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2014年03月11日

全大教、声明「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」の撤回を求め、学校教育法の「改正」に反対する

全大教
 ∟●【声明】 中央教育審議会大学分科会「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」の撤回を求め、学校教育法の「改正」に反対する

【声明】 中央教育審議会大学分科会「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」の撤回を求め、学校教育法の「改正」に反対する

2014年3月9日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会

 中央教育審議会大学分科会が2014年2月12日付で、「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(以下、「審議まとめ」という。)を公表した。この「審議まとめ」には、大学の重要事項を審議するために設置されている教授会の権限を、学校教育法を改正することで大幅に制限すべきだとの提言が盛り込まれている。また、大学・学部における教育・研究等が民主的かつ効果的に行われるようにするために、学長・学部長の選考過程に教職員が投票などの方法で参加する、という仕組みを否定することも書き込まれている。これらにより学長の「リーダーシップ」を強化し、「大学のガバナンス改革」を推進するというのである。

「審議まとめ」の「改革」は多様性を損ない国民の学ぶ権利の危機をまねく
 学長のリーダーシップ強化と教授会権限の縮小を内容とする「ガバナンス改革」の目的は、グローバル人材の育成と経済的利益に直結しやすい研究開発を通じて、国策としての国際競争力強化に奉仕する大学をつくり上げることにある。「審議まとめ」にそって大学改革が実施されれば、大学の教育・研究が経済的利益と経営効率に従属させられ、「役に立たない」と判断された教育・研究領域は統廃合の対象となり、大学の命である知と価値の多様性が大きく損なわれてしまうだろう。大学は、人々の知に対する多様なニーズに応えるだけでなく、いまはまだ自覚されていないニーズにも応えようとする努力を通じて、その知的活力を維持し発展させていくものである。国際競争力強化という単一のニーズに対応するだけでは、大学が大学であり続けることさえできなくなってしまいかねない。

権力から独立し多様な学問分野を維持し育てるために大学自治は不可欠
 日本国憲法に保障された学問の自由には、研究者個人の学問研究の自由、研究成果公表の自由、教授の自由が含まれている。また、大学は学問の中心として、歴史的にも時の権力から独立して学問研究と高等教育を行うための自治権を保障されてきた。これは大学および大学教員への特権付与ではない。大学の自治を保障しなければ、国民全体が学問の自由と高等教育を受ける権利を享受することができなくなってしまうからにほかならない。学校教育法において、大学の重要事項を審議するために教授会を置くと定めた背景は、この憲法からの要請を法律上確認したものである。

大学自治は歴史的に培われ国際的に認められてきた大学の基礎である
 「審議まとめ」が描く大学像は、歴史的に社会が育て培ってきた大学の本質に対する重大な挑戦である。国連のユネスコは、1997年に発表している「高等教育教員の地位に関する勧告」の中で「学問の自由の適切な享受(中略)には、高等教育機関の自律性が必要」と述べ、学問の自由を保持するためには大学自治の保障が不可欠であることを強調している。これは大学制度に関する確認された国際的基準である。「審議まとめ」はこの国際的基準に反して、大学を国策としての国際競争の手段に変えようとする重大な誤りを犯している。このようなことをすれば、日本の大学は国際的には大学とは呼べない人材育成機関になってしまいかねない。

権力に従属した学長専権体制でなく、真の学長のリーダーシップ確立を
 今日、日本の大学が抱える問題点の多くは、1950年代後半以降、とくに1990年代以降、政府・文科省が誤った高等教育政策・科学技術政策に基づいて大学を誘導・統制してきたことに起因している。国立大学についていえば、2004年の国立大学法人化以降、運営費交付金の削減による恒常的な窮乏状態に置かれ、学内では学長裁量による恣意的な予算配分や組織改編が強行されて混乱と疲弊が激化している。
 学長・学部長を大学構成員皆が支持する真のリーダーとして選出することが、今ほど切実に求められたときはなかっただろう。「審議まとめ」はこのことを直視することなく、「学長のリーダーシップ」という美辞を弄して、政府・文科省に従属する学長専権体制の構築を急がせようとしている。
 「審議まとめ」の致命的な誤りは、会社や行政機関と同様の官僚主義的な組織をモデルに「学長のリーダーシップ」を理解していることにある。学長のリーダーシップは本来、外在的・制度的に付与されるものではなく、大学構成員の教育・研究を基盤とし、かつ大学構成員からの自発的同意に支持されて成り立ち、その場合にだけ有効に作用するものであることが、「審議まとめ」ではまったく理解されていないのである。

教育公務員特例法解釈の誤り、憲法からの要請にもとづく学長・学部長選出を
 「審議まとめ」は、国立大学教員が法人化により教育公務員特例法の適用を受けなくなったことを理由に、同法に定める教授会による学長・学部長選考は国立大学法人には適用されないと主張している。教育研究評議会・教授会において学長・学部長を選出する仕組みは、元来、学問の自由・大学自治を基盤とする憲法からの要請に対応するものである。教育公務員特例法の規定は、公務員人事制度の例外として、この要請に基づく学長・学部長の選出ルールを公務員法制に埋め込んだに過ぎない。つまり、かつて国立大学において構成員の投票によって学長・学部長を選出してきたのは、教育公務員特例法が定めていたからではなく、憲法からの要請に基づくものであった。「審議まとめ」はこのことをまったく理解せず、上記の憲法からの要請に反する方法による学長・学部長選出を押しつけようとするものであり、これには何の正当性もないと言わなければならない。

 中央教育審議会は「審議まとめ」を撤回し、歴史的に育まれてきた大学の本質と、本質を守るための組織運営の形態について理解を深めた上で、健全な大学運営がなされるような支援方策を打ち出すべきである。
 今後、この「審議まとめ」でしめされた法令改正が国会の場ではかられる事態となるであろう。とくに、大学自治の根幹といえる教授会の位置づけの変更をめぐる学校教育法改正の動きは重大である。もし法案が提出された場合には、憲法23条で保障されている学問の自由との関係の観点から、国会における徹底した審議が行われなければならない。
 全大教は、安倍政権による一連の「大学改革」の中でも、この学校教育法改正を含む「ガバナンス改革」を最も危険で重大なものであると認識し、これに反対する。学ぶ権利と多様な学問を守り保障するために、危機感を共有しこれらを守る運動をともに行っていくことを、ひろく大学人、市民に呼びかける。


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