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2013年07月29日

天使大学不当労働行為事件、地労委命令 救済とポストノーチスを求める

北海道
 ∟●北海道労働委員会・最近の命令

■ 平成25年に交付した命令

 ○ 天使大学事件(平成23年道委不第31号) 新規

 組合は法人に対し、組合員のハラスメント事案に関する労働環境調整義務の履行及び懲戒委員会規定等の改定を交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、法人は団体交渉事項に該当しないなどとして、団体交渉を拒否した。また、法人は組合の空き室利用について、その使用許可を理事長決裁として、他の団体に対するよりも重い要件を課した。
  これらが不当労働行為であるとして申立てがあった。
  さらに、学長が教授会の意見を聞いて組合代表者を法人が設置する天使大学の教務部長に推薦したにもかかわらず、法人は、同人が組合の代表であることを理由として、教務部長に任命することを拒否したことが、不当労働行為であるとして追加申立てがあった。
 当委員会は、これら申立ての一部について救済を命じました。

※ 参考 本件審査の状況
    救済申立日
当初申立て 平成23年12月26日
     追加申立て 平成24年 4月 6日
    命令交付日  平成25年 7月24日

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平成23年道委不第31号天使学園不当労働行為事件命令書(概要)

1 当事者
 (1)申立人  天使大学教職員組合(以下「組合」という。)
 (2)被申立人  学校法人天使学園(以下「法人」という。)

2 事案の概要
(1)組合は、法人に対し、組合員に対するハラスメント事案に関して、配置転換など労  働環境調整義務の履行を求めて団体交渉の申入れを行ったが、法人は「団体交渉事項には該当しない」としてこれを拒否し、その後開催された団体交渉においても、法人は、同様の主張をするほか、「守秘義務の関係で団体交渉には応じられない」などとして、団体交渉を拒否した。
 また、組合は、法人に対し、懲戒委員会規程などの改定について、その再改正を求めて団体交渉の申入れを行ったが、法人は、団体交渉において、「各規程改定については経営権の問題なので団体交渉事項には当たらない」などとして、団体交渉を拒否した。
 法人は、組合の空き室使用について、その使用許可を理事長決裁として、他の団体に対するよりも重い要件を課して、組合の運営事項に対する支配介入をした。
 これらの法人の行為は、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして申立てがなされた。

(2)教授会の承認を得た上で、学長が組合の代表者を教務部長とする推薦を理事会に行 ったところ、理事会は、役員選任を投票により決めることとし、組合代表者について、賛成4票、反対2票、白票3票という結果等により、法人は、同人が組合の代表であることを理由として、教務部長に任命することを拒否した(以下「本件任命拒否」という。)。
 この法人の行為が、組合員に対する不利益取扱いであり、労組法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとして追加申立てがなされた。
(3)以上のほか、法人は、組合は、組合員に人事権を持ち経営上の機密に触れる教授を構成員としており、労組法上の労働組合に該当しない旨主張した。

3 主文要旨
 (1)法人は、組合が申し入れた組合員のハラスメント事案に関する労働環境調整義務の履行及び懲戒委員会規程等の改定を交渉事項とする団体交渉において、それらが団体交渉の対象にはならないとするなど自らの主張に固執することなく、要求事項に対して自らの見解の内容や根拠を具体的かつ明確に示して組合の納得を得るよう努力して、団体交渉に誠実に応じなければならない。

 (2)法人は、上記(1)の行為が不当労働行為であると認定されたので今後繰り返さないようにする趣旨の文を縦1メートル、横1.5メートルの白紙にかい書で明瞭に記載して、法人の学内公用掲示板に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。

4 判断要旨
(1)組合は、労組法上の救済適格を有するか否か。(争点5)
 ア 法人は、組合が労組法第2条ただし書第1号に該当して自主性要件を欠くから、労組法の労働組合ではないと主張するので、まず、この点について検討する。
 同号の趣旨は、労働組合の自主性確保の見地から、使用者の利益代表者を参加させてはならないとするものであり、その解釈に当たっては、当該労働組合の自主性が確保されるか否かとの見地から実質的に判断されるべきである。
 イ 法人は、天使大学(以下「大学」という。)の教授は、「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」(労組法第2条ただし書第1号)に該当すると主張する。ここで「直接の権限を持つ」者とは、労働者の地位身分を決定変更する事項について、直接決定する権限をもつ者のことであり、人事権限を有するとしても、それが間接的なものにとどまる者は「直接の権限を持つ者」とは言えず、これに該当しない。
 大学の教授は教員の採用及び昇任手続に関して、特別教授会の構成員として、その特別教授会の議に参加する立場にあるが、それは理事会の議決に当たりその意見形成に間接的に関与するものにとどまるのであって、かかる特別教授会の構成員であることをもって、上記の「直接の権限を持つ」者とは認めることができない。
 また法人は、大学の教授は、「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者」(労組法第2条ただし書第1号)に該当すると主張する。しかし、大学の教授が、教員の採用及び昇任手続において候補者の評価、教員の勤務評定等に関する機密の事項に接し、また特別教授会の構成員として、その特別教授会の議に参加するとしても、各教授自身が、法人の人事管理、労務管理の計画と方針の決定に関与する機会を有するものではなく、このような教授会の職務権限からは、その職務上の義務と責任が組合員としての誠意と責任とに直接抵触する者に当たると認めることはできない。
 法人は、教授として自らの専門領域の准教授その他の教職員の監督的地位にあることはいうまでもないとも主張するが、それは労働者としての教職員に対する法人の業務遂行上及び労務管理上も当然に監督的地位にあることを意味しない。
 以上のとおりであるから、争点5に関する法人の主張は認められない。

(2)組合員のハラスメント事案に関する労働環境調整義務の履行要求につき、これを団体交渉事項ではないなどとした法人の対応が、団体交渉の拒否に該当するか否か。(争点1)
 ア 一般的に、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係  の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものについては、義務的団交事項であるということができる。組合員である労働者の労働の環境等も原則として労働条件に該当するということができることから、本件団交申入れの議題である労働環境調整義務の履行については、義務的団交事項であると認めることができる。
 法人は、個別具体的な労働者の問題について、個別の苦情処理手続が設置されている場合には同手続によって処理されるべきであり、法人にはハラスメント調査・解決のための手続が存在しているのであるから、団体交渉において個別的な権利主張を取り上げる必要はないと主張する。
 個別的労働条件に関する事項について、労働協約に基づき労働組合の関与する苦情処理等の別段の手続に委ねることとし、当該事項を団体交渉事項から除外している場合には、そのような取扱いは、団体交渉権保障の趣旨に反しない限りは、許容されるということができる。
 しかし、本件においては上記のような労使協議もなされておらず、法人のバラスメント調査・解決のための手続は、団体交渉の代わりとなる手続と認めることはできないといわざるを得ないことから、同手続があること自体をもって団体交渉を拒否する正当理由にはならない。したがって、法人の上記主張は認められない。

イ 使用者は、団体交渉において、合意達成や譲歩を義務付けられるものではないが、団体交渉を実効的なものにするため、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。すなわち、使用者は、合意を達成するよう自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならない。具体的には、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある。このような義務を果たすことなく、使用者が自己の主張に固執することは、誠意ある交渉態度とはいえず、実質的に団体交渉を拒否したものというべきである。
 法人としては、プライバシー保護に配慮しつつも、X1が主張する職場環境の悪化の具体的な内容を確認するとともに、研究室の移動や配置転換など何らかの対応が必要なのかどうか、何らかの対応や提案が検討できないかどうかなどについて組合と団体交渉において協議し、自己の主張を組合に納得してもらうための努力が必要であったと認められるが、法人は、労働問題と認めないとの主張に固執した態度に終始したといわざるを得ない。また、X2に関する事案についても、解決案が示されてから2か月が経過しており、ハラスメント事案の性質やハラスメント規程においても調査報告の期間も設けられていることからすると、早期の解決案の実施が求められていたということができることから、法人としては解決案の早期実施ができない事情を十分に説明し、その実施目途を含めて、組合の理解を得るための努力が必要であったと認められるが、それが行われず、かえって人事のことも含み経営権にかかわる問題で団体交渉の対象にはならないと回答した。以上のような法人の交渉態度は誠意あるものとは認められないことから、上記のとおり、実質的に団体交渉を拒否したものといわざるを得ない。
 したがって、争点1に係る法人の対応は、法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(3)新ハラスメント規程及び新懲戒委員会規程の改定要求につき、規約改定については経営事項であることなどを理由に、団体交渉事項ではないとした法人の対応が、団体交渉の拒否に該当するか否か。(争点2)
 ア 法人は、旧ハラスメント規程及び旧懲戒委員会規程の改定について、私立学校法改正の趣旨に沿って権限と責任の所在を統一し、懲戒委員会の構成、委員長の選任方法を変更したものに過ぎず、組合員の人事の基準(理由ないし要件)や手続(組合との協議、同意など)を変更したものではなく、労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項には該当しないから、ハラスメント規程及び懲戒委員会規程の改定は義務的団交事項に当たらないと主張する。
 就業規則は、懲戒に関する取扱いについては、懲戒委員会その他の必要事項を別に定めると規定し、これを受けて設けられたのが懲戒委員会規程である。懲戒委員会規程は、懲戒の手続、委員会の構成及び選出区分、委員会の成立・議決などの重要事項を規定しており、懲戒委員会規程は労働条件その他の待遇に関する事項を規定しているということができ、また、ハラスメント規程についても同様であると認められることから、両規程の改定問題は義務的団交事項に該当すると認められる。

 イ 法人は、2回の団体交渉において、懲戒委員会規程の改正の経過等について、一応の説明を行っていることが認められる。 しかし、組合側に説明のないままに改定されているとの指摘や、規程の見直しを求める組合の要求に対しては、団体交渉の対象にはならないとしてそれ以上の協議に応じず、組合に対して規程改正に関する説明等を行う手続を取らなかった理由、懲戒委員会の委員における理事の人数などについて法人が検討したとする内容の詳細、理事会における議論の内容、理事会が事案ごとに適切に選ぶとしている委員の人選の基準を説明したり、組合の要求に応じられない具体的理由を示すなど、その理解を得るための努力がなされているとは認められない。このような法人の交渉態度は誠実なものとは認められず、争点2に係る法人の対応は、実質的な団体交渉拒否に該当し、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(4)組合の空き室利用につき、法人がその利用許可を理事長決裁として、他団体より重い要件を課したことが、組合の運営に対する支配介入に該当するか否か。(争点3)
 組合は、空き室利用許可申請の決裁が、外部団体を含む他団体に対しては事務局長決裁としながら、組合に対してのみ理事長決裁を要するとする法人の対応は、他団体に比して不利益に扱うことになるので、組合の運営に対する支配介入に当たると主張する。
 しかし、法人の具体的な施設管理権の行使の事実が認められない状況のもとで、許可申請書の決裁権者が事務局長か、理事長とされているかという事実だけでは、使用者の組合運営に対する干渉又は弱体化行為であるとまでは評価することができないというべきである。
 したがって、争点3に関する組合の主張は認められず、その請求を棄却するのが相当である。

(5)教授会の承認を得た上で、学長が組合代表者を教務部長とする推薦を理事会に行ったにもかかわらず、理事長が白票の扱いを恣意的に運用するなどして理事会が本件任命拒否をしたことが、組合員への不利益取扱いに該当するか否か。(争点4)
 ア 本件において、組合代表者が組合活動の中心にいたことに争いはなく、教務部長という特定の職制に選考しないということは人事上の不利益取扱いであるということができる。
 そこで以下において、組合が主張する本件任命拒否が、組合代表者が組合員であることないし組合活動を理由として行われたと認められるかどうかを検討する。
イ 組合は、旧選考規程当時、学長が上申した選考結果を理事長が任命拒否した事実がないこと、新年度職制の選考に当たり過去に行われたことのない投票が行われたことなどを指摘し、あたかも投票で否決されたかのように振る舞う理事長の態度からは、恣意的に組合代表者を排除しようとする意図が推認できると主張する。
 新年度職制の選考手続に当たっては、学長の推薦手続及び教授会等の意見聴取手続が、新選考規程に従ってなされていることは明らかである。そして、新選考規程によれば、新年度職制の選考議案は、理事会の審議事項であるとされている。
 新選考規程が「理事長は理事会の議に基づき任命する。」と規定する趣旨は、合議体である理事会の審議に付すことを意味すると解するのが相当であり、したがって、合議体の審議の結果には拘束力があることになる。
 したがって、規定上は理事会の議決がなされることが予定されているということができ、職制の選考に当たり投票を行うことにより理事会の議決を行うことも認められているといわざるを得ない。旧選考規程では、教務部長は学長が指名し学部教授会で選考するとしていたことから、理事会はその選考に関与しておらず、学長が選考による結果に基づく上申を理事長に行った際に、理事長がこれを拒否した事例がないことも、投票を否定する理由とはならない。そして、組合は職制の選考に当たって投票によったことはないと主張するが、新年度職制の選考は新選考規程での最初の選考手続であり、これまで投票がなされていなかったことをもって、投票によったことを問題とすることはできない。
 また、理事会において理事の意見交換もなされる一方、組合代表者が教務部長としては不適切であるとか、組合員であるなどといった発言は、理事会において一切なされていない。
 組合は、白票は保留であり、保留票とは「意思決定を賛否明らかな投票結果に委ねる」という趣旨であると主張するが、証拠上、理事会においてそのような理事の意見が出されたとか、白票をそのように取り扱うと理事会で決めたという事実は認められない。寄附行為の条項からは、表決の際に議場に在って表決権を有する者の数を基礎に、その過半数を要すると解するのが相当であり、組合の主張は証拠上はもとより、寄附行為の条項の解釈としても認め難いものといわざるを得ない。
 以上によると、教務部長として推薦された組合代表者、研究科長(看護栄養)及び専攻主任(栄養)の各候補者は、投票の結果、出席した理事の過半数の賛成を得ることはできなかったと認めるのが相当であり、組合が主張するような恣意的に組合代表者を排除する意図を推認することはできない。

ウ 監事及び理事からの発言を受けて、理事会で議論がなされた結果、投票によって決まらなかった教務部長、研究科長(看護栄養)及び専攻主任(栄養)については、学長と理事長との協議の結果に一任し、その結果を理事会に報告することになったが、この点に関して、組合は、協議の意味について、組合代表者については否決されて、それ以外の者から誰を人選するのかを協議するという意味ではあり得ないと主張する。 しかし、証拠上、白票が反対ではなく保留としてその意思決定を賛否明らかな投票結果に委ねた趣旨であると理事会で決めたと認めることはできない。教務部長を除く2職制については、賛成1票、反対4票、白票4票であったのであるから明らかに理事会において否決されたと認めざるを得ず、教務部長候補の組合代表者も理事会において否決されたと認定するのが相当である。その上で、前記監事と理事の発言も受けて、この3職制について、教学と経営側で十分協議を行うのが望ましいとの理事会の意向から、理事長と学長の協議に委ねられたと認定するのが相当である。
 組合は、上記主張を前提に、「理事長は協議となった意味を全く無視して、その3名については既に否決されているとして、3名以外の者からの人選に固執して、結局それを押し通した」と主張する。そして、「協議となった経緯を全く無視し、協議で検討すべきとされた人選を無視した人選を行った理事長の態度からは、明らかに恣意的に組合代表者を排除しようとする意図が推認できる」と主張する。
 しかし、上記のとおり、組合の主張の前提となる事実が証拠上認め難く、理事会において上記3候補者が否決されたと認めるのが相当であることからすると、組合のこの主張は前提を欠き、理事長が恣意的に組合代表者を排除しようとする意図を有していたと推認することはできない。
 理事長が上記意図を有していたことや、教務部長候補者として学長が推薦した組合代表者を支持することなく、理事長が他の候補者を推した行為が、組合代表者が組合員であること、若しくは労働組合の正当な行為をしたことを理由とするものであることが立証されたとは認め難い。
 また、理事会は、保留とされた教務部長、研究科長(看護栄養)及び専攻主任(栄養)について、理事長と学長間の協議に委ね、最終的に理事長案が理事会に報告されてこれを承認しているが、上記判断からすると合議体である理事会の当該判断についても不当労働行為としての不利益取扱いであるとは証拠上認め難い。
 したがって、本件任命拒否をもって、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するということはできない。

5 審査の経過(調査9回、審問2回)
 (1)申立年月日   平成23年12月26日
  追加申立て   平成24年4月6日
 (2)合議年月日   平成25年6月17日、平成25年6月28日、平成25年7月12日
 (3)命令書(写し)交付年月日  平成25年7月24日


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