研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2013年10月11日

狂った日本の奨学金制度、大学卒業のために「720万円の借金(利子付き)」を背負うのは自己責任?

BLOGOS(2013年10月10日)

奨学金問題、最近話題になっていますね。当事者である大学2年生のTさんを取材させていただくことができました。

卒業時に720万円の借金

Tさんは現在大学2年生。都内の大学に通っています。奨学金を利用して、毎月12万円の支援を受けています。諸事情で大学に5年間通うことになったので、12万円×12ヶ月×5年で、計720万円の「支援」を受けることのなっています。彼が利用しているのは無利子の奨学金ではないため、この額に利子が加算されることになります。

卒業時に720万円の借金を背負わせるって、クレイジーすぎやしないでしょうか。しかも利子付き。ぼくは幸い親に学費を出してもらいましたが、自分がそういう状況にあると考えると、リアルにゾッとします。

今は社会人5年目ですが、まだ返済終わってないでしょうね…。毎月5万円返しても144ヶ月、つまり12年ですから(実際には利子があるので、これ以上の期間になります)。

毎月12万円というと結構な額に聞こえますが、このくらいの額は、学費と生活費ですぐに消えてしまいます。特に苦しいのは、勉強のために本を買ったり、イベントに参加するお金まで制限されてしまうことだ、と漏らします。

「本当は都内のイベントとかに参加したいんですけど、郊外に住んでいるのもあって、交通費とか厳しいんですよ。食費も削りながらギリギリで生活しています」

就職に関しても不安があると語ります。話にある通り、奨学金に苦しむ人は、ブラック企業に搾取されやすいのかもしれませんね…。

「ぼくが通っている大学は偏差値がそれほど高くないので、大企業に入ることも難しそうです。会社を選ばなければ就職はできると思いますが、借金があるので、それこそブラック企業でも我慢して働くことになってしまうかもしれません…。将来は途上国関連の仕事をしたいのですが、借金を返すために、選択肢が狭まることが怖いですね」

増えつづける借金を考えると、大学を辞めるという選択肢も浮かび上がってきます。

「今、大学を辞めれば借金は200万円以上少なくて済むんです。就職も不安ですし、自分で稼ぐ力を付けて、いっそ大学を辞めてしまうのが合理的なのかもしれない、と思い始めてきました。もちろんせっかく入った大学なので、卒業したいという思いは強いのですが…。」

話の中で、彼が「こんなんじゃ少子化は解決できないですよね」と漏らしていたのが、まさに、という感じで印象的です。確かに、借金が720万円ある状態では、結婚をする、子育てをするという発想にはなりにくいでしょう。

「奨学金が返せない」のは自己責任なのか?

早速ツイッターでは、「いくらの借金ができるかなどを加味して奨学金は受けるものではないのでしょうか?それをせずに借りたのなら借りた側の責任だと思います」といった主旨のリプライも届いています。

これ、どうなんでしょうね。少なくともTさんの場合は、そもそも「借金をしなければ大学に進学できない」という経済状況のようでした。となると、「いくらの借金ができるかなどを加味して奨学金は受けるものではないのでしょうか?」という論理が正しいとしたら、Tさんは大学進学をそもそも諦めざるをえない、という結論になりかねません。

生まれ落ちた家庭の経済環境は選べませんから、人によっては、自己責任ではないのに、教育の道が断たれることになってしまいます。ぼくはたまたま家庭がそれなりに裕福だったから大学に行けましたが、場合によっては行けなかった、ということです。そういう社会は嫌ですけどねぇ。機会の平等というやつです。

また、「返せると思って借りたけれど、雇用情勢が悪くて返すのが難しくなった」というケースもあるでしょう。「就職できないお前が悪い!」と自己責任を押しつける向きもあるのでしょうけれど、それは流石に酷だと思います。景気が悪いことまで自己責任にするのは無茶な論理です。

NHKの報道によれば現在奨学金の返済を滞納しているのは33万人に上るそうです。長期的には、MOOCのような教育コストを下げるテクノロジーが解決策になるのでしょうけれど、今まさに困っている人に関しては、どのような解決策がありえるのか…話を聞いていて暗鬱な気分になりました。studygiftとかlumniのような、コミュニティ型の支援サービスがうまく補完できればいいですが、これもお金が集まる人とそうでない人の差が出るでしょうしねぇ…。

奨学金問題、引きつづき取材をしていきたいと思います。関連サイト、記事も挙げておきます。

|