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2014年03月05日

「京都大学組織改革(案)」の本質を問う-総長選挙廃止問題と安倍内閣大学改革②-

京都大学職員組合
 ∟●職員組合ニュース,[第24号]発行:2014年3月4日

「京都大学組織改革(案)」の本質を問う
-総長選挙廃止問題と安倍内閣大学改革②-

(前号より続く)
「総長選考制度改革」と一対の「京大組織改革」

 なぜ総長選考会議はこれだけの強い批判があるにもかかわらず、総長選挙制度の廃止と任期延長・再任制度導入の検討を続けているのでしょうか?
 それは現在これと並行して行なわれており、いまや検討の最終局面(3月4日の臨時教育研究評議会で再採決の予定)を迎えている「京都大学組織改革(案)」の進行と併せて考えなければなりません。京都大学における「総長選考制度改革」と「大学組織改革」は車の両輪のようにタイアップして進行しているのです。
 背景は、現安倍内閣のもとで 2013 年 1 月に発足した「産業競争力会議」が、大学を経済成長の手段として明確に位置付けたことにあります。それによれば、大学は①「グローバル人材の育成機関」、かつ②「イノべーション推進機関」であり、それ以外の機能は必要ないというわけです。大学をこうした政策遂行機関に完全に変えてしまうのに最も必要とされているのが、「学長に従う大学(教員)」と「政府に従う学長」の組み合わせです。わたくしたちが何度も聞かされる「学長のリーダーシップ」の意味内容はまさにこれです。「日本の大学にはびこる “民主主義幻想”、その最たるものが学長選挙だ。」、(こうした大学の)「機動力奪う “民主主義”」を変えなければ未来はない。(『日本経済新聞』特集「大学は変われる か ―「決める組織へ」(1)、(2)2013年8月20日~)などという目を疑うようなキャンペーンも大々的に張られています。

大学自治こそ大学のガバナンスに相応しい

 しかし、ちょっと待って下さい。大学におけるリーダーシップとは、教育・研究の現場からの発信によるリーダーシップが主体なのであり、学長はそれを見守るべき存在なのではないでしょうか。教育・研究の環境変化・社会的ニーズの変化をキャッチする一番のアンテナをもっているのも教育・研究の現場であり、学長にはそれはないとはっきり言えるのではないでしょうか。この明確な理由から、「自治」こそが大学にふさわしいガバナンスのあり方だとされてきたのです。「学問の自由」の「制度的保障」としての「大学の自治」が全世界の大学のガバナンスとして認められてきた理由です。ところが現在の「学長のリーダーシップ・キャンペーン」はこの根幹を突き崩してしまうことを明確に目標にしています。その具体的な攻撃目標が、「学長」と「教授会」なのです。

教授会の審議会化は「大学自治」の破壊

 文部科学省の諮問機関である中央教育審議会(現会長は安西祐一郎氏=現京都大学総長選考会議議長)が12月24日にまとめた「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)は、興味深い論理を展開しています。
 曰く「国立大学の法人化以降、国立大学の教員は公務員ではない。従って以前に教授会の自治(従って大学の自治)を規定していた教育公務員特例法は現在の国立大学法人には適用されない。つまり教授会の自治など今は法的根拠がないのだ。従って、この際(これを奇貨として)、教授会の役割を本来の審議機関としての機能に限定し、決定機関としての学長の役割を明記するために学校教育法を改正し、教授会自治の法的根拠を完璧に廃止すべきだ。」等々。
 国立大学法人法に教授会に関する規定がない現状を逆手にとって教授会の自治(従って大学の自治)そのものをなくしてしまおうというまったく転倒した論理です。

「教授会自治廃止」と本質は変わらない「京大組織改革 ( 案)」

 現在提起されている「京都大学組織改革(案)」は、6 月における総長側の最初の提案から、複数部局連名による「対案」の提出を経て、修正を繰り返し、相当妥協的とも言える「折衷案」になってはいますが、「学域・学系の設置および教育研究組織(部局)からの人事・定員管理機能の分離」すなわち「部局教授会自治の廃止」という本質は何も変わっていません。つまりこれは今国会に提出される予定である、中央教育審議会による学校教育法改正による「教授会自治の廃止」を先取りするものなのです。

教特法の精神を学内規則に ( 長尾元総長 )

 他方で、法人化当時の総長であった長尾元総長は、当時「京都大学の法人化についての総長所感」(2003 年 8 月京大広報号外)を発表し、その中の 9項目にわたる基本的方向の提言で、特に次のことを強調しておられました。
①学問の自由を守るために教育公務員特例法の精神(つまり教授会の自治)を学内規則に反映させること
②学長のリーダーシップを各部局の意思との間で調和させるために、部局長会議を重視し、役員会と部局長会議の意思疎通がはかられるよう工夫すること
③自由意思に基づく基礎的・萌芽的研究が安定的に行なわれるように、研究分野にかかわらず一定水準の基盤的研究費を保証する一方、大学として支持すべき分野に弾力的に研究費を配分できる方法を工夫すること
④経営協議会や役員、あるいは職員などへの学外者の登用については、真に京都大学のために献身してくれる人を選ぶこと、等々です。

学校教育法改正先取りの「京大組織改革 ( 案 )」

 これらの内の幾つもの点が、現在松本総長の下でまったく対立する政策にとって代わられています。
 国際高等教育院の設置が、「グローバル人「京都大学組織改革(案)」の本質を問う? 総長選挙廃止問題と安倍内閣大学改革② ?材育成計画」を先取りしたものであったのと同様に、「京都大学組織改革(案)」は学校教育法改正による「教授会自治の廃止」を先取りするものであり、これと「総長選挙制度の廃止」を組み合わせれば、所期の目標である政府による大学の従属機関化は完成します。
 「京都大学組織改革(案)」を「国際高等教育院の設置」と同じ経過にしていいのでしょうか?「大学改革支援型補助金」の獲得のために大学の自治の本質を売り渡すことは将来にわたり大きな禍根を残すことになるでしょう。いま必要なことは、政府・国会や国民の広範な層を巻き込んだ大学と社会についての広範な議論の展開なのです。


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