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2014年04月15日

「奨学金」返還緩和策に重大な欠陥発覚 機関保証団体「日本国際教育支援協会」通じて300万円+延滞金10%一括請求の野蛮

My News Japan(04/12 2014)

 「奨学金」とは名ばかりで実態は悪質な学生ローンではないか――高まる批判を受け、独立行政法人日本学生支援機構は4月1日から新たな「返還緩和策」を採用した。①返還猶予制度の延長(5年→10年)、②延滞金利率の引き下げ(10%→5%)などである。ところがその一方で、返還猶予が受けられるはずの債権を、「日本国際教育支援協会」(井上正幸理事長)という機関保証を担う団体に移し、同協会を通じて数百万円の一括請求といった過酷な取り立てがなされていることがわかった。別団体なのだから支援機構の返還緩和策など関係ない、耳をそろえて返せ――そういわんばかりの乱暴な手口だ。大学卒業後2年足らずで支援協会から300万円以上の一括請求を受けて途方に暮れるTさん(24歳・無職)の例を報告する。
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【Digest】
◇「奨学金」は「学生ローン」と文科相
◇日本国際教育支援協会
◇困窮状態のところに「300万円一括で払え」
◇「機関保証」の落とし穴
◇同居していた支援機構と支援協会
◇分割案も「2回滞納で一括請求」の重大リスク
◇「奨学金」は「学生ローン」と文科相

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 3月19日の衆議院文部科学委員会でのことだった。日本学生支援機構による過酷な回収を問題視する宮本岳志・衆議院議員(共産)と下村博文・文部科学大臣の間で次のようなやりとりが交わされた。

 宮本岳志・衆議院議員 ……現状の(日本学生支援)機構の奨学金制度にはまだまだ改善すべき問題点が存在する、こういう問題意識は共有していただいているというふうに考えてよろしいですね。
 下村博文・文部科学大臣 これは宮本委員もおっしゃったように、奨学金とは名ばかりの学生ローンだと私は思います。ぜひ本来の奨学金制度にできるだけ早く充実、移管をしていく必要があるというふうに認識しております。

 「奨学金とは名ばかりの学生ローンだと私は思います」――教育の機会均等を確保するための制度だといいながら、訴訟を乱発して高額の延滞金をむしり取る。日本学生支援機構が抱える矛盾は、とうとう文部科学大臣をして「学生ローン」だと答弁させるところまできた。そして4月1日、ようやくあらたな返還緩和策が導入された。緩和策の柱は2つ。
 
①年収300万円以下の利用者を支払猶予の対象とし、期間を従来の最大5年から10年に延長する。
②延滞金を従来の年利10%から同5%に引き下げる(ただし過去に発生した延滞金は10%のまま)。

 延滞金・利息を廃止し、返還猶予は無期限に適用すべきだと考える筆者にとっては不十分だが、それでも一歩前進だ。特に①の「支払い猶予」の改善は効果が期待できる。有効に使えば多くの人が当面の苦境を脱出できるはずだ。返還猶予の間は延滞金や利息がつかない。債権管理回収会社(サービサー)の取り立てに悩むこともなければ裁判を起こされる心配もない。 

 文部科学省の吉田大輔・高等教育局長の答弁によれば、役所の年収証明があれば過去にさかのぼって返還猶予を適用(遡及適用)することもできるという。この答弁どおりに現場が対応するのであれば、支払いが滞ったことで延滞金や利息を加算されている場合でも、返還猶予の遡及適用によってその額が減ることになる。また、収入が乏しいにもかかわらず繰り上げ一括請求されている場合でも、過去にさかのぼって返還猶予を適用することで本来の分割返還に戻るはずだ。

 もっとも、実際そのようにうまくいくかどうかはまだわからない。返還緩和策が有効に機能するのか注視していく必要があるだろう。

 それでも、少なくとも当分は裁判を乱発するようなことはなくなるのではないか。筆者はやや楽観的となった。

◇日本国際教育支援協会

 ところがすぐに、こうした観測が甘かったことに気がついた。支払い猶予の延長も延滞金利率の低減も関係なく、300万円もの金を一括で請求された例を耳にしたのだ。被害者は都内在住のTさん(24歳)である。支払猶予制度が延長されたのに、なぜそんな乱暴なことができるのか。疑問を抱きながらTさんの話を聞くうち、一つの団体の名前が浮かんできた。

 「日本国際学生支援協会」という公益財団法人である。300万円の一括請求をしてきたのは「日本学生支援機」ではなく、この財団法人だった。機関保証を担う団体である。機関保証については後述するとして、まずTさんが「奨学金」を借りる経緯から、順を追って説明したい。

 Tさんは関東の出身で、京都の同志社大学に進学した。文学部で哲学を学び2011年に卒業した。現在求職中である。

 下宿して大学に通うためには、授業料と生活費で少なくとも年間100万円は必要だった。入学金と授業料など大学に払う費用だけで4年間で400万円近くに達した。親からの仕送りはほとんどなかっため、日本学生支援機構から教育資金を借りた。月額6万5000円、4年間で約300万円だ。成績優秀者に割り当てられる無利子の1種だった。

 このほかに大学の授業料免除も受けた。67万2000円の授業料が半額になった。本来なら計3年分受けられたはずなのだが、結局1年分だけで終わった。成績は達していたのに予算削減で採用にならなかったのだ。資産運用の失敗で20億円以上を損失したことが原因らしいと聞いて憤りを覚えた。

 月額6万5000円の「奨学金」だけでは当然不足である。足らない資金を補うため、早朝の時間を使ってセブンイレブンでアルバイトをした。オーナーはひどいパワハラをする男だった。気にいらないことがあると容赦なく罵声を浴びせた。胸倉をつかみ、タバコの煙を吐きかけた。苦痛だったが、授業と両立できるような仕事はほかになかった。

 就職活動の季節がやってきた。厳しかった。...……


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