択された国際人権A規約第13条2項Cの「高等教育の漸進的無償化」について、日本国は依然として留保しています(なお同規約批准国中、他の留保国はマダカスカル一国のみです)。2001年における国連の「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の最終見解―日本―」では、日本政府に対して、この「高等教育の漸進的無償化」について、留保撤回に向けてとった具体的な措置を2006年6月30日までに報告することを求めました。しかし、昨年12月に国連の社会権規約委員会に提出された「政府報告書」では、「留保」撤回の意思は示されておりません。また、依然として日本政府および文部科学省はこのための具体的措置を講じておりません。
第174通常国会の施政方針演説(1月29日)で鳩山由紀夫首相は、「すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます」と述べました。大学の教育・研究の具体的営みおよびその評価は、大学の基礎的条件と密接不可分であります。すみやかに、国際人権A規約第13条2項Cの留保撤回および大学の教育・研究の基礎的条件の整備に向けた具体的な措置を講ずることを求めるものです。

要請内容
1)大学の教育・研究に資する高等教育予算のGDP比率が先進諸国水準を大きく下回っていることには、大学評価にあたっての基礎的条件が大きく損なわれていると言えます。早急に先進諸国並の水準を実現するよう求めます。具体的には、今後数年の間に、GDP比率1.0%の達成に向けての数値目標および年次達成目標を設け積極的に取り組んでもらいたい。
2)「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」(1966年12月国連総会採択)第13条2項Cの「高等教育における無償教育の漸進的導入」に対する日本政府の留保をすみやかに撤回し批准してもらいたい。
3)また、上記の留保撤回と批准の後、国公私立大学の現行納付金(入学金、授業料等)の「漸進的無償化」にむけての年次毎の数値目標が設定され、それが実現されるような行政上の具体的な措置を講ずることを求めます。

以上


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