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2014年06月18日

(朝日新聞社説)大学改革 知の多様性を守れるか

朝日新聞(2014年6月16日)

 大学にトップダウンはなじむのか。この改革案は大学本来の強みを損ないかねない。

 大学でのものごとの決め方を改める法案が、国会で審議されている。これまで教授会は、重要事項を審議する役割を担ってきた。これを、学長が必要と思うときに意見を聴く諮問機関に位置づけを変える。

 大学は少子化で学生が減る危機に加え、新興国を含めた国際競争にもさらされる。安倍首相は「世界トップ100に10大学以上」を成長戦略に掲げた。

 生き残るには、特色が要る。

 お金と人を呼べる研究・教育への特化を進めたい。

 選択と集中によって短時間で成果を出せる大学にしたい。

 だから、各学部の発言力が強く、決定に時間もかかる仕組みをやめ、すいすいと結論を出せるようにしようというのだ。

 しかし大学というものは、ひとの気づかないことを提案するのが大切な仕事だ。みんなが考える余裕のないことを、引き受けて考える仕事ともいえる。

 それには、多彩な知のサンプルを取りそろえておく必要がある。今ここにある需要だけで学問の品ぞろえをしたら、間違える。長い目で見ると、かえって社会に貢献できなくなる。

 たとえば秋田大の伝統である鉱山学は長く斜陽だったが、都市鉱山や資源外交で再び注目され、国際資源学部の創設に発展した。商売にならないものは切るような大学だったら、再生の芽は摘まれていた。人文や社会科学にも、社会に“セカンドオピニオン”を提供するという、金額に直せない役割がある。

 世の中も学問も複雑になっている。どんなに優れたリーダーも、一人で全分野を見通して判断するのは容易でない。

 改革案は、かえって学長を孤立させかねない。発言力を奪われた教授陣は、全学の運営に関心を失う。学長は多角的な意見を拾えなくなる。そうして、判断を誤るリスクが高まる。

 学部タテ割りの弊害は改善すべきだが、今の制度でもできることだ。げんに、全学のテーマを討論する学部横断型の組織をつくっている大学は多い。

 責任と権限をはっきりさせる利点もなくはない。小さな単科大学が学長の強い統率力で成長した例もある。しかし、それが大きな総合大学に通用するかといえば、あつれきを生むだけに終わるかもしれない。

 大学の性質によって、それぞれ最適な意思決定の仕組みは違うはずだ。一律に学長主導を制度化しなくていい。右向け右は大学に最も似合わない。


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