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2014年11月26日

大学入試改革、大切なのは入学後だ

東京新聞(2014年11月25日)

 大学入試改革について中央教育審議会がまとめた答申案は、知識の豊かさのみでなく、いわば人物の力量を重視する方向へかじを切るものだ。理念はわかるにしても、実現へのハードルは高い。
 漫然と高校に入り、惰性で大学受験を目指す。合格すれば、ほとんど難なく卒業でき、有名校であるほど就職に有利になる。高度成長に伴い、日本に広く根を下ろした人生行路の一典型だろう。
 だが、少子化やグローバル化が進み、先行きは見通せない。受け身で詰め込んだ知識量を一点刻みで争わせ、人生まで左右する大学入試では公正ではないし、そぐわない。答申案の問題意識はうなずけるものがある。
 そこで、入試の位置づけを抜本的に見直すという。子どもが高校で夢や目標を描き、積み重ねた努力を入試で評価し、大学や社会で花開くようにする、と。
 具体化はどうか。高校では、基本的な知識や技能が身についているかを確かめる「高校基礎学力テスト」を取り入れる。二、三年生向けだ。学力は担保したい。
 大学入試では、一発勝負のセンター試験を「大学入学希望者学力評価テスト」に切りかえる。教科を組み合わせて出題し、基礎知識を使いこなせるかを問う。
 加えて大学の個別試験では、小論文や集団討論を課したり、高校時代の活動実績を見たりする。意欲や仲間と協働する力をふくめ全体の力量を多角的に評価する。
 点数化できる能力のみでの一度限りの選抜では、子どもの可能性が見落とされかねない。人物重視の仕組みへの転換には異論を差しはさみにくいが、疑問も多い。
 新テストは年幾度か受けられるが、高校生活がテスト漬けにならないか。課外活動や行事にも響く。合否の決め方に納得するか。
 最大の問題は大学だ。とりわけ大規模大学は、受験生一人ひとりを丁寧に評価できるか。選抜基準をはじめ、制度設計は至難に違いない。財政負担も大きい。
 子どもの人口が減り、大学全入時代と呼ばれる。振るい落とすという入試の機能は働きにくい。重要になるのは、大学の出口の厳格化だ。学生の能力を引き出し、鍛え上げて社会に送り出すという役割が強く求められる。
 この先、学習指導要領が改定され、小中高校の教育が変わる。知識偏重でなく、自ら考え、仲間と共に動く力を培う授業になる。大学はその受け皿だ。可能性が花開く教育のあり方を吟味すべきだ。

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