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2013年12月07日

日本学術会議公開シンポジウム、「大学で学ぶ経済学とは--学士課程教育における参照基準を考える」

12月4日 日本学術会議公開シンポジウム「大学で学ぶ経済学とは
--学士課程教育における参照基準を考える」の議事メモ

文責:八木紀一郎・大西広

北原和夫氏(大学教育の分野別質保証委員会企画連絡分科会委員長)の基調報告
・学術会議が「分野別参照基準」の策定に関与した経緯
・参照基準の主な構成要素
・「わが国の科学者の内外に対する代表機関」としての位置づけをもつ日本学術会議が、各分野の学士課程教育の「あるべき姿」を述べた文書。
・誰でも利用できる公共財としての活用
・学習成果の明確化を通じた教育の質保証のための活用

岩本康志氏(経済学分野の参照基準検討分科会分科会委員長)による分科会報告
・「参照基準」は「学習成果」に注目するので、経済学分野での「基本的素養」の同定作業に取り組んだが、独自の研究・調査をする余裕もなかったので、OECD-AHELOとO'Dohey, Street and Weber (2007)に依拠した。
・「経済学の定義」においてはマーシャルの定義を意識して規定し、それに「希少な手段の選択」(ロビンズ)と「ゲーム的状況のもとでの行動」を付加した。
・「経済学に固有な特性」には、「経済学を学んだ学生ならこれを学んでいるはずのもの」に限定し、大学によって「選択の余地があるもの」は書き込まない方針をとった。
⇒「ミクロ」「マクロ」は前者だから書き込むが、「政治経済学」は後者だから書かない。
・163大学(国公立大学54,私立大学109)のうち,Webで不明の31大学を除く132大学を調べたが「政治経済学」がコア科目としてあるのはマイノリティー。「世界のトップ50」では一部大学が調べられなかったが、「政治経済学」をやっているのは東大・京大のみ
・他学問分野では複数の専門分野に分類整理(漏れなく,隈なく)することができるものがあるが,経済学では無理。ので、代表的と思われるものを列挙。あくまでも例示。
・「政治経済学」や「経済史」を排除するかのように捉えられると問題。何も触れないとそう捉えられかねないという危惧もあり、我々は大いに悩んだ。
・分科会原案は「国際的に通用しているものを採り、日本の状況とは距離を置くという立場」。「標準的アプローチ」という言葉も誤解を招きかねないが、他に適当な言葉がない。あれば提案いただきたい。
・「参照基準」は個々の授業科目の直接的な開設指針として供するものではないので、そのような誤解を生む恐れのある具体的叙述は削除したい。

パネリストの発言
本多佑三氏(関西大学)の主張
・「標準的アプローチ」の経済学は役に立っている。このおかげで1929年恐慌のようなひどい状況は避けられるようになった。
・「標準的アプローチ」の経済学は経済学として確立している。
・経済学には学ぶ順序がある。「政治経済学」も重要だが、ミクロ、マクロの後で良い。

八木紀一郎氏(摂南大学)の主張
・原案は「経済学の定義」からして間違っている。早稲田大学経済教育総合研究所/(財)消費者教育支援センターは「第4回生活経済テスト」で「どのような経済システムにおいても、人々が選択しなければならない問題は、」として次の4択問題を出し
①社会の欲求のすべてを満たす方法である。
②希少資源を最適に利用する方法である。
③平等な所得分配を生み出す方法である。
④国の債務を減らすために貯蓄をする方法である。

②を選ばそうとしているが、京大で試験をしたら、他大学におけるより「正答率」が低かった。しかし、何が本当に正しいか。
・我々の要望は以下の点である。
1.自主性・多様性を尊重し、画一化・標準化の促進を避けること
2.ミクロ、マクロ的視角とともに、政治経済学的な視角を経済学教育のなかに位置づけること
3.総合的視野の重要性と経済分析に対する自省
・原案が参照するイギリスのAHELOの文章も「標準的」という言葉は使っておらず、それ以外の考え方の尊重を謳っている。
・岩本報告は、政治経済学をコア科目としている大学は極くわずかというがそんなことはない。国立の経済学部では少なく見積もって8割以上で教えられている。「政治経済学」はAHELOがあげているOutcomesに何ら背反しない。
・学術会議は学者のコミュニティであるはずだが、本原案はそれを代表し得ていない。
・このままでは「廃案」を求めざるを得ない。

多和田真(経済学分野の参照基準検討分科会委員)の主張
・エリート大学でなく、中級以下の大学での教育となった場合、多くを教えられない。ひとつの科目を時間をかけて教えるべきだ。

池尾和人氏(経済学分野の参照基準検討分科会委員)の主張
・何を研究するかは研究者は勝手に決められる。しかし、何を教えるかは基準があってしかるべき
・自分は学生時代に学んだものが役に立たなかった。一時、その母校(京大のこと)に勤めたが、その際も旧態依然たるものあった。
・何でも良いが、学生にはひとつのディシプリンを教えるのが必要
・その際、経済学ではすでに「ミクロ、マクロ」がデファクト・スタンダードとなっているので、それだけを教えればよい。
・「ミクロ」でもギンタスのように政治経済学を扱えるではないか。
・八木氏が紹介した早稲田のテストの正解が②というのはおかしい。

前原金一氏(経済同友会専務理事)の主張
・学生時代に東大で宇野経済学などマルクス経済学を教わったが役に立たなかった。マルクス経済学は過去のものとして学説史・経済史で学べばよい。ソ連・東欧に行って共産圏の実態に触れた。中国もひどい国だ。共産主義が望ましいなどと今では誰も思わない。これらを現在のマルクス経済学者はどう考えているか教えて欲しい。

奥野正寛氏(経済学分野の参照基準検討分科会副委員長)の主張
・八木氏が主張する「政治経済学」の内容は「標準的経済学」でも議論されている。独自のものではない。
・いまの経済学にはゲーム理論もあるので、八木氏の標準的アプローチの理解は狭すぎる。

声明を発表した諸学会代表からの発言
有賀裕二氏(進化経済学会)
・「標準的アプローチ」には問題が多い。今のマーケットでは高頻度取引がアルゴリズムで動いている。 
・個人合理性を基礎にしたミクロ経済学は役立たない。

大西広氏(基礎経済科学研究所)
・誰をパネルに選ぶかで議論が左右されている。経済団体は来ても労働団体は来ていない。
・教育と研究が違うというなら経済教育学会の意見を聞くべきだ。学術団体が何を考え、研究しているかを伝えるのが大学ではないか。「政治経済学者に聞きたい」と前原氏が言ってる内容を授業で伝えようとしている。

水野勝之氏(経済教育学会)
・声明の内容を説明

堂目卓生氏(経済学史学会)
・要望書の内容を説明

その他、フロアーから、西牟田氏(京大)、米田氏(中央大)、前畑氏(桜美林大)、鈴村氏(元学術会議副会長)、橋本氏(富山大)、山本氏(元大東文化大学)からの発言があった。

参考資料
経済学分野の参照基準検討分科会が作成した参照基準原案http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/keizai/pdf/teian_sanshoukijun_220701.pdf


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