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2015年04月14日

大都市部の私大入学者抑制へ 文科省、16年度から補助金交付基準を厳格化

現代ビジネス(2015年04月13日)

文部科学省は早ければ2016年度の大学入学者から、首都圏など大都市部にある私立大学の入学者数を抑制する方針だ。「私立大学等経常費補助金」の不交付対象となる入学定員超過率のラインを厳しくするもので、現在、定員8000人以上の大規模大学の場合、定員の120%以上なら不交付になるが、これを110~107%まで減らす方針で調整している。定員8000人未満の私立大も、現行の130%から120%へ引き下げる。

「私立大学等経常費補助金」は私立大や高等専門学校を対象に、教育・研究環境の向上や学生の負担軽減のため補助する制度で、教職員数や学生数に応じて交付する。私立大収入の約1割を占め、13年度は880校に計3204億円を交付した。

同補助金の不交付ルールを厳格化する狙いは主に2点ある。一つは、大都市への学生集中を抑制し、地方からの学生流出に歯止めをかけること。安倍晋三政権が推進する地方創生策の一環だ。

対象となるのは、首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)▽関西圏(京都、大阪、兵庫)▽中部圏(愛知)の私立大。

なぜこの3大都市圏が対象なのか。文科省や日本私立学校振興・共済事業団によると、14年度は私立大全体では46%が定員割れを起こしている。この割合は前年度より5・5ポイント上昇している。しかし、その多くは地方大学で、3大都市圏では逆の現象が起きているのだ。

3大都市圏に偏る入学者

3大都市圏の私立大入学者は、▽首都圏20万4287人▽関西圏7万6677人▽中部圏2万9206人。この3大都市圏だけで計約31万人に上り、全私立大の入学者の65%、国公私立合わせた入学者のおよそ半数を占める。

このうち入学定員を超過した人数は計約3万3000人(首都圏2万2007人▽関西圏7541人▽中部圏3386人)。中でも定員の110%以上の学生数は計約2万6000人で8割を占める。定員超過率の基準を110%近くまで引き下げる狙いはここにある。新基準が適用されると、超過人数の多くが不交付対象になるとみられる。

定員超過率の厳格化のもう一つ狙いは、「地方創生」よりも以前から指摘されていたもので、教育環境の改善だ。

教員当たりの学生数(ST比)は、日本は欧米の有名大学と比べると高い傾向にある。国内の国立、私立のトップ大学である東京大、京都大、慶応大、早稲田大の4大学の平均は15・2。一方、ハーバード大(米)は4・36、ケンブリッジ大(英)は4・66、カリフォルニア工科大(米)は5・56、などと教員数が充実している。

大学では、教授が一方的に講義する従来の授業方式から、学生自身で課題を見つけ討論しながら解決策を探る「アクティブラーニング(課題解決型学習)」の必要性が高まっており、多くの大学で取り入れる動きが進んでいる。ST比の引き上げは不可欠だ。

そうした中で、「定員超過」は逆行する動きといえる。大学の入学定員は、国が教育環境上「適正」とする標準規模だ。それでも一定の幅で認めているのは、受験生が他大学にどの程度流れるかを見極めるのが難しいことや、入学後に中退する学生が出ることなどから、大学は多めに合格者を出さざるを得ないことに配慮しているのだ。

今回、不交付対象となる定員超過率を引き下げるのは、大都市圏の大規模大学の中には、推薦入試などで「入学者数を調整することができる」(大学関係者)ことを利用し、基準ぎりぎりまで学生を受け入れているところも少なくないからだ。授業料など学費収入を増やすための経営戦略でもある。

このため、文科省の方針について、反発も予想される。関西圏の大規模私大の担当者は「財政を直撃するだけに深刻だ」と打ち明ける。大学財政の根幹は学費収入だ。さらに「合格しても入学しない受験生の歩留まりを読むのは難しい。今よりも超過率の基準が厳しくなれば、どうなるのか」と悩む。これに対し、「定員超過というルール違反をしているわけだから表だっては反対はできないだろう」(文科省幹部)という見方もある。

地方の大学はどうか。東北地方の私立大幹部は「定員割れしている地方大には一定の効果はある」と期待する。四国の私立大関係者も「ありがたい話」と歓迎するが、「それで受験生が地方大を向くかというと、そう単純な話でもないと思う」とも指摘する。

定員超過率を厳格化すれば、定員自体を増やす大学や、補助金不交付を覚悟で多めに入学者を取る大学が出る可能性もある。定員の基準や助成金の交付条件を地方大学に有利になるよう見直したり、大学の地方移転を財政支援する仕組みも必要になる。

一方、私立大だけを厳しくして国公立大学に学生が流れては効果が薄れるため、国立大でも運営費交付金の不交付対象になる定員超過率を現行の110%から引き下げる方針だ。

政府の地方創生総合戦略は今後、大都市圏への集中を解消し、地方の学生が自分の住む県の大学に進学する割合を20年までに36%(13年度は33%)に引き上げる目標を掲げる。

地方大学支援を強化

地域格差を解消するには入学者抑制と同時に、地方大学の機能強化と、地方の雇用創出も必要だとして、文科省は地方大学への支援策を15年度から強化する。

その一つが文科省の補助事業「地(知)の拠点大学による地方創生推進整備事業」。雇用創出などの取り組みは一大学では限界があるため、都道府県単位で、複数の地方大学が地元の自治体や企業と連携して雇用創出など地元定着率を上げる計画だ。補助期間は5年間。同省は「これまで自治体にとって教育行政と言えば義務教育が中心だったが、政策の実現ツールとしての大学に注目して連携を強化してほしい」と話している。


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