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2014年06月11日

「大学のガバナンス改革」を推進する学校教育法・国立大学法人法の「改正」

法学館憲法研究所
 ∟●「大学のガバナンス改革」を推進する学校教育法・国立大学法人法の「改正」

「大学のガバナンス改革」を推進する学校教育法・国立大学法人法の「改正」

2014年6月9日

中嶋哲彦さん(名古屋大学教授)

■国策大学化への道
 政府は今国会に「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」を提出している。6月1日現在、衆議院で審議中だ。この法改正は、大学自治の基盤である教授会の権限縮小、学長の権限強化、大学運営に対する政府及び学外有力者の影響力強化などを内容とし、これによって「学長のリーダーシップ」を確立し「大学のガバナンス改革」を加速させるというものだ。
 しかし、教授会及びその構成員を大学の管理運営から排除し、学長に権限を集中することで大学改革を推進するとの発想は、大学というものへの無理解の告白に等しい。学長の学問的・社会的権威とリーダーシップは、大学における高度で総合的な教育研究を基盤とするもので、それは教授会メンバーそれぞれの学問研究とその成果としての教育活動の上に成り立っている。このため、学長のリーダーシップは教授会メンバーの学問研究を基盤とし、かつその自発的同意がなければ成立しないのだ。これを否定してかかったのでは、大学の活力の源泉である学問の自由を掘り崩し、大学における教育研究に取り返しのつかない打撃を与えかねない。
 また、「大学のガバナンス改革」は、「グローバル化の進展の中で国際的な大学間競争が激化しており、我が国の大学の国際競争力を高め、高度な教育研究を行い、グローバル人材を育成する拠点として世界の大学と伍していくためには、戦略性を持って大学をマネジメントする」(中教審)必要があるとの考えから出発している。これは、日本経済団体連合会「イノベーション創出に向けた国立大学の改革について」(2013年12月17日)や、経済同友会「大学評価制度の新段階-有為な人材の育成のために好循環サイクルの構築を-」(2013年4月3日)などの要求に即応するものだ。これでは、教育研究を通じて社会全体の利益に奉仕すべき大学を、特定の経済的利益に奉仕する国策大学におとしめてしまいかねない。

■教授会自治の否定
 学校教育法改正の問題点は第一に、大学自治の要である教授会の形骸化を企図していることだ。
 学校教育法第93条は、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と定め、大学の管理運営の重要事項の審議決定に関して、どのような事項が重要事項に該当するかを含めて、教授会には包括的な権限を付与している。
 ところが、政府は被用者である教授会構成員が大学の管理運営の中核的役割を担うことは適切ではないとして、教授会から重要事項の審議権、すなわち実質的な決定権を剥奪しようとしている。改正案では、学生の入学・卒業の決定や教育研究の重要事項に関して、学長・学部長が教授会の意見を聴く必要があると判断した事項についてのみ、教授会として審議し意見を述べることができるとしている。
 このため、改正案がそのまま可決成立すると、教授会は、学長・部局長・教員の採用・昇任、教育課程編、教育研究費配分などの重要事項に関与できなくなってしまう。これは歴史的に形成され、国際的に承認された大学自治の原理を否定するものである。

■学内の支持と信頼を欠いた学長の選考
 国立大学法人法改正案の目的は、第一に、教授会の意向に基づかずまた尊重することさえなく国立大学の学長を選考できるようにすることにある。
 このため、委員の半数を学外者で構成する学長選考会議に学長選考の基準を定める権 限を与え、その基準に則って学長を選考しなければならないとしている。現在、多くの国立大学で実施されている大学構成員の意向投票等を廃止し、学長選考会議主導で学長選考を行えるようにしようとするものである。
 政府は、この改正を「学長のリーダーシップ」を確立するためと説明しているが、学内の意向を無視して選考され、 学内の支持と信頼を欠いた学長にリーダーシップを期待することは困難である。

■政府・経済界による国立大学支配
 国立大学法人法改正の目的は第二に、国立大学法人に置かれている経営協議会の委員の過半数を学外委員にし、政府や経済界の意思に従順な国立大学法人を作ることにある。改正法案では、国立大学法人や大学共同利用機関法人の経営協議会について、その委員の過半数を学外者としなければならないとしている。
 これが法制化されれば、大企業の経営者や地元自治体の首長などが国立大学法人の経営 に関して主導権を握ることが予想される。教育研究を通じて広く国民全体の利益のために奉仕することを使命とする国立大学法人が、一部の利益に奉仕させられることになりかねない。
 中教審は時の政府の意向に従うことでのみ、国立大学法人は国民の意向に沿い、またその利益に奉仕できると主張する。しかし、大学は本来、時の政治権力の意向に追随することなく、学問の自由に基づき、教育研究の目的・内容を自ら自主的・主体的に探求することを通じてこそ、真に国民の利益に奉仕することができるはずだ。

◆中嶋哲彦(なかじま てつひこ)さんのプロフィール

 1955年、名古屋市生まれ。
 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 教授。博士(教育学)。
 専門は教育行政学、教育法学。
 名古屋大学法学部卒業、同大学院教育学研究科博士・後期課程単位等認定退学。
 久留米大学講師・助教授を経て、1998年名古屋大学。
 2000年10月~2007年9月、犬山市教育委員。
 2009年7月から、全国大学高専教職員組合(全大教)中央執行委員長。
 2010年4月から、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人。
 関連する近著
 「首長主導と国家統制強化の教育委員会制度改革を問う」『現代思想』2014年4月号。
 「教育委員会廃止論を問う──首長主導型の教育改革がもたらすもの」『世界』No.854 (2014年3月号)。
 「『大学の大衆化』と高等教育政策のゆくえ?大学は多すぎる」論から考える?」『世界』No.840 (2013年3月号)。
 『教育の自由と自治の破壊は許しません。―大阪の「教育改革」を超え、どの子も排除しない教育をつくる?』 (かもがわブックレット191、2013年1月)。


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