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2014年07月29日

日本学術会議幹事会声明、「STAP細胞事案に関する理化学研究所への要望と日本学術会議の見解について」

日本学術会議
 ∟●「STAP細胞事案に関する理化学研究所への要望と日本学術会議の見解について」

日本学術会議幹事会声明
「STAP細胞事案に関する理化学研究所への要望と日本学術会議の見解について」

 日本学術会議は、本年1月29日に理化学研究所(以下「理研」)発生・再生科学総合研究センター(以下「CDB」)から発表された STAP 細胞についての 2編の Nature 誌論文に、様々な不正が見いだされた問題に重大な関心をもち、3 月19日には会長談話「STAP 細胞をめぐる調査・検証の在り方について」を発 表しました。その後、理研内部での自主的調査などの結果が報告され、この問題は一部の図版の不正な置き換えに止まらず、研究全体が虚構であったのではないかという疑念を禁じ得ない段階に達しています。2 編の論文は取り下げられ ましたが、STAP 研究の革新性を必要以上に強調した記者会見もあって広く社会 問題化したことに加え、指摘された研究不正の深刻さから、我が国の科学研究 全体に負のイメージを与える状況が生み出されています。

 日本学術会議は、昨今、我が国において科学研究の健全性を損なう事案が相次いだことを深く危惧し、声明「科学者の行動規範-改訂版-」1ならびに一連の提言2を発出するとともに、研究不正を防止するための研究倫理教育プログラムの開発を、文部科学省、日本学術振興会、科学技術振興機構等とともに進め ているところです。今回の STAP 細胞事案の主要な問題点を解明し、対処することができるかどうかは、今後の我が国の科学研究の在り方に大きな影響を与えるものであり、そのために役割を果たすことは研究者コミュニティの責務で あると考え、日本学術会議幹事会は以下の要望と見解を表明します。

1.本年6月12日に「研究不正再発防止のための改革委員会」(岸輝雄委員長)が、理研の野依良治理事長に提出した「研究不正再発防止のための提言書」(以下「提言書」)には、今回の事案の経過と原因、さらに理研CDB の今後の在り方についての詳細な考察が述べられています。日本学術会議は、 野依理事長が同日「研究不正再発防止のための改革委員会からの提言を受けて」で述べたとおり、理研が「研究不正を抑止するために実効性あるアクシ ョンプランを策定し、早急に具体的な実行に移」すことを要望します。

2.「提言書」では、小保方氏の採用から、論文の発表と撤回にいたる経過の分析を踏まえて、「・・STAP問題の背景に、研究不正行為を誘発する、あるいは研究不正行為を抑止できない、組織の構造的な欠陥があった」(「提言書」5頁以下)とし、さらに、「・・STAP問題が生じて以降、理研のトップ層にお いて、研究不正行為の背景及びその原因の詳細な解明に及び腰ではないか、と疑わざるを得ない対応が見られる」(「提言書」15頁)と指摘しています。本事案が一研究者の不正に止まるものではなく、防止する機会が何度もあったにもかかわらず、それらを漫然と見逃し問題を巨大化させた理研CDBの指 導層に、大きな過失責任があったという指摘は説得力のあるものです。日本 学術会議は、理研CDBの解体を求める「提言書」に対する理研の見解が早急 に示されることを要望します。

3.一方で、「提言書」で言及しているように、理研内にも問題の全容解明を目指し、自浄に向けて活動している研究者がいること、また理研CDBがこれまで若手の人材育成に貢献してきた結果として、現在も、今回の事案とは無関係に日々誠実に研究に取り組んでいる若手・中堅研究者がいることを忘れ てはなりません。理研CDBの抜本的な組織改変が行われる場合には、日本の生命科学の発展にとって極めて重要との観点から、これらの若手・中堅研究 者が、安心してその能力を発揮できる環境を整えることを要望します。

4.現在、研究不正に最も深く関わったとされる小保方氏が参加する STAP 現象の再現実験が始められ、関係者の懲戒については結論が先送りされると伝えられています。しかし、この再現実験の帰趨にかかわらず、理研は保存されている関係試料を速やかに調査し、取り下げられた2つの論文にどれだけ の不正が含まれていたかを明らかにするべきです。また、そこで認定された研究不正に応じて、関係者に対する処分を下すことは、この事案における関 係者の責任を曖昧にしないという意味で重要です。関係試料の速やかな調査による不正の解明と、関係者の責任を明確にすることを要望します。

5.「提言書」では、再現実験の監視、論文検証、及び理研による改革をモニタリング評価するために「理化学研究所調査・改革監視委員会」の設置と、その際に日本学術会議による援助・助言を得ることによって、理研改革に科学者コミュニティ及び社会の意見を反映させることを求めています。日本学術 会議は、6でも述べるように、我が国の科学研究における健全性を向上させることに責任があると認識しており、理研が健全性を回復するために行うすべての行動を支援する所存です。

6.研究不正問題に関して昨年来発生した諸事案や種々の対策に関わる提案に対応して、文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」をまとめつつあり、日本学術会議も積極的に協力しています。 このガイドライン案では、個々の研究者のみならず、所属する研究機関にも 不正防止の責任を果たすことを求めています。研究機関が、そこに所属する研究者の研究活動および研究費使用において不正が生じることのないよう、より積極的な役割を果たすことは、不正撲滅の実を上げるために極めて重要 です。日本学術会議も、我が国の科学研究における健全性を向上させることに責任を負う立場から、この考え方を支持し、研究機関等が不正防止や解明 の措置をとる際に協力を惜しみません。

2014年7月25日 日本学術会議幹事会

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