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2014年01月14日

慶上智に日大も 私大で相次ぐ「学費値上げ」は妥当なのか

News ポストセブン
 ∟●慶上智に日大も 私大で相次ぐ「学費値上げ」は妥当なのか(2014.01.12)

慶上智に日大も 私大で相次ぐ「学費値上げ」は妥当なのか

 今春から関東・関西の有名私立大学の授業料が軒並みアップする。本当に上げる価値があるのか。親世代がついつい「自分の時代」と勘違いしやすい、大学の授業についてコラムニストのオバタカズユキ氏が考える。
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 大学受験勉強の追い込み期だ。当事者である受験生のあなたには、「このサイトを見ている暇があったら、英単語の1つでも2つでもいいから頭の中に詰めこみなさい」と言いたいが、その親御さんや大学関係者、大学に関心がある方々には広く知っていただいたほうがいい、ちょっと頭の痛い話がある。
 日経新聞(電子版)では12月14日、朝日新聞(DIGITAL)では12月27日に報じていたけれども、この春からあちこちの私立大学が学費を値上げする。これまでも人知れずちまちま上げていた大学はあった。だが、有名どころが次々と値上げを表明、しかも消費税が上がる年に、という事態はニュースだろう。受験生の保護者はさらなる出費の覚悟をしたほうがいい。
 朝日新聞(DIGITAL)の記事をもとに、具体例をいくつかあげると、最も値上げの率が高く目立っているのは日本大学だ。全14学部のうち6学部で、年間の学費を5万~20万円増額するとしている。古い人にとっての日大は「中小企業の社長の息子が行くボンボン大学」というイメージもあるようだが、実はこの大学には学費を抑えた学部が多く、ここ5年間ほどは値上げをしていなかった。だから、これでついにあの日大の学費も首都圏の他の有名私大並みになってしまった、と捉えたほうがいいかもしれない。
 次いで、目立つのは早稲田大学だ。これまで1、2年次から徴収していた計15万円の「基礎教育充実費」を廃止。そのかわりに、新しく「全学グローバル教育費」年間7万円を徴収。4年間で卒業したとしても28万円かかるので、15万円を引き算して13万円の増額だ。また、政治経済学部の授業料は3万円アップ、他の学部の全学年で年間5~7千円の授業料を値上げする。
 他では、上智大学が「教育充実費」を新設し年間2万円増、授業料等も文系で年間7200円、理系で1万3700円の値上げ。明治大学は、5年ぶりに授業料を文系学部で年間5万円、理系学部で4万円の値上げをする。ただし、入学金は8万円減額とのこと。あとマスコミが伝えるところでは、慶應義塾大学、中央大学、青山学院大学、成蹊大学、関西大学が、率は低めだけれども値上げを決めている。
 逆に値上げを据え置くのは、関東では東京理科大、法政大、立教大、専修大あたり。だが、これらの大学はこの数年間でそれなりの学費値上げを行ってきたので、別に良心的なわけでもない。関西の大学も据え置きが多いが、国公立が非常に強いエリアなので、もとが安めの関大以外の私大は他の出方をうかがっていると見たほうがいい。
 値上げの言い分は大学によっていろいろだが、ざっくりまとめてみると次の2つの理由による。1つは、老朽化が進んだ校舎の建て替えや、遠方からの学生を呼び込むための学生寮の増設費が必要だということだ。寮については納得できないでもないが、私大でそんなに建て替えを急ぐような校舎が多いかな、という気はする。オンボロ校舎のまま頑張っている方々の国公立大学を思えば、「私大はまだ見栄えで人寄せできるつもりか」と首をひねる。

 もう1つの値上げ理由は、少人数授業などきめ細やかな教育体制の充実のために必要だという件。これはたしかに、そうなのだろう。ここ10年ほどの間に、「1年次からゼミをやる」というような大学や学部がずいぶん増えた。大教室での老教授による棒読み講義が減り、グループディスカッションをやる授業や、文系でも実習的な色彩の強い授業が増えている。さんざん批判されてきた「マスプロ教育」は減少方向にある。
 学生個人によりきめ細やかな対応をする教育の実践には、当然、人件費が余計にかかる。大学側からしたら1単位あたりの利益率が減るので、学費そのものを上げざるをえないわけだ。
 しかし、である。そのような教育体制に力を入れ始めてしばらく経つが、成果のほどはいかがか。これはデータでなかなか示せない問題だが、大学生や若手社員を取材していて、「大学の勉強は?」と聞いても、「べつに関係ないですよ」という返答が圧倒的に多いのは昔も今も変わらない。むしろ、きめ細やかになったことで、出欠取りが厳しくなり、「意欲もないのに」授業に出る学生が増えている。これは多くの大学教員もぼやいている件だ。
 もちろん、こうした状況について、今はマスプロ教育から少人数教育への過渡期でいずれ内実のともなった大学教育が実現する、という見方もできよう。だが、話が戻るけれども、そのぶん学費値上げは必至なわけだ。
 文部科学省の平成23年度データによると、私立大文系の授業料の平均額は743,699円で、入学料などを含めた初年度納付金の平均額は1,155,405円だ。理系の場合は、授業料が1,040,472円、初年度納付金が1,497,747円。今回の値上げラッシュで、これらの数字はもっと跳ね上がる。
 コストに見合ったリターンという考え方は教育に当てはめるべきではないかもしれないが、これだけの大枚をはたく価値のある大学教育は本当に必要なのか。大学で職を得ている人以外の誰がその価値を求めているのか。逆に学費を下げられるのなら、むしろ昔流のマスプロ教育を増やして、あとは学生の自主性に任せる、といった大学が出て来たっていいのではないか。具体的にかかる金額を見つめていると、そんなことも考えてしまう。
 いまや同学年の半分が大学に進学する時代。でも、この「常識」だって崩れていくかもしれない。あまり注目されていないのだが、大学進学率は2009年に50%超えして以降、2011年の51・0%がピークで、そこからは下がっている。2012年は50.8%で、2013年は49.9%と、実は僅かながら半分を割っている。
 大学進学率の「頭打ち」の原因が、高卒就職率が改善しているせいなのか、なんなのか、明言できている識者はいない。けれどもこれは単純に、親の懐具合が限界に来た、ということなのではないだろうか。
 ちなみに、これもいまひとつ認識されていない話だからつけ加えておく。国立大学の学費である。上記と同じ平成23年度データでは、授業料は535,800円、初年度納付金は817,800 円。こと文系学部に関してなら、私大とものすごい差があるわけではない。貧乏なうちの子が頑張って国立に合格しても、けっこうなお金がなければ通えない。受験生の親が若かった頃とはまるで状況が異なることを、知っておいたほうがいい。


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