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2014年02月24日

未来を奪う大学 立命館、「教育現場における民族差別・ヘイトクライムを危惧する教育関係者の声明」

未来を奪う大学 立命館
change.org

私たち呼びかけ人は、「教育現場における民族差別・ヘイトクライムを危惧する教育関係者の声明」を発表し、全ての教育者、教育機関に、差別を許さないという意思を示すことを呼びかけます。

 教育現場における民族差別・ヘイトクライムを危惧する教育関係者の声明

 日本社会では、民族的マイノリティ、特に在日韓国・朝鮮人に対する暴力や暴言、差別落書きが後を絶たず、地道な人権教育の積み重ねを経てもなお、根絶する ことができていません。それどころか、 政治家の露悪的パフォーマンス、営利を目的とした週刊誌・テレビによる扇情的な報道、著作物の出版によって、むしろ民族差別は勢いを増しています。そして 高校無償化法からの排除など国や自治体の差別的決定が、人々の差別・排除意識を助長してしまっている有様です。

 このようななか、2013年12月13日、立命館大学の授業内で、学生有志が朝鮮学校を高校無償化の対象とするよう求める「文部科学省宛てのメッセージカード」を配布したことに対し、一ヶ月近く経った2014年1月10日、 立命館大学の学生と思われる者が、カードへの記入が強制であったかのような誤情報をツイッター上で流しました。その内容はインターネット上で広がり、便乗 した差別主義者が担当教員への誹謗中傷、ヘイトスピーチを 拡散するという事件が起こりました。また、この件に対して立命館大学は、2014年1月15日 に、担当教員が「嘆願書への署名は任意であること、署名と成績とは無関係であること、そして嘆願書は署名の有無に拘わらず学生団体の担当者が回収すること を、受講生に対しアナウンス」していたことを認めた上で、教員が「誤解」を与えたことは「不適切」であり「指導」をしたとの見解を示しました。

 まず、この点について、朝鮮学校無償化への取り組みを、もし大学として「問題行動」と見なしたとすれば、そのこと自体が、立命館大学は、「子どもの権利条約」第30条 「種族的、宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者が存在する国において、当該少数民族に属し又は原住民である児童は、その集 団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」に、明確に違反していることを認 めたことになります。

 また、差別は人の尊厳を踏みにじり、ヘイトスピーチは人々に底知れぬ恐怖と不安を与えます。差別的デマは、古くは関東大震災直後の朝鮮人 虐殺、近年ではルワンダにおけるフツによるツチの虐殺など、大量虐殺の引き金になります。これらの行為およびその背後にあるヘイトスピーチは社会的に許し てはならず、教育機関にはそのような行為が決して起こらないように教育を行っていく社会的責務があります。

 しかし立命館大学は、見解において学生と思われる者の誤情報を流すという行為やそれに続くヘイトスピ ーチに関して、批判どころか一言も言及することはありませんでした。それどころか、担当教員の行為を「不適切」とし「指導」を行いました。これは、差別行 為を非難することなく見逃した点、今後学生を含む若者一般にあのような書き込みが許容されるものであると”学習”させる点、学生の自治活動や教員の教育活動を委縮させかねない「指導」を行った点で大変問題があります。右翼、差別主義者からの圧力を前に、教育機関としての役割を放棄したと言われても仕方のない行為です。

 ただし、今回の立命館大学の対応を異常なものとして批判するだけでは不十分です。ご存じのとおり、教育機関をめぐる環境は厳しさを増して おり、管理強化はもちろん、教育には本来なじまない競争原理の導入が 図られ、私たち教育労働者は分断、孤立させられています。今回の見解作成に携わった教職員と同じ立場に立たされたとき、誰が自分は違う対応ができたと自信 を持って答えられるでしょうか。この問題を自分たち一人一人の問題、教育労働者の連帯の問題であると捉えない限り、差別との闘いは後退を強いられるでしょ う。

 そして2014年1月22日 に、神戸朝鮮高級学校に不法侵入した者が教員を負傷させるという事件が起こってしまいました。インターネット上や「行動する保守」などによる街宣で物理的 暴力の行使をほのめかす言葉が飛び交うなかの事件であり、日本の人権状況が極めて厳しい状態にあることを示しました。これは2009年から2010年 にかけて行われた京都朝鮮学校襲撃に対して、損害賠償およ び学校周辺での街宣禁止が勝ち取られてもなお、日本社会がヘイトクライムを根絶することができていない証左です。また、確かに判決は被告らの行為を人種差 別行為であると認めましたが、民族教育権について触れなかったことも忘れてはいけません。国際人権基準でも保障されている民族教育権を司法ですら軽視して いる現実は、朝鮮学校襲撃の背景にある日本社会の人権意識の低さを表しています。

 私たち教育関係者は、人権が守られる差別のない社会を作ることを自らの使命の一つとして学校教育に関わってきました。それにもかかわらず 現在のような状況が生じていることに対して、なぜなのかと自ら問い直す必要があるかもしれません。一方、今後も右翼、差別主義者は、彼らの常套手段である 恐怖による威嚇でもって自らの意に反する教育を封じ込めることを行ってくるでしょう。しかし、人権を重んじる教育を止めることはできません。

 私たちは、教育現場における民族差別・ヘイトクライムへの危惧を示すとともに、改めて全ての教育者、教育機関に、差別を許さないという意思を示すことを呼びかけます。
                                  2014年2月16日

呼びかけ人

安部彰(立命館大学教員)、安部浩(京都大学)、石原俊(明治学院大学)、伊田広行、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲(一橋大学)、宇城輝人(関西大学)、浦木貴和、大越愛子(VAWW RAC)、 大椿裕子(関西学院大学雇止め解雇事件被解雇者、大阪教育合同労働組合副執行委員長)、大畑凛(学生)、沖本和子、柿並良佑(言語教育センター)、角崎洋平(立命館大学専門研究員)、北川知子、金尚均(龍谷大学教員、立命館大学卒)、清末愛砂(室蘭工業大学)、熊本理抄(近畿大学)、倉橋耕平(関西大学・近畿大学・大手前大学非常勤講師)、黒瀬勉(大学非常勤講師)、上瀧浩子(弁護士、立命館大学卒)、小宮友根(明治学院大学社会学部付属研究所研究員)、酒井隆史(大阪府立大学)、高橋慎一(立命館大学ほか非常勤講師)、田中隆一(同志社大学嘱託講師)、玉置育子(四天王寺大学)、土肥いつき(高校教員)、中倉智徳 (立命館大学ほか非常勤講師)、中村一成(ジャーナリスト、立命館大学卒)、能川元一、盧相永(公財・世界人権問題研究センター嘱託研究員)、朴実(京都・東九条CANフォーラム代表)、橋口昌治(立命館大学ほか非常勤講師)、浜邦彦(早稲田大学)、肥下彰男、福本拓、堀田義太郎(東京理科大学)、堀江有里(日本基督教団、牧師)、前川真行(大阪府立大学)、松島泰勝(龍谷大学教員)、松葉祥一(神戸市看護大学教員)、南守、文公輝(NPO法人多民族共生人権教育センター事務局次長)、山本崇記(世界人権問題研究センター専任研究員、立命館大学卒)、ユニオンぼちぼち立命館分会、李洙任(龍谷大学)、渡邊太(大阪国際大学教員)


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