研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2014年04月22日

北海道新聞による「北海道教育大学旭川校不当解雇事件」の寸評

■北海道新聞(2014年4月21日)

記者の視点
旭川報道部 田辺恵

基準明示対策の第一歩

 アカデミック・ハラスメント(アカハラ)を理由に解雇された道教大旭川校昨准教授3人による解雇無効の訴えが2月、最高裁に認められた。5年にわたる裁判は准教授らの勝訴に終わったが、確定判決ではアカハラと『研究指導』との線引きの微妙さは残った。大学などでアカハラ問題を尽つ際は、専門家が加わる調査体制と、具体的な定義づけが求められる。

アカデミック・ハラスメント

 今回のアカハラ問題のあらましは、こうだ。2008年6~9月、道教大は学生などからの情報を基に准教授らによる言語教育ゼミの指導ぶりを調査。資料作成や辞書編さんの強制で学生の学業や健康に支障をもたらし、『教員の立場を利用した嫌がらせ』に当たるとして、翌年3月に准教授らを懲戒解雇した。准教授らは同月、札幌地裁に解雇無効を求めて提訴した。
 一、二審判決は、准教授らが「学生たちの自主的な活動を適切に指導、監督しなかった」のはアカハラにつながると認定したものの、大学側の主張の多くを認めず、解雇処分は重すぎるとした。最高裁は大学側の上告を受理せず、准教授らの勝訴が決まった。3人は復職について道教大と協議中だ。
 アカハラ認定の難しさは、教員と学生に『上下関係』が生じるのを避けられず、強制も伴う研究指導との境目が分かりにくいことにある。アカハラと判断しても度合いによって処分の軽重を考えなくてはならない。
 この点で道教大には慎重な調査が足りず、判断ミスを招いたのは否めない。教員18人による調査委員会が学生ら100人近くに聞き取りなどしたが、「アカハラに詳しい専門家は調査委にいなかった」(道教大人事課)。
 一審判決も「客観的な証拠による裏付けを欠き、聴取者の主観的意図の入る余地がある」と疑問を投げかけていた。
 道教大の例を教訓に、今後のアカハラ対処では、臨床心理士や社会福祉士などを調査チームに加え、聞き取ぴ対象の学生らの心身状態も見極めながら調査の信頼性を高める必要がある。
 また、アカハラ行為の定義について各大学は指針で定めるが、抽象的な内容もみられる。具体的な定義=表=を設け、その内容に伴う処分の基準も明示すれば、研究現場が萎縮することもないだろう。
 国内でアカハラが問題になり始めたのは05年頃とされ、NPO法人「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」(大阪市)は現在、年間に約750件の相談を受けるという。「単純な暴力、どう喝などの相談は減っているが、問題が長期化し、処分を受けた側が裁判に訴えるようなこじれた例は増えている」(ネットワーク)という。大学は、教員と学生双方が不安に駆られず研究できる環境を保つよう努めてほしい。

アカハラの具体的な定義  (アカハラ対策が進む広島大の指針から)

・他の教員や学生に対し、正当な理由がないのに研究室の立ち入りを禁止する。
・学生に理由を示さずに単位を与えなかったり卒業・修了の判定基準を恣意(しい)的に変更して留年させたりする。
・指導教員の変更を申し出た学生にし「私の指導が気に入らないなら退学せよ」と言う。
・主任指導教員が、学生の論文原稿を受け取ってから何力月たっても添削指導をしない。
・学生が出したアイデアを使って、教員が無断で論文を書いたり研究費を申請したりする。
・就職希望の学生に冷たく接し、大学院進学志望の学生を優遇する。


|