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2013年08月09日

早稲田大学が今度は無期転換回避で迷走中? さらに私大連合会がアパルトヘイト化を要請

首都圏大学非常勤講師組合
 ∟●『控室』(2013年7月24日)

早稲田大学が今度は無期転換回避で迷走中?
さらに私大連合会がアパルトヘイト化を要請

 早稲田大学は今春、突然非常勤講師の就業規則を制定し5年の更新上限をつけたため、労基法90条違反として4/8に当組合委員長・松村比奈子と早稲田大学名誉教授・佐藤昭夫両氏に刑事告発され、6/21に非常勤講師ら15名に刑事告訴されました(なお東京検察庁は6/4に告発を正式受理)。すると早稲田大学は、今度はクーリング(期間)を入れることを非常勤講師らに強要し始めています。また日本私立大学団体連合会は6/26、文科大臣に対し、私立大学の全有期契約労働者について労働契約法の適用除外を要請しました。 7/10、当組合はこれらを厚労省にて記者会見で公表しました。

(1)事実の概要
 具体的には、法学部で「今後の授業計画に関するアンケート」と称して、6ヶ月の空白期間を空ければ再契約すると誘導し、どの時期に空けるかを申告させようとしています。しかもそれは「労働基準法(ママ)の改訂」のためであり、英文版の説明メールでは、労働法令を守るためとも説明しています。また日本私立大学団体連合会は6/26、文部科学大臣に対し大学の特殊性を訴え、私立大学の「有期契約労働者」の労働契約法からの適用除外を要望しました。これは大学におけるアパルトヘイト体制の要求に他なりません。

(2)クーリング期間強要の背景
 有期雇用労働者の契約更新が5年を超えた場合、労働者の申込みにより無期雇用に転換できるという5年ルールが新たに導入された改正労働契約法が4/1から施行されました。ただし6ヶ月以上の「クーリング」期間があれば、通算契約期間に含まれないとされています。この法改正で、複数の大学で非常勤の契約に新たに上限を設ける動きがあります。

(3)「今後の授業計画に関するアンケート」
 7月初め、早稲田大学・法学部の語学関係の非常勤講師たちに対し、「今後の授業計画に関するアンケート」が配布されました。そこには「労働基準法(ママ)の改訂」のためと称して、5年更新で契約を打ち切るが「一且六ヶ月の休職期間を置いたのちに再契約を結ぶという方針」が示されたとしています(しかしそのような方針は今まで公表されたことはありません)。しかも「5年継続して勤められたならば、1学期の間お休みしていただくということになります」とし、非常勤講師たちに、更新してもらいたければ、いわゆる「クーリング(期間)」を置けと要求しています。
 さらに文中では「カウントをリセットするための休職期間」として、複数の学期を選択するよう指示しています。これでは、無期転換を避けるための方策だと公言しているようなものです。つまり厚労省サイトにある「労働契約法改正のあらまし」5ページに記載の「無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換権を放棄させることはできません(法の趣旨から、そのような意思表示は無効と解されます)」に限りなく近い対応です。

 (4)なぜクーリングの強要なのか?
 まず、大学は非常勤講師を必要としており、しかも可能な限り長く働いてもらわなければ困るという事情があります。しかし一方で、有期雇用のままにしておきたいと考えています。そこで早稲田大学は当初、非常勤講師の無期転換を回避するために違法な手続きで就業規則を作り、更新5年上限をかけようとしましたが、これに対し刑事告発・刑事告訴がされました。仮にその就業規則が有効だとしても、4000人の非常勤講師に対して、5年上限を導入するのは非現実的です。2018年に4000人を総入れ替えして大学の質の保証さるとも思えません。また非常勤講師の多くは、すでに何年も契約更新を重ねてきています。その状態で一方的に更新上限を通知しても、労契法19条の期待権が否定されるわけではありません。
 そのため、5年上限以外の方策で無期転換を回避する必要が大学に生じました。それが、今回のクーリングの強要です。

 (5)クーリング強要の矛盾点
 大学は非常勤講師に対して、5年上限の理由を労契法対策ではなく、「Waeda Vision 150」構想により教育研究者の流動性が必要であるからと説明しています。しかし6ヶ月のクーリング後の再契約はその流動性を否定するものです。アンケ-トに添付された英文メールでは、労働法令を守るために行わざるを得ないという趣旨の説明もしています。
 結局、大学の一連の対策の目的は無期転換阻止のみであり、法の趣旨である雇用の安定を否定し、不安定雇用を固定化するためだけに行われています。
 マツダの「派遣切り」地裁判決(2013年3月13日)は、「単にクーリング期間を満たすためだけの方便として導入されたのは明らか」として、雇用身分の変更制度を違法と判示しました。この早稲田大学の件もこれに該当することは明らかです。

 (5)私立大学全体の問題
 しかしこのような異常なまでの無期転換阻止の動きは、私立大学全体に波及しつつあります。日本私立大学団体連合会は6/26、文部科学大臣に対し大学の特殊性を訴え、私立大学の「有期契約労働者」の労契法からの適用除外を求める要望書を提出しました。5年上限・クーリングの強要ができなければ、残るのは法の適用除外です。この要望書では、大学における研究者の流動性・若手研究者の人材育成を根拠にしながら、なぜかこれらとは関係の薄い非常勤講師や非常勤職員を含めた「有期契約労働者」全体の労契法からの適用除外を要望しています。これはまさに期間の定めがあることを理由にした不合理な労働条件の要求(労契法20条違反)であり、かつ大学におけるアパルトヘイト体制の要求に他なりません。
 このような「法の下の平等・社会的身分による差別の禁止」を定めた憲法14条を平気で踏みにじる高等教育機関の要求に対して、組合は今後も徹底抗戦していくつもりです。


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