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2014年04月22日

自由法曹団、「改憲手続法(日本国憲法の改正手続に関する法律)改正案の廃案を求める声明」

自由法曹団
 ∟●改憲手続法(日本国憲法の改正手続に関する法律)改正案の廃案を求める声明

改憲手続法(日本国憲法の改正手続に関する法律)改正案の廃案を求める声明

1 2014年4月8日、自民党、公明党、民主党などの与野党7党により、日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案(以下「改憲手続法改正案」という。)が、衆議院に提出された。
 そもそも改憲手続法は、最低投票率の定めがなく、公務員・教育者に対する運動規制が盛り込まれ、有料意見広告が野放しにされ、広報協議会による改憲PRが無制限に認められるなど、重大な問題が含まれており、参議院で3つの附則と18項目にも及ぶ附帯決議がなされた「未完成の欠陥法」である。国民主権と民主主義の原則に反する改憲手続法の欠陥はどのように「改正」しようとも治癒するものではないのであって、改憲手続違法自体が廃止されなければならない。この点、今回、衆議院に提出された改正案は、改憲手続法の欠陥を何ら治癒しないものであることはあきらかであり、憲法9条の改悪を中心とした「壊憲」策動の一つである改憲手続法改正案は廃案にするしかない。

2 改正案は、第一に、選挙権年齢の18歳以上への引き下げをしないまま国民投票法の改正を強引に推し進めようとしている。
 第1次安倍政権下の2007年5月に成立した改憲手続法は、附則3条において、18歳以上の者が国政選挙に参加できるよう選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法について必要な法制上の措置を講ずるとされていた。これは、選挙年齢・成年年齢についての国民的な議論と法改正が不可欠であることを国会が確認したことを意味している。
 しかし、今回提出された改正案は、選挙年齢や成年年齢についての国民的議論をまったく行わず、改憲手続法のみを前倒しにして成立させることを前提とするものであり、改憲ありきの「見切り発車」というほかなく、断じて許されない。
 また、今回の改憲手続法案の改正が成立した後、公職選挙法が改正されないまま、国民投票が行われた場合、18歳以上20歳未満の者は、国の在り方を決める憲法改正には投票できるが、他方で憲法改正の発議権をもつ国会議員を選ぶ投票権は有しないという極めて矛盾した状態が発生しかねない。

3 第二に、改正案は、公務員の国民投票運動の参加を過度に制限しているものである。
 すなわち、改憲手続法改正案の中では、公務員が行う国民投票運動については、賛成・反対の投票等の勧誘行為及び憲法改正に関する意見表明としてされるものに限り、憲法改正の発議から国民投票の期日までの間は、裁判官、検察官等の一部の公務員を除いて政治的行為を伴わない限りにおいてすることができるとしている。
 しかし、改憲手続法の成立時に附則11条が設けられたのは、国民投票が国民の意見を最大限に反映すべきものであって、公務員の国民投票運動の自由を明記し、その自由を保障すべきとされたからである。
 そもそも憲法尊重擁護義務を負う公務員が憲法を護るために国民投票運動を行うことができることは現行憲法の趣旨に沿うものである。
 また、堀越事件最高裁判決(最判平成24年12月7日)で、公務員の政治活動は公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められない限り自由であることが確認されているのである。
 このような観点からすれば、今回の改憲手続法改正案で定められた公務員の国民投票運動の参加は、むしろ公務員の政治活動を過度に広汎に制限するものであり、公務員が加わった憲法運動への抑圧を生み出す危険があり、改憲手続法成立時の附則11条の見地から大幅に後退するものである。

4 第三に、改正案は、附帯決議において検討課題とされていた最低投票率、有料意見広告等の問題を積み残したまま強引に国民投票法案を成立させようとするものであり、重大な欠陥が放置したままにしようとしている。
 附帯決議の中で、低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう最低投票率の意義・是非について国民投票法の施行までに検討を加えることや、テレビ・ラジオの有料広告規制については、公平性を確保するため、国民投票法の施行までに必要な検討をすること等といった重大な検討課題を課していた。
 附帯決議の中で課されていた検討課題は、政権与党や取り巻きの大企業による一方的な喧伝の下、国民の関心を獲得することができないまま低投票率によって国の在り方を決める憲法が改正されないようにするため必要不可欠なものである。
 しかし、国民投票法改正案は、これらの検討課題を放置したまま強引に憲法改正の国民投票だけを実現しようとするものであり、国民主権を蔑ろにするものである。

5 以上より、改憲手続法改正案が重大な問題を孕む破綻した法案であることは明らかである。
 自由法曹団は、問題点を無視したまま強引に改憲策動を推し進めるため改憲手続法案の改正を数の論理に任せて成立させようとする自民党を中心とした与野党7党を糾弾するとともに、改憲手続法の改正案の廃案及び改憲手続法そのものの廃止を断固求めるものである。

2014年4月21日
自 由 法 曹 団
団長 篠 原 義 仁

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