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2014年10月01日

天使大学不当労働行為事件、中労委命令

中央労働委員会
 ∟●平成25年(不再)第52号、天使学園不当労働行為再審査事件

天使学園不当労働行為再審査事件
(平成25年(不再)第52号)命令書交付について

 中央労働委員会第一部会(部会長 諏訪康雄)は、平成26年9月25日、標記事件に関する 命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。
命令の概要は、次のとおりです。

【命令のポイント】 ~組合員の労働環境の調整等に関わる議題について、経営権の問題であり団体交渉事項 にはならないとした法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるとした事案~

1 組合員のハラスメント事案に関して、配置転換等の労働環境の調整を求めた議題は組合員の 労働条件に関わるものであるにもかかわらず、配置転換は経営権に関わる問題であること、ハ ラスメント事案はプライバシーに係る問題があるとして団体交渉事項に当たらないとする法人 の対応は、不誠実な団体交渉(労組法第7条第2号)に当たる。
2 法人のハラスメント規程及び懲戒委員会規程の改正を議題とする団体交渉において、ハラス メント規程の改正について具体的に説明した状況はうかがわれず、さらに、両規程の改正に関 する問題は経営権の問題であり団体交渉事項にはならないとの認識を殊更明らかにしていた法 人の対応は、不誠実な団体交渉(労組法第7条第2号)に当たる。

Ⅰ 当事者
再審査申立人 学校法人天使学園(「法人」)(札幌市)
教職員約110名(平成25年4月現在) 再審査被申立人 天使大学教職員組合(「組合」)(札幌市)
組合員55名(平成25年4月現在)

Ⅱ 事案の概要
1 本件は、法人が、①組合員2名(X1及びX2)のハラスメント事案に関して、配置転換を含 む労働環境調整を求めた団体交渉に誠実に対応しなかったこと、②法人のハラスメント規程及び 懲戒委員会規程(「両規程」)の改正を議題とする団体交渉に誠実に対応しなかったこと、③法人 施設の空き室利用について、組合に他団体より重い要件を課したこと、④法人が設置する大学の 教務部長の選考に当たり、Aが組合の代表であることを理由として、同人を教務部長に任命する ことを拒否したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審の北海道労委は、上記①及び②が、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号 の不当労働行為に該当するとし、団体交渉応諾及び文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した ところ、法人は、これを不服として再審査を申し立てた。

Ⅲ 命令の概要
1 主文 本件再審査申立てを棄却する。
2 判断の要旨

(1)組合員のハラスメント事案に関する労働環境調整義務の履行要求につき、これを団体交渉事 項でないなどとした法人の対応が、団体交渉拒否に該当するか。
ア 組合員2名に係るハラスメント事案の発生に伴い、配置転換等の労働環境の調整を求めた議題は組合員の労働条件に関わるものであり、団体交渉事項に当たると認めるのが相当である。
イ 法人は、X1についてハラスメントの事実がないこと、配置転換は経営権に関わる問題であること、ハラスメント事案はプライバシーに係る問題があることを根拠事項として、同議 題は団体交渉事項に当たらないと主張していたものである。しかしながら、組合が、ハラス メントの事実があったか否かそれ自体を問題とし、X1のハラスメント事案の詳細について 説明を求めているわけではなく、X1について、配置転換等の措置を講じて労働環境を改善 してほしい事態が発生していることから、これを早急に実施してほしいと要望するものであ ったことは明らかである。また、X2の事案については、法人自身が、X2に、配置転換等 の労働環境の調整を行うと伝えていたのに、これがなかなか実施されなかったことから、組 合が、組合員であるX2の労働環境の早期改善を求めて、法人に団体交渉を申し入れたこと も明らかである。
 このように、組合は、組合員の労働条件に係る労働環境を改善するための話合いをするた め、X1及びX2の事案を団体交渉の対象事項としていたのであるから、話の内容が個人の プライバシーにわたるものであるか否かが、法人から組合に、どの程度詳しく説明すること ができるかという点に影響することがあったとしても、そもそも団体交渉事項に当たらない として、法人が、全く説明しないことを正当化することはできない。

(2)両規程の改定要求の議題につき、経営事項であることなどを理由に、団体交渉事項でないと した法人の対応が、団体交渉の拒否に該当するか。
ア 両規程は、懲戒に関する取扱いや、ハラスメント等の問題が起きた場合の適切な労働環境 について定めるもので、いずれも労働条件に関わるものである上、法人に雇用される労働者のすべてに適用される労働者の待遇に関わる定めであると認められることからすれば、上記 議題は、団体交渉事項に当たる。
イ 法人は、団体交渉において、「懲戒委員会規程は、私学法の改正に伴って改正した寄附行 為の趣旨に沿って改正したものであり、理事会が意思決定の最終責任を取ることができるように理事の割合を増やしたものである。」という程度の説明はしているが、私学法改正の趣 旨からすれば、その説明が理解し難いと組合が考えたのもやむを得ないところであり、また、 ハラスメント規程の改正について具体的に説明した状況はうかがわれない。さらに、法人は、 団体交渉において、組合に対し、両規程の改正に関する問題は経営権の問題であり団体交渉 事項にはならないとの認識を殊更明らかにしていた。
 組合は、両規程がいかなる意味で改正の必要性があったのかということや両規程の適切な 内容とはどのようなものであるかを団体交渉における話合いの中心としたかったと考えられ るが、そのような事項について法人は、当初から説明を拒否していたのであるから、たとえ 団体交渉の開催が数時間にわたっていたとしても、実質的にみて、法人が誠実に団体交渉に応じていたものであると評価することはできない。

(3)救済方法
 本件において、法人は、義務的団体交渉事項であることが明らかな議題について、そもそも 団体交渉事項に当たらないとして、組合からの団体交渉申入れを拒否していたのであるから、 憲法第28条において認められている労働者の団結権等を著しく軽視する態度を取り続けてい たといわざるを得ない。
 さらに、法人は、本件救済申立てから約2年が経過した後の団体交渉において、資料を持参 していないこと等を理由に実質的な議論に入らないなど、依然として、誠実に団体交渉に臨ん でいるのか疑問があるといわざるを得ない対応をとり続けている。
 以上からすれば、本件は、法人と組合間の正常な集団的労使関係秩序を回復する必要性の高 い事案であり、法人による同種行為の再発を防ぐためには、誠実に団体交渉に応じるよう命じ るとともに、法人施設内に出入りする関係者が視認し得る公用掲示板への文書掲示を命じるこ とには理由があるということができる。

【参考】
初審救済申立日 平成23年12月16日 初審命令交付日 平成25年7月24日 再審査申立日 平成25年8月7日


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