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2014年01月27日

大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会、「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明

大学評価学会
 ∟●「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明

「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明


2014年1月23日 大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会


 新聞等の報道によれば、少なくない私立大学が 2014 年 4 月から授業料を値上げするという。「教育環境の充実」が理由とされているようだが、春からの「消費税率の引き上げ」も大きく影響していることは明らかである。したがって、個別大学の責任のみに帰することはできないが、実は条約違反に繋がる重大事態であり、本委員会は厳しく抗議する。

 日本政府は、1979年に国際人権A社会権)規約を批准したにもかかわらず、第13条第2項(b)(c)を留保してきた。すなわち、「無償教育の漸進的導入」(少しずつ無償に近づけていくこと)に係る中等教育および高等教育の箇所である。本委員会のメンバーであった田中昌人(故人・京都大学名誉教授)は『日本の高学費をどうするか』という書を 2005年に世に問い、多くの関係団体が留保撤回を強く主張してきた。国連からも促され、日本政府は 2012年9月11日、留保撤回を行った。したがって、それ以降、外務省ウェブサイト(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html)にも記載されているように、日本は「無償教育の漸進的導入」原則に拘束される立場となっている。有名私学を含む今回の値上げ方針は、留保時に行われた過去の値上げ措置とは異なり、条約違反に繋がる重大事態と言わざるを得ない。

 高学費に依存する文教政策や大学法人経営のありようは、留保撤回とともに見直され、計画的に「無償教育の漸進的導入」が進められなければならない。留保撤回を契機として、大学関係者は学生・国民とともに、政府に対して「無償教育の漸進的導入」原則にふさわしい予算の増額や政策の転換を求めていくべきである。本委員会は、すでに 2012年3月2日、高等教育予算のGDP比率1.2%OECD 平均)への拡大、給与型奨学金の復活、授業料の半額化などを求める声明を公表している(学会 HP http://www.unive.jp/)。

 ところで、日本と同様に高学費であったお隣の韓国では、国民の運動に押されて「学費負担の軽減」が総選挙や首長選挙、大統領選挙の公約となり、現に登録金の半額化・減額化、給与型の国家奨学金の開始、国の教育予算の増加などが進んでいる(大学評価学会『高等教育における「無償教育の漸進的導入」―授業料半額化への日韓の動向と連帯―』2013年、など)。OECD 諸国の中で日本は、高等教育を含む教育機関への公的支出のGDP比率2010年)が韓国の4.8%にも劣る3.6%であり、なんと4年連続の最下位となっている。

 日本では、大学等進学率は 50%超で頭打ちとなっており、ここ数年は漸減傾向を示している。その背景に、高学費と厳しい家計の状況があることは明らかだ。「消費税率の引き上げ」は、家計にいっそうの負担を強いることとなり、進学機会を奪う事態の拡大にも繋がる。若者の学ぶ権利を侵害すれば、日本社会の未来を危うくすることになろう。

 私立大学は公教育を担う存在であり、日本においては大学生のうち 7 割以上が私立大学に学んでいる。このような点で、今回の私立大学の授業料値上げ表明は、個別大学の問題としてのみ受け止めることは出来ず、看過することはできない。留保撤回以降は、個々の学校法人にも「無償教育の漸進的導入」原則を尊重する大学経営が求められている。このことは大学自らが果たすべき社会的責任の一環でもあり、とりわけ巨額の内部留保を有する大手私立大学の社会的責任は重大であろう。

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