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2014年06月12日

大学評価学会、「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める

大学評価学会
 ∟●「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める

「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求める

2014年6月11日 大学評価学会理事会


 今国会に提出されている「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の審議は、会期末を控えて大詰めを迎えている。この改正案の趣旨は「大学運営における学長のリーダーシップの確立等のガバナンス改革を促進するため、副学長・教授会等の職や組織の規定を見直すとともに、国立大学法人の学長選考の透明化等を図るための措置を講ずる」等とされている。

 本学会は、2004 年に設立された。設立大会で採択した「もう一つの『大学評価』宣言」において、「これまで狭い専門の領域に閉じこもりがちであった教育・研究者と事務職員、そして大学が、自らの主体性を確立し、学問の自由と大学の自治の現実的・具体的担い手となるために、大学評価に関する議論を行うことは避けて通れない課題となっている」とし、また、「高等教育機関は、政府や産業界など特定の者のためだけに存在するのではありません。公共的な存在として、すべての市民のために存在しているのです。学生たちの学びの成果は彼ら自身の成果であるだけでなく、社会全体の貴重な成果として認識されなければなりません。このような視点から、大学評価の基本に、学生の発達保障が明確に位置づけられる必要があるでしょう」と述べている。
 本学会は設立以来、大学が抱える諸問題を踏まえつつ大学評価の在り方に関する議論を積み重ねてきた。このような立場からすると、この改正案の内容は日本の大学が抱えている問題点や困難を改善することに資するものではなく、かえって大学の状況を悪くするものとなることを危惧する。

1. 大学は設置形態を問わず公の性格を有しており、学術の自由な発展と基本的人権である教育権(学習権)を保障するために存在している。大学関係者は、学問の自由と教育権(学習権)を保障し、一人一人の学生たちの発達保障を実現する任務を深く自覚し、社会的責任を果たさねばならない。
2. 一方、「国立大学改革プラン」「ミッションの再定義」「機能強化」に加えて、国公私立を問わず、種々の大学評価や強引な予算削減・予算誘導によって、グローバル化・イノベーション創出・学生の質保証などを強く迫る政策が展開されている。また経済界はこれらを強力に要求している。
3. 教職員は、研究業績づくり、大学評価や予算獲得のための書類づくり等に日々追われ、学生と向き合う時間や余裕を奪われている。教育権(学習権)保障や学生の発達保障に向けて、真剣かつ真摯に論議し合う意欲さえ失いつつある。今必要なことは、教授会の権限縮減ではなく、むしろ教授会が大学全体に責任を持つことを自覚しその機能を充実させることである。
4. 長引く不況と低賃金の下で、学生たちの家庭は生活が圧迫されている。学生たち自身もまた、高学費やローン型奨学金の下でアルバイトを余儀なくされ、成績評価値 GPA のアップなどのスペック(品質性能保証)競争に追い込まれている。学生たちが安心して学べる支援と、大学運営や授業改善に参画する営みが広がってほしい。
5. 大学は教職員だけでなく学生を含め全構成員によって(附属機関や非常勤雇用を含む)、教育・研究の発展が取り組まれるべき組織体である。そのトップである学長には、経営的手腕のみでなく、学内構成員の十分な合意形成を図ることができるリーダーシップと大学の在り方に関する深い見識、大学構成員からの厚い信頼が求められる。そのためにも、学長は大学構成員の総意に基づいて選任される手続きが必要なのである。
6. 以上のようなことから、大学には営利を目的とする私企業とは異なった、教育と研究の本質に基づく大学の運営と経営の原理が適用されなければならない。しかるに、「法律案」は、高等教育機関としての特質を顧みることなく、学長のもとに上意下達をすすめる組織として、大学のありようを劇的に変えてしまうとものである。こうした大学は政府と経済界が執拗に要求している姿である。

 他の学会や教授会などの声明でも、日本国憲法で保障される「学問の自由」や、ユネスコ「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」に示された国際社会の認識の到達点からして、「法律案」が重大な問題点を有していることへの危惧が表明されている。本学会理事会はこれらの危惧に同意する。また、本学会の研究対象とする大学評価はよりよい大学をめざすものであり、この点からみて、本改正案は上記に示した問題点のあることを強く指摘しておきたい。
 大学評価学会理事会は、市民の教育権(学習権)並びに学生の発達保障を担うにふさわしい高等教育機関づくりをめざす立場から、「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案」の廃案を求めここに声明する。

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