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2013年07月02日

27歳で返済1000万円、膨らむ奨学金 貧困の連鎖

毎日新聞(2013年06月20日北海道朝刊)

「高支持率」のウラで:検証・安倍政権/5 27歳で返済1000万円

 ◇膨らむ奨学金、貧困の連鎖

 「このままでは返済額が金利を含めて1000万円を超す。月五、六万円返して20年かかる」。北海道内の私立大から北海道大大学院に2011年春に進学した修士課程2年の男子学生(27)は、膨らんだ奨学金に肩を落とした。大学で月10万円、大学院で18万円借りた。将来を考えると気持ちがふさぎ、ここ数年は体調がすぐれず慢性胃炎を患っている。

 母子家庭のため、家計に余裕がないのは分かっていた。母には頼れず、アルバイトをして生活費を稼いできた。「私がいくら努力しても解決できる問題ではない」と声を落とした。

 大学院で専攻する社会学の研究テーマは「奨学金返済者の生活について」。奨学金を借りた学生がどう返済しているのか生活実態を探るのが狙いだ。だが、半年間の休学を含めて大学院在学3年目となり、2年間の奨学金は秋からもらえなくなる。取りあえず返済を猶予してもらうため再度休学し、将来のことをじっくり考え直すしかない。

 学生らが利用する日本学生支援機構の奨学金の貸与総額は年々増えて1兆円を超す。比例して返済の滞納も増え、裁判所への支払い督促申し立ては11年度に1万件を突破した。就職できても非正規雇用で、しかも低賃金の現実が返済の厳しさに拍車をかけている。経済的な理由で進学を諦める若者も多い。

 国に子どもの貧困対策を求め、若者たちが5月18日に東京都渋谷区の代々木公園に集まった。あしなが育英会などが呼びかけたもので、デモ行進しながら「子どもの貧困をなくせ」と叫んだ。

 札幌大2年の上口赳司(たけし)さん(19)も初めてデモに参加した。小学1年で母親を病気で亡くし、中学3年で父親の会社が倒産。父は幸い再就職先が見つかったが、上口さんは高校時代から奨学金の世話になり、今はあしなが育英会と学生支援機構合わせて月12万円を借りている。

 与野党の国会議員は貧困家庭の子どもも健やかに育つ環境を整え、教育の機会均等と就労支援を図るため、子どもの貧困対策法案を今国会に提出し、19日成立した。

 上口さんには、昨年あったあしなが育英会の集いで高校2年の女子高生が「ゲームクリエーターになりたい。卒業後は専門学校で勉強したい」と夢あふれる表情で語ったのが忘れられない。しかし、専門学校の学費が払えるだろうか。自分と同じように、高校3年になると進学すべきか悩むだろう。そのつらさが痛いほど分かる。

 上口さんは7月2日の誕生日で20歳になり、選挙権を持つ。貧困対策を進める法案が成立したが、若者の苦しい境遇はどこまで変わるか分からない。初めての1票は「子どもの貧困に国を挙げて取り組もうとする人に投票したい」と考えている。【千々部一好】

■ことば
 ◇日本の奨学金

 日本学生支援機構の奨学金利用者は2011年度時点で129万人いる。現在の奨学金は無利子の「第1種」と年利が最高3%の「第2種」があり、第2種が全体の7割を超す。滞納者は全体の約1割で、3カ月滞納すれば延滞料10%が加算され、クレジットカードなどが利用できなくなる。大学の学費が安い欧州や、給付型奨学金が充実している米国と異なり、日本は私費負担が原則だ。


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