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2014年11月10日

大学の自治に一石 京大私服警官取り押さえ印刷用画面を開く

京都新聞(2014年11月09日)

 京都大(京都市左京区)構内で京都府警の私服警官が学生とみられる男性に取り押さえられた4日の騒ぎは、国家権力から距離を置いた大学の自治の在り方に一石を投じた。過去にも警官による大学への立ち入りをきっかけにした事件が起きているが、司法は大学の自治を認めてきた。識者も警察がルールを尊重する必要性を指摘する。

 今回の騒ぎを受け、1952年の「東大ポポロ事件」があらためて注目を集めている。東京大で開かれた演劇発表会に入場した私服警官を取り押さえ、警察手帳を奪うなどしたとして学生が暴力行為処罰法違反の罪に問われた。

 最高裁は63年の判決で「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている」と言及、大学の自治について初の判断を下した。一方で演劇については「実社会の政治的社会的活動であり、かつ公開の集会またはこれに準じる」と指摘し、大学の自治の範囲外に当たるとして、無罪とした一、二審判決を破棄した。

 51年の「愛知大学事件」では、大学の自治をより重んじる司法判断が示された。愛知大(名古屋市)に立ち入った制服警官を拘束し、殴ったとして、学生が公務執行妨害や暴力行為処罰法違反などの罪で起訴された。

 二審の名古屋高裁は70年、大学における情報収集活動を含む警察活動は大学当局の許諾が必要とする原則を示した上で、公務執行妨害罪は成立しないとの判決を言い渡した。最高裁も検察側の上告を棄却した。

 戦前の京大でも、大学の自治が問われた事件が起きている。25年、府警察部が大学側への通告や法的手続きを経ず吉田寮(左京区)に入り、左翼運動をしていた学生を連行した「京都学連事件」だ。

 「京都大学百年史」によると、事件直後の学生大会は「警察のとった処置に対し府当局と内務大臣に弁明を求む」などとする決議を採択。法学部教授会は「大学の使命たる研究と教育を妨げるものだ」との意見書を出した。当時の荒木寅三郎総長は内務相と文部相に捜査の不法性を訴えた。

 今回のケースで、京大は警官が大学構内に立ち入る場合は府警から事前に通告を受け、大学職員か学生が立ち会うと取り決めているとして、遺憾の意を表明した。一方、府警本部は「取り決めの存在の有無も含め調査している」とする。

 立命館大法学部の倉田玲教授(憲法)は「ポポロ事件の前、日本における大学の自治は教員人事を念頭に置いたものだった。63年の最高裁判決で、学問の自由を保障するための自律的な組織運営という広い概念となった」と説明。その上で「自治のある大学に権力が土足で踏み込まないようにするための取り決めがあったとすれば、警察側が一方的に破ったことに対して京大が異議を唱えるのは当然のことだ」と話す。


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