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2014年04月30日

大学改革法案、道新,読売新聞社説

大学改革 学長だけでは担えない(4月29日)

北海道新聞(2104年4月29日社説)

 学校教育法は大学の目的について、広く知識を授け、専門的な研究を深める場と定めている。その理念が損なわれかねない。

 大学改革に主眼を置いた学校教育法改正案などが近く、国会で審議入りする。

 政府案は国公私立大学の運営権限を学長に集中し、これまで重要事項の審議機関として大きな権限を持っていた学部の教授会を学長の助言役にするのが柱だ。

 個々の大学の経営や競争力を強化し、改革の迅速化を図るのが狙いだとするが、学内が上意下達の組織に変質することは否めない。

 大学の根幹である自治・自発性や研究の自由を揺るがし、活力を奪うことにつながらないか、強い危惧を覚える。

 とりわけ経済人などで構成する選考会議が学長選考の決定権を持つことになる国立大学の法改正には、懸念を抱かざるを得ない。

 教育や研究のあり方についての深い洞察よりも、目先のことを追求する能力が学長の資質として優先されかねないからだ。

 企業経営を意識した組織の改編は大学にはなじまない。

 学長権限強化の契機となったのは2012年、東大での秋入学をめぐる学内論議だった。

 秋入学は浜田純一学長が国際化を狙いに発案したが、一部の教授会の抵抗もあって頓挫した。

 権限の集中を掲げる背景には、世界ランキング100位以内に日本から10大学を入れたいとする安倍晋三政権の国際競争力強化戦略があることは明らかだ。

 これまでにない高い目標を達成するには、大学組織を根底からつくり変える必要があると考えているのだろう。

 だが、大学の評価は地道な研究の積み重ねの結果として得られるものだ。ランクづけを前提に大学同士、研究者同士を競わせるのは本末転倒ではないか。

 さらに懸念されるのは、先端技術や実利分野に研究資金が集中投下され、基礎科学や社会・人文科学の研究が軽視される風潮だ。

 土台なしに上屋は築けないことを忘れてはならない。

 もちろん現行制度に問題がないわけではない。古い価値観や旧態依然の慣習を変えていくのは当然だ。現行の教授会が思い切った改革に踏み出せないでいる現状はもはや放置できない。

 教職員一人一人が大学の存在意義を見失わず、柔軟な発想で対応策を発議する。これを改革の出発点とすべきだ。

大学改革法案 迅速な意思決定が求められる

読売新聞(2014年04月29日社説)

 大学改革を迅速に進めるため、政府が、学長のリーダーシップの強化を柱とする学校教育法と国立大学法人法の改正案を国会に提出した。今国会での成立を目指している。

 日本の大学は、国公私立にかかわらず、意思決定に時間がかかり、柔軟で機動的な運営ができていないとの批判が多い。

 時代の変化に対応するため、大学はガバナンス(組織統治)の在り方を改善し、人材育成や研究活動の充実を図ることが重要だ。

 改正案のポイントは、教授会の権限の見直しだ。

 現行の学校教育法は、教授会について「重要な事項を審議する」と定めている。教授会の権限が大学運営全般に及ぶと解釈され、教授会が事実上の意思決定機関となっている大学も少なくない。

 学長が思い切った改革を進めようとしても、教授会の反対で実現できない弊害が出ている。

 改正案は、教授会の役割を、学長が決定を行う際に意見を述べることに限定した。大学運営の決定権が学長にあると、法律上、明確にし、トップ主導の改革を促しているのは妥当と言える。

 学長が人事や予算の権限を適切に行使し、優秀な研究者を積極的に採用すれば、大学の国際競争力を高めることにもつながろう。

 私立大では、経営母体である学校法人の理事長と、大学の学長が別々のケースもある。そうした大学では、円滑な意思決定を可能にしていくことが大切だ。

 国立大学法人法改正案で注目されるのは、学長の選考過程を透明化する規定を加えた点だ。

 現行法は、学内外の委員で構成する学長選考会議を設け、学長を選ぶと定めている。ところが、実際には、学内の教職員で事前に意向投票を行い、その結果を選考に反映させている大学が多い。

 学内の多数派工作がトップ人事を左右するようでは、能力を備えた人物が選出されるか疑問だ。

 2004年に法人化された国立大の学長には、経営手腕も求められる。こうした能力も評価できる選考法にしなければならない。

 改正案が、学長選考の基準を策定し、選考結果とともに公表するよう求めたのは理解できる。

 ただ、一連の法改正が実現すれば、学長に権限が集中する。学長が適正さを欠く大学運営を行った場合、任期途中で交代させるのは容易ではなかろう。

 学長の暴走を防ぐ仕組みを、どのように整えるのか。国会で議論を深めてもらいたい。


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