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2014年05月25日

「若手」大学関係者有志による「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急アピール

「若手」大学関係者有志による「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急アピール
同上、署名サイト

「若手」大学関係者有志による「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急アピール

 さきの4月25日、政府は「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。わたしたちは、本改正案は大学における学問・研究の自由を脅かすものであり、さらに若手研究者の将来を破壊しかねないものと考え、廃案を求めます。

 現行の学校教育法第93条は、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と定めています。これは、教育並びに研究という教学面のみならず人事や予算など経営面も含んだ大学における意思決定の重要な機関として教授会を位置づけるものと解釈されてきました。ところが本改正案では教授会は「一、学生の入学、卒業及び課程の修了、二、学位の授与、三、前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、学長が教授会の意見を聴くことが必要であると認めるもの」について「意見を述べるものとする」とされ、教授会の大学経営に関する権限は奪われ、教学に関わるものについても意見を述べることができるのみで、学長が最終的決定をおこなうものとされています。このように本改正案は教学・経営を問わず大学における意思決定の権限をすべて学長に集中させ、人事、組織改革、教育課程編成など、これまで多くの大学で教授会において審議されてきた事項について、学長が独断で決定することを可能とするものです。
 また、国立大学法人法改正案では、第12条において学長選考会議に学長選考の基準を定める権限を与え、現在国立大学で行われている学長選考意向投票制度をさらに骨抜きにしようとしています。こうした法改正は大学における民主的な意思決定を破壊するものといわざるを得ません。
 さらに、本改正案では同じく国立大学法人法第20条でこれまで「2分の1以上」とされてきた経営協議会の外部委員を「過半数」とするとされていますが、これは結果的に大学の運営を財界人や官僚の意向に従属させることになり、改革の目的とされているはずの学長のリーダーシップさえも損なうものとなりかねません。
 安倍晋三首相はこの5月6日、経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会の基調演説で、経済発展とイノベーションのために高等教育改革を行うという立場を明確にしています。さらにそこで安倍首相は「学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています」と、大学をはじめとする高等教育研究機関における学術研究を否定するとも受け取れる発言をしています。高等教育の「新たな枠組み」を要請する「社会のニーズ」なるものも、「実践的な、職業教育」を求めるような経済的国際競争力というきわめて狭いニーズでしかありません。しかし高等教育は時の政権による経済政策の道具とされるべきものではありません。
 教育基本法は、日本国憲法23条に定められた学問の自由の理念にのっとり、大学について「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探求して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」とし、「自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」と定めています(第7条)。しかし今回の法改正が実現し、政府の進める大学改革が進められるならば、大学はもはや真理探求の場ではなくなってしまうでしょう。このような改革が高等教育の質的向上をもたらすものとは考えられず、これまで大学が提供してきた、より広い「教養と専門能力を培う機会」が学生から奪われてしまうことになりかねません。
 加えてわたしたちは、本改正案、ならびにその背後にある大学改革の方向性が、日本の若手研究者の将来に深刻な影響を与えると考えています。
 文部科学省は昨年11月に発表した「国立大学改革プラン」において、「シニア教員から若手・外国人へのポスト振替等を進める」としています。しかし、この「プラン」の重点が、大学ランキングの順位を上げるための形式的な「国際化」にあることは明らかであり、研究者としての能力にかかわらず外国人研究者を雇うことが優先されようとしています。このような改革が若手のチャンスを拡大するとはとうてい思えません。
 また、いわゆるポスドクや非常勤講師など、定職に就いていない、あるいは任期付きといった不安定なポジションにある若手研究者は、これまでの大学改革の結果として、将来への大変な不安と競争のプレッシャーにさらされつづけています。そのようななか、十分な訓練を受けられないまま、研究倫理にも欠けた研究者が生み出されつつあるのではないかともいわれています。現在政府が本法改正を通じて進めようとしている大学改革は、国立大学はもとより、日本の高等教育に関わるすべての若手研究者に将来安定したポジションで多様な研究を行うという希望を奪うものであり、日本における次世代の研究・教育者育成に深刻な影響を与えかねません。

 以上の理由により、わたしたちは現在国会に提出されている学校教育法並びに国立大学法人法改正案を廃案とすることを求めます。

2014年5月16日
呼びかけ人(50音順)

安部浩(京都大学・大学院人間・環境学研究科・准教授)
植上一希(福岡大学・人文学部・准教授)
大倉得史(京都大学・大学院人間・環境学研究科・准教授)
大河内泰樹(一橋大学・大学院社会学研究科・准教授)
大屋定晴(北海学園大学・経済学部・准教授)
小椋宗一郎(東海学院大学・人間関係学部・准教授)
小野文生(同志社大学・グローバル地域文化学部・准教授)
菊池恵介(同志社大学・グローバルスタディーズ研究科・准教授)
北村毅(早稲田大学・琉球・沖縄研究所・客員准教授)
神代健彦(京都教育大学・教育学部・講師)
河野真太郎(一橋大学・大学院商学研究科・准教授)
小谷英生(群馬大学・教育学部・講師)
児玉聡(京都大学・大学院文学研究科・准教授)
斉藤渉(東京大学・大学院総合文化研究科・准教授)
澤佳成(東京農工大学・大学院農学研究院・講師)
清水池義治(名寄市立大学・保健福祉学部・講師)
白井聡(文化学園大学・服装学部・助教)
高宮幸一(京都大学・原子炉実験所・准教授)
高山智樹(北九州市立大学・文学部・准教授)
田中真介(京都大学・国際高等教育院・准教授)
多羅尾光徳(東京農工大学・大学院農学研究院・准教授)
中嶋英理(首都大学東京・大学院人文科学研究科・大学院生)
西山雄二(首都大学東京・人文科学研究科・准教授)
平野研(北海学園大学・経済学部・准教授)
藤田尚志(九州産業大学・国際文化学部・准教授)
南出吉祥(岐阜大学・地域科学部・助教)
宮入隆(北海学園大学・経済学部・准教授)
宮﨑裕助(新潟大学・人文学部・准教授)
宮本真也(明治大学・情報コミュニケーション学部・准教授)
森千香子(一橋大学・大学院法学研究科・准教授)
山口裕之(徳島大学・総合科学部・准教授)

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