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2014年03月17日

教育費、水面下で急増する「奨学金返済破綻」-脱デフレの「8大落とし穴」

PRESIDENT(2013年5月13日号)

 「最近の家計診断で特徴的な出来事の一つが、大学時代にもらっていた奨学金を返せずに困っているケースが増えていることです。借りた本人が返せず、連帯保証人になった親が年金から返済していることも決して珍しいことではありません」

ファイナンシャル・プランナーの畠中さんはこう語る。

 独立行政法人の日本学生支援機構の奨学金だと、月額で最高12万円を借りることができる。4年間フルに借りると総額で576万円。これだけの負債を背負ったまま社会人生活のスタートを切ったら、返済で懐具合が汲々となるのは火を見るより明らか。同機構の発表データによると、2011年度末における民間金融機関の基準に準じたリスク管理債権はトータル4493億円で、要返還債権である4兆8204億円の9.3%を占めている。そこで機構は返還回収を強化するために、債権回収会社を使うようになった。

 翻ってみて、大学に進学するまでの教育費の実態はどうなっているのだろう。家計の見直し相談センターの藤川さんと八ツ井さんがいつも注目しているのが文部科学省の「子どもの学習費調査」で、そこで明らかになった世帯年収別の学習費が図9だ。年収400万円未満の公立と、年収1200万円以上の私立とを比較すると、小学校で7.42倍もの開きが出ていることに驚く。いくら高年収でも、教育費が重い負担になってはいないのかと首をかしげたくなる。

 実は金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、12年時点で年収1200万円以上の世帯のうち5.1%は無貯蓄。同1000万~1200万円未満クラスになると、その割合は11.4%にまで跳ね上がる。そうした厳しい数字を踏まえながら藤川さんは次のようにいう。

 「1000万円前後の高所得者なのに、貯蓄がなかったり、あっても100万円程度という世帯の場合、子どもを私立学校に進学させているところが少なくありません。親の付き合いで、それなりの場所に行くとなると、奥さんの洋服代などもかさみ、次第に家計が苦しくなっていくのです」

 どの親も子どもによい教育を受けさせたいと願うもの。しかし、身の丈以上の教育費をかけて日々の生活が苦しくなり、精神的に疲れ切った親の顔を見せることが子どもの教育にとって本当にいいことなのか。また、日本の家庭は家族全員でお金について話し合う習慣があまりない。その結果、お金に関するリテラシーが乏しくなり、多額の奨学金の返済に苦しむ若い世代を生んだ遠因のようにも思われる。

 アベノミクスで成長戦略が軌道に乗って企業収益が回復し、それにともなって賃金がアップするにしても、まだ時間がかかる。その間に2%になるかどうかは別にしても、輸入品を中心に物価は少しずつ上がってくる。そこに追い打ちをかけるかのように、消費増税や社会保障の負担増が重くのしかかってくる。

 「だからこそ人口構成に合わない社会保障制度の改革が急務なのです」と八ツ井さんがいうように、目の前の課題から目をそむけてはならないのだ。そして、日々の生活を見直すなかで、家族全員がお金に対する意識を変革させていくことが、一見遠回りのように思えても、実は大切な家計を落とし穴に入り込ませないようにする近道になってくれるはずだ。


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