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2013年12月06日

大学評価学会、「大学における教育・研究および評価に関連する声明」

大学評価学会
 ∟●大学における教育・研究および評価に関連する声明

大学における教育・研究および評価に関連する声明

2013 年 12 月 4 日 大学評価学会理事会


 大学評価学会は、日本における大学等(大学を含む高等教育機関)の発展を願って、学術団体としての立場から、以下の通り理事会声明を発表します。なお、1.については文部科学大臣宛てに抗議文を、2.については参議院議長および特別委員会宛てに要望書を、3.については関係の委員会宛に反対声明を、送付します。

1.「高校無償化廃止法案」の成立に対する抗議
 11 月 27 日の参議院本会議において、2014 年度から高校授業料の無償制を止め、所得制限を設けるという「高校無償化廃止法案」が可決されました。2010 年度から実現した高校授業料の実質無償化は、わずか 3 年で廃止されることとなりました。
 この「高校無償化廃止法案」のもつ問題点は少なくありませんが、見過ごすことができないのは、2012 年 9 月に日本政府が行った、国際人権規約 A(社会権)規約第 13 条に定める中等教育および高等教育における「無償教育の漸進的導入」に関する「留保」の撤回に逆行するということです。
 大学評価学会は 2004 年 3 月の設立以来、2006 年問題特別委員会(現在の国際人権 A 規約第 13 条特別委員会)を中心にして「無償教育の漸進的導入」を求める学問的探究と社会的なネットワークの構築に力を尽くしてきました。高校授業料の実質無償化に続いて、大学等における「無償教育の漸進的導入」が課題と認識し、学問的営みを続けてきました。
 高等学校等に学ぶ生徒たちに豊かな学びと、大学等へのスムーズな移行を保障していくことは、若者の発達にとって不可欠な課題です。中等教育、高等教育における教育条件を改善し、若者がこれからの社会の中心的な担い手として成長できるような大学づくりをめざす観点から、大学評価学会理事会は、「高校無償化廃止法案」の成立に抗議します。

2.「特定秘密保護法案」の廃案を求める要望
 11 月 26 日の衆議院本会議において、多くの問題点を有する「特定秘密保護法案」が可決されました。与党と幾つかの野党の「修正」を経て、本会議に上程されましたが、この「法案」に関しては、世論調査をみても「反対」が「賛成」を大きく上回っており、国民の民意とかけ離れたものとなっています。マスコミやジャーナリスト、弁護士、研究者などの反対の意見表明も相次いでいます。
 「法案」のもつ問題点は、大学等の評価の在り方とも無関係ではありません。真に意味のある評価には、「特定秘密」などない情報の公開・開示が不可欠です。また、研究分野や研究対象によっては、研究者本人の知らないうちに「処罰」の対象となりかねません。「処罰」の対象は、研究者本人にとどまらず、それを知りうるあらゆる人々、例えば、研究者の家族、研究室に所属する学生や卒業生、大学の情報処理関連の職員、研究機器・備品を納入する業者など、非常に多岐にわたる可能性があります。自律的な改善を図るための評価活動においてさえ特定秘密に該当する研究活動を取り上げることができず、同僚研究者による評価にさらされることさえありません。対象となる研究費を受け入れた場合には秘密裏に処理されることになり、学外から選任された監事や公認会計士の目に触れないようにせざるをえません。
 このように、「特定秘密保護法案」は学術の民主的な発展にとっても阻害要因となるものです。
 大学評価学会は、自主的・主体的な大学評価を通じて、日本の学術を発展せることを願って大学評価の研究を行っています。このような立場からして、大学評価学会理事会は、衆議院で可決された「特定秘密保護法案」はいったん廃案にし、改めて審議しなおすことを求めます。

3.大学における不安定雇用化をいっそう進める「研究開発力強化法改定案」に反対する
 11 月 27 日、衆議院文部科学委員会に「研究開発力強化法改定案」が提出されました。この「法案」は、有期雇用(期間の定めのある)研究者や教員などの雇用を無期雇用に転換する期間を、5 年から 10 年に延長しようとするものです。
 今年 4 月に施行された労働契約法の改定によって、有期雇用を 5 年間継続すれば無期雇用に転換できるルールがつくられました。実際には(企業だけでなく)いくつかの大学でもみられるように法の趣旨を逸脱した動きや脱法的な動きが広がっていますが、労働契約法の改定は積極的な意義をもっています。
 「研究開発力強化法改定案」は、この無期転換ルールを特例条項によって 10 年に延長しようとするものです。「高学歴ワーキングプア」の存在が広く知られるようになっているように、日本の大学や研究機関には、不安定雇用が増大しています。不安定雇用におかれた研究者は賃金等の労働条件が劣悪なだけでなく、さまざまなハラスメントの被害にあったり、短期の任期内で研究業績を量産することを目的とした「ゆがんだ」研究を強いられたりする深刻な問題が生じています。
 いま求められているのは、安定した雇用のもとで研究・教育に専念できる環境の整備です。そのことが日本の学術の発展につながり、ひいては真の意味で国際社会の発展にも寄与できると考えるものです。この点で、「研究開発力強化法改定案」は時代の要請に逆行するものでしかありません。
 大学においてだけでなく、社会的にも不安定雇用の問題は、若者の未来の希望を奪っており、日本社会の今後にとっても喫緊の課題です。「国際競争力強化」の名のもとに、不安定雇用を増大させていくことは、日本社会が直面する困難を増大させるだけです。豊かな教育環境のもとで学生たちが学び、人間らしく働くことのできる社会を実現していくことは、大学関係者の重要な社会的責任の一つです。その一環として、学生たちの教育に携わる者の雇用条件を充実させることは重要な課題です。
 以上のことから、大学評価学会理事会は、研究者や教員などの不安定雇用化をいっそう進める「研究開発力強化法改定案」に反対する立場を表明します。


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