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2013年07月19日

「地方自治」による「大学の自治」の圧殺 ―東京都立大学の解体―

首大非就任者の会
 ∟●「地方自治」による「大学の自治」の圧殺 ―東京都立大学の解体―

「地方自治」による「大学の自治」の圧殺 ―東京都立大学の解体―

立教大学法務研究科 人見 剛
2013.5.19


(経済科学通信131号(2013年4月号)40頁~46頁【掲載特別許可取得済】)

はじめに

 2012年9月、大都市地域における特別区の設置に関する法律*1が成立し、橋下徹大阪市長肝いりの大阪都構想を実現する法制度の基盤が整えられるに至った*2。もっとも、「大阪から日本を変える」と謳って大阪府民・大阪市民の支持を集めた橋下氏であるが、衆議院に54議席を持つ国政政党たる日本維新の会の共同代表となった今や、これまでの言動を維持して自治体の首長に留まるかは大いに疑問符が付こう。「2万パーセントない」と言っていた知事選に出馬をし、また知事就任後、議会対策に手を焼いたためなのか、地方議員の執行機関の幹部職員への登用という自治体統治システムにおける議院内閣制的要素の強化という重大な問題提起をしていたにも拘わらず、自身の議会基盤が整うとその後は、この点に全く黙するようになっているのであるから、大阪「都」構想も同じように雲散霧消しないとも限らない。

 さて、この点は措き、本稿が主題とする公立大学改革について、大阪府知事時代に橋下氏が著した著作『体制維新―大阪都』をみてみたい*3。

 まず、大阪「都」構想の主要な根拠の一つとされている大阪府と大阪市の二重行政の解消の一例として大学が挙げられている。「都道府県立並の体育館も図書館も大学も浄水場も、狭い大阪府域内に、府立と市立の両方があり非効率な形態になっています*4。」

 そして、その大阪の公立2大学(大阪府立大学と大阪市立大学)を、都立4大学(東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、東京都立短期大学)を押し潰して設立された首都大学東京と比べて次のように述べている。「全国で二番目に狭い大阪府域内に、普通なら都道府県に一つしかないような大規模施設が、二つあることが問題なのです。公立の総合大学も府立、市立の二つ。大阪より巨大な都市である東京都でも首都大学東京の一つです。首都大学東京一つにかかっている東京都の財政負担は年間約120億円。一方府立大学への大阪府の財政負担は約100億円、市立大学への大阪市の財政負担は約108億円(全て10年度)です。合わせると合計208億円にもなり、大阪全体としては公立総合大学に東京都以上に税金を投入していることになるのです。東京ですら約120億円なのに。大阪府庁も、大阪市役所も大阪全体のことなど気にしていない。自分の所管する大学のことだけを意識しているのです*5。」

 かくして、大阪の公立2大学の統合が唱えられることになる。「府立大学・市立大学も経営統合し、公立総合大学では日本でナンバー1となります。投じられている税金は、現在でも大阪府・市合わせて年約200億円。首都大学東京の2倍近くです。これだけのお金を集中して効率よく使えば、統合した公立大阪大学は、アジアの大学競争の中で確実に勝ち残ることができます*6。」

 さて、問題は、こうした大学の統合それ自体ではない。統合して成る新たな大学が如何なる大学になるのか、そして、それに大学人の意思がどのように反映されるのか、という大学の自治の問題である。本稿は、橋下氏と政治的タッグを組んでいる石原慎太郎氏*7と大阪市特別顧問であった中田宏氏が、それぞれ東京都知事、横浜市長として10年ほど前に行った大学「改革」を振り返ってみることも何らかの参考になると考え、筆者が実際に経験した都立大学破壊のプロセスの一端を紹介するものである*8。横浜市立大学の事態については、吉岡直人『さらば、公立大学法人横浜市立大学―「改革」という名の大学破壊』(下田出版、2009年)という詳細で貴重な書籍があるので、是非これを参照願いたい。

……以下,略……


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