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2014年12月10日

日本科学者会議、緊急シンポジウム声明「安倍政権の高等教育政策と改正学校教育法等にもとづく各大学の学内規則改正に対する声明」

日本科学者会議
 ∟●東北地区シンポジウム「安倍政権の高等教育政策と改正学校教育法等にもとづく 各大学の学内規則改正に対する声明」

安倍政権の高等教育政策と改正学校教育法等にもとづく
各大学の学内規則改正に対する声明

 日本の大学は歴史的な転換点にある。「大学のガバナンス改革」を掲げた最近の一連の政府・文部科学省 の高等教育政策は、2004 年の国立大学法人化の意図を本格的に実現し「総仕上げ」をはかる内容となっている。

 その究極的なねらいは、安倍政権の国家戦略を支える大学づくりにある。経済同友会や経団連といった財界諸団体の各提言、政府が閣議決定した「日本再興戦略」や中央教育審議会答申をふまえた「国立大学改革 プラン」(2013 年 11 月文科省策定)は、グローバル化に対応できる人材育成、科学技術イノベーションの拠 点化、ガバナンス機能の強化を提起した。これらはグローバル企業など大企業を中心とする財界が、台頭す る新興国を含む国際競争に打ち勝つために大学に求めた内容にほかならない。

 従来の高等教育政策と異なるのは、その手法にもある。昨年度までに各国立大学の学部などを分野別に類 型化して文科省が実施した「ミッションの再定義」では、大学の自主的判断よりも同省の意向が強く反映さ れた。上記の提起が各大学・学部のミッションに挿入され、特に人文系や教員養成系の学部に対しては組織 の改廃を同省が書き込んだ。大学教員給与制度に業績評価による年俸制の導入も提起され、各大学には同省 が示した数値目標通りの導入が指示された。2016年度からの第3期中期目標期間では運営費交付金の3~4割を各大学の改革達成度に応じた配分に充てるとした。行政指導のレベルがより直接介入的なものに高められ、かつ大学予算の基本部分に食い込むレベルの財政誘導を行うという、極めて強権的な手法といえる。

 また、今年8月に公布された改正学校教育法は、戦後日本の「大学の自治」の基盤となってきた教授会の 権限を「教育研究に関する事項」について学長に意見を述べることに制限した。教員採用などの人事権を教 授会から取り上げ学長が決定するとした。文科省は「改正法の趣旨」を徹底するべく省令により施行規則を 改正し、さらには施行通知と学内規則見直しのチェックリストの作成まで行い、各大学への「行政指導」を 強めている。これにより、法人化後も従来通り教授会審議が尊重されてきた国立大学の意思決定過程や運営 システムを学長に権限を集中させる形態に徹底して改変することが目指されている。教授会を「改革を妨げ る勢力」と決めつけて斥け、少数の管理職によるトップダウンを一方的に強化する改革の発想は、一般の教 職員の協同や創造性・主体性に信頼を置かないものと言わざるをえない。

 改正国立大学法人法では外部委員が半数を占める学長選考会議が学長選考の「基準」を定めることが規定 された。その「基準」はその時々の政府の政策方針に従う大学づくりを行える資質を学長候補に求めるもの となることが予想される。改正学校教育法もあわせた一連の法改正のもとでの各大学における学内規則改正 案では、学長選考会議による学長の選考・任命の徹底、学長による学部長の任命制などが盛り込まれつつあ る。そこでは、各大学の一般の教職員が選挙で学長や学部長を選出する方法が排除され、「学長のビジョン を共有できる学部長の任命」(中教審答申)を趣旨としてトップダウンで大学・学部の執行部を任免すること が目指されている。教授会のあらゆる議決権の廃止も規定され、一般の教職員は意見を述べられるが決定に は参画できない。まさに、「選ばれた」少数の管理職による専制的な大学運営が実行できる体制づくりである。これら一連のガバナンス改革が文字通り各大学に貫徹したならば、多様な考えや価値の共存共生という 大学の特性の確保・発展や一般の教職員の組織(大学・学部など)に対する能動的主体性の発揮、あるいは 管理職の正統性や支持の獲得などといった、およそ組織の運営において不可欠な基盤・条件は喪失ないし著しく制約されるだろう。一般の教職員は自らの手でこの大学をつくり担っているという自覚を持てず、主体的な意欲の喪失と無責任からくる倫理的な退廃が各大学で進行することが予想される。

 さらに注意すべきは、軍学共同の動きである。政府による「集団的自衛権」の解釈改憲にもとづく閣議決定には世界展開するグローバル企業の施設・資産の保全や市場の安定確保も視野に入っている。アメリカや 軍需関連企業などの要求をふまえて武器禁輸三原則を撤廃し特定秘密保護法を成立させた安倍政権は、2013 年 12 月に閣議決定した防衛計画大綱などで大学や研究機関との巨額な資金による軍学共同研究の推進を提起した。実際に大学・研究機関と防衛省防衛技術研究本部との軍学共同研究の協定は 2013 年以降だけで9件 にものぼり急増しつつある。今年5月に軍事研究を拒否する判断を東京大学が行ったが、改正学校教育法に もとづくガバナンス改革はそうした動きを封じ込め各大学において軍事研究を推進しやすい体制をつくり出 すことに結果するおそれがある。

 このように日本の大学は安倍政権による「国策に従う大学づくり」に直面している。高等教育政策にみら れる強権的な手法は、もはや「大学の自治」や「大学の自律性・自主性」を尊重する政策スタンスにはない。 そこでは、戦前・戦中において日本の大学が自由な学問研究と社会批判を封じられ軍事研究に動員されたこ との痛切な反省から、日本国憲法で「学問の自由」を規定しそれを保障するものとして「大学の自治」と教 授会審議を尊重してきた戦後日本の大学観は、かなぐり捨てられている。こうした動向は最高法規たる日本 国憲法の理念に実質的に抵触すると言わざるをえない。そして、今回の学内規則改正では、法人化後も事実 上各大学の学内規則で残っていた、教育公務員特例法の規定と類似する事項(教員の採用・昇任・転任・降 任・免職など人事権を含む)を教授会や教育研究評議会の審議事項から一切排除することが施行通知やチェ ックリストで文科省より指示された。こうした「行政指導」は改正学校教育法では直接言及されていない範 囲にまで及びつつある。これらのことが文字通り行われたならば、一般の教員による健全な批判精神にもと づく政治・社会への言論、体制や権威を恐れず真理を追究する学問的姿勢は抑制され、結局は創造的な学問 研究と主体的な学生教育を衰退させると考えられる。こうした事柄については既に、中世ヨーロッパ以来の 大学の歴史を紐解くまでもなく、日本でも戦前・戦中において、人類は幾度も辛酸を舐め経験してきたので はないか。大学を死に至らしめる過ちを繰り返してはならない。

 われわれは、日本国憲法に規定された「学問の自由」・「大学の自治」の精神を遵守する立場から、安倍 政権の一連の高等教育政策に反対する。各大学はこれら一連の施策に迎合することなく、大学の主体性を発 揮し、学内における民主的な議論にもとづき、構成員の主体性を可能な限り尊重した大学運営を実現する見 地から、学内規則の改正に対応していくことを求める。

以上

2014年11月29日

緊急シンポジウム「大学は今-学校教育法・国立大学法人法と大学の現状」参加者一同

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