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2013年06月04日

北海道教育大学・学長任命処分取消請求訴訟原告団・弁護団、文部科学大臣宛て「緊急要請書」

平成25年6月3日

文部科学大臣 下村博文 殿

緊 急 要 請 書

北海道教育大学・学長任命処分取消請求訴訟
原告団団長  神田房行
弁護団団長  佐藤博文

要請の趣旨

 北海道教育大学(以下「大学」と言います)より本年5月31日に書類提出された新学科設置認可申請について、以下の点に留意を払い、拙速な審査を行わないよう強く要請します。
 ①大学において教職員の意向を十分に尊重し、大学構成員の意向に基づくものであることが確認されること
 ②北海道の自治体や経済団体、学校、教育・文化関係団体などに情報を提供し、意見を聴取し、地域に根ざし支えられるよう努力しており、これに反するような性急かつ強権的なやり方が行われていないこと

要請の理由

1.弁護団が本要請を行った理由

 私ども原告団及び弁護団は、北海道教育大学において平成23年5月に行われた学長選挙において、現職学長だった本間謙二氏が、教職員による意向投票で208票対250票と敗北したにもかかわらず、同学長任命に係る委員が過半数を占める学長選考会議で"敗者復活"の「選考決定」を下し、学長選考会議がその理由すら明らかにしないことに対して、違法無効であるとして裁判に訴えております。現在、札幌高等裁判所に係属中です。(裁判の内容については、同封の新聞記事を参照)
 この裁判で実質的に問われていることは、4年間の在任中、専断的な大学運営を行ってきた現職学長に対して教職員の明確なノーの意思が示されたにもかかわらず再任されたのは何故かということです。例えて言えば、学級委員長選挙で子ども達の投票で1位になった子を、担任教諭が理由も明らかにせず2位の子を委員長に指名したようなものです。大学の命である「自由」「真実」「自治」はどこに行ったのでしょう。
 この専断的な大学運営の1つに、平成18年から始まる「函館校新学部構想」問題があります。私たちは、訴訟の中で、重要かつ象徴的な問題として主張してきました。
 これが、今年3月末から本間学長が強行した「函館校の再編計画」により、さらに新たな問題に直面しており、他キャンパスにおいても同種の問題を抱えております。
 そこで、私たちは、重大かつ緊急を要すると考え、貴省にかかる事実を知らせ、認可の判断及び大学に対する指導に誤りのないよう要請するものです。

2.北海道教育大学の改革に関わる問題点

  大学の改革に伴い、次のような問題が挙がっています。
(1)大学は、一体改革を求められながら、函館校と岩見沢校の新課程の学部化構想を先行させました。そのため、「学部」が「学科」になった現在、教員養成と新学科の構想に整合性がなくなっています。その調整を、現在の大学執行部は怠っています。

(2)教員養成改革の検討は暫くの間進んでいませんでした。大学が当初めざしていた平成27年度改革実施も危うい状態です。ところが、最近、大学執行部より、「平成26年度から」という提案がありました(5月14日、教員養成課程改革部会)。教員養成課程の複数キャンパスは反対していますが、今後も同様の提案が繰り返されるおそれがあり、大学執行部の計画性のなさが露呈されています。

(3)上記の教員養成改革に関して、全学の関連部会で話し合っていることと異なる学長案が提案されました。たとえば、釧路校では、現在、3専攻で教育を行っていますが、学長案では、3専攻のうち、釧路校の目玉として地域に最も密着した「地域教育開発専攻」を外した2専攻にされていました。それは、釧路校の教授会の意見を無視した提案であり、釧路校からは強い反対意見が出され、その案を引っ込めざるを得ませんでした。しかし学長が完全に断念したわけではないことは、その後の対応から明らかです。

(4)札幌校は、以前より改革の理念と方向性を提案しているにもかかわらず、大学執行部はそれを検討してきませんでした。改革を実施するためには、新たなカリキュラム、入試、課程認定のための人事計画の策定が不可欠ですが、学長側は、それらのすべてにおいて成案を示さず、この5月14日に性急な改革を要求してきており、札幌校教授会では多くの反対意見が出ています。

3.喫緊の課題である、函館校の改革に関して

(1)大学は、平成18年4月から、大きな改組により教員養成課程を札幌校、旭川校、釧路校に集約し、新課程(教養系で教員免許取得を卒業要件としない課程)のうち、芸術・スポーツ系を岩見沢校に、残りを「人間地域科学課程(1学年の学生定員330名)」として函館校に集約しました。
 この改組は、函館校から、長い伝統と実績を誇り、地域の二-ズも極めて大きい教員養成課程をなくして、教員需要に対する「緩衝装置」としての役割のみとし、いつ廃止の方針が出るか分からない新課程を函館校に集約するものでした。
 強い反対がありましたが、将来の「学部化」と小学校・特別支援学校・幼稚園教員(以下「小学校等教員」とします)養成機能の維持、学生定員比で学生4名に1名の教員を保証することなどを条件として、函館校は渋々計画を飲まされました。

(2)このように、函館校の「学部化」は北海道教育大学の既定方針であり、新課程の集約を引き受けざるを得なくなった時の約束でした。そのために、改組後すぐに学部化について文科省と協議を始めましたが、「改組したばかりで時期尚早」と実質的に門前払いにあい、学部化の方針は凍結され、全学的に議論さえされませんでした。
 その後、平成21年10月に至り、当時の文科省の高官らが函館校を視察したのを機に学長の言葉を借りるならば「時機到来」とばかり学部化検討が始まり、準備運動なしに学部化に向けた全力疾走が始まりました。
 計画は二転三転し、本間学長は、函館校の意向を無視し、地元に情報を提供したり意見聴取をしたりすることなく、平成24年5月31日、小学校等教員養成の教育課程を外し、「国際地域学部(1学科3コース。1学年の学生定員230名)」のみで設置認可申請をするという暴挙を行いました。

(3)しかし、上記申請は通らず、平成25年度における函館校(と岩見沢校)の学部化は文科省段階で保留とされ、本間学長は1年の先送りを表明しました。これは、性急で拙速な本間学長の行為が招いたものであり、結果的に函館校教職員のみならず、学外、とくに受験生や高校に大きな混乱を与えるものでした。
 当然ながら本間学長の方針には、函館校教職員の反発だけでなく、特に小学校教員養成機能を無くすることに対する道南地域の反対が強く、反対署名は3万6千人分も集まりました。

(4)学内外のこれらの声を受けて、函館校教授会は、平成24年9月14日本間学長の方針に反対して、「小学校等教員養成の維持など、函館校に相応しい学部化と、必要に応じて現課程の改組を検討する等、必要な時間を掛けて事にあたる」ことを決定し、その後一貫してこの方針を貫いてきました。
 具体的には、函館校教授会は、学生定員を現在の330名から320名とし、うち小学校等教員養成を含む教育課程の定員を60名から70名にするという案を出しています。実績のある教員養成(特に小学校教員養成)にこそ函館校のアドバンテージがあるという考えです。そして、平成27年度からの改組を目指し、それまで、正規の、透明性ある新採用人事選考を行うなど、議論と準備を尽くすという考え方です。

(5)こうした函館校の意向に再度反して、今年3月下旬、本間学長は、全学将来計画会議で函館校新学科構想を提示しました。それは、教員養成機能を残すことにしましたが、定員数を330名から280名にし、教員養成課程は60名から40名に、いずれも大幅に減員するというもので、しかも平成26年度から実施するというものです。そのために、昨年の学部化構想と同様に、前述した、正規の、透明性ある新採用人事選考を行わないまま、「今回改組しなければ、<ミッションの再定義>で函館校に関して何も書けない」「函館校は更地になる」等の発言を繰り返し、本年5月末までに文科省に設置認可申請をするとして、平成27年度改組を強く要望した函館校教授会の意向を無脱して本部の指示を強行してきています。

4.結論

(1)以上で明らかなように学長の性急かつ強権的なやり方により、大学全体で多くの問題が起こっています。特に函館校に関して、もともと本間学長は、同校の小学校等教員養成機能を維持するという姿勢がなく、むしろ廃止してもよいという行動を取ってきました。今回の「再編案」は、大学内外の世論に押されて小学校等教員養成機能を残したものの、教員養成課程を持つ他のキャンパスとの調整及び函館キャンパス内の議論が絶対的に足りず、合意形成が不十分であるのは明らかです。平成27年度改組を目指すキャンパスの意向を尊重し、大学全体の合意形成を丁寧に行わなければ、同大学が「沈没」する危険性もあります。

(2)そもそも本間学長は、今年9月30日に2期目の任期満了を迎えており、本来ならば新しい学長に交替する立場です。ところが、先日5月31日に行われた学長選考会議は、学長選考規則の例外規定を適用して、教職員の意向投票なしての本間学長の再々任を、強い反対意見を押し切って強行採決で決めました。当然、大学内外から強い抗議の声が上がっています。
 2年前の意向投票で大敗した学長が、教職員が反対している政策を、頭越しに強行するやり方で、あるべき「大学改革」が実現できるとは考えられません。学長は、新学科設置認可申請の経過について、全教職員に「学長メッセージ」を発信していますが、拙速で頭ごなしに進めてきたことについて、改善の意志や反省は一切見受けられず、今後も同様な強権的押しつけが行われるのは明らかです。

(3)以上より、要請の趣旨記載のとおりの要請を行うものです。

同 封 資 料

1。毎日新聞
2.函館新聞
3.北海道新聞
平成25年1月6日付朝刊
平成25年4月13日付
平成25年4月14日付朝刊

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