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2015年04月14日

自由法曹団、高度プロフェッショナル制度を創設し、裁量労働制を拡大する労働基準法「改正」案等の国会提出に抗議し、廃案を要求する声明

自由法曹団
 ∟●高度プロフェッショナル制度を創設し、裁量労働制を拡大する労働基準法「改正」案等の国会提出に抗議し、廃案を要求する声明

高度プロフェッショナル制度を創設し、裁量労働制を拡大する労働基準法「改正」案等の国会提出に抗議し、廃案を要求する声明

1 安倍内閣は、2015年4月3日、労働時間規制の適用を除外する「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」の創設や企画業務型裁量労働制の拡大等を定める労働基準法の「改正」案等を閣議決定し、同日、同「改正」案等を国会に提出した。

2 「改正」案の高度プロフェッショナル制度は、「この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。」と定め(41条の2の1項本文)、残業代や深夜割増賃金の不払いを合法化する制度であり、2007年に第1次安倍内閣が国会提出断念に追い込まれたホワイトカラー・エグゼンプションそのものである。

 「改正」案は、高度プロフェッショナル制度の対象業務を、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定められる業務」と定めている(41条の2の1項1号)。しかし、上記の「高度の専門的知識等」や「従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くない」との概念はあいまいであり、これでは対象業務の範囲は際限なく拡がりかねない。

 「改正」案は、高度プロフェッショナル制度の対象労働者を、「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間あたりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上」の賃金の労働者と定めている(41条の2の1項2号)。この点について、建議は、「具体的な年収額については、労働基準法第14条に基づく告示の内容(1075万円)を参考に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当である。」としている。しかし、日本経団連は、2005年6月21日発表の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」の中で、対象労働者を「年収400万円以上」の労働者にすることを提言しており、早くも、日本経団連の榊原定征会長は、4月6日の記者会見で、「最終的にこの制度を実効性あるものにするには、年収要件の緩和や職種を広げる形にしないといけ
ない」などと言い出している。

 労働基準法は、企画業務型裁量労働制については、「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」(38条の4の1項1号)と定めている。ところが、「改正」案は、高度プロフェッショナル制度について、上記のような定めをまったくしていない。この制度の下では、使用者は、対象労働者に対して、始業時刻や終業時刻を定めたり、指揮命令や具体的な業務指示をすることを禁止されていない。これでは、高度プロフェッショナル制度下の対象労働者は、際限のない長時間労働や深夜労働を強要されかねない。

以上のとおり、新たに創設される高度プロフェッショナル制度は、労働時間規制を全面的に解体するものであり、とうてい許されない。

3 「改正」案は、企画業務型裁量労働制について、対象業務を①「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」、②「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は
締結を行う業務」に拡大するとしている(38条の4の1項1号ロ、ハ)。しかし、上記「実施の管理」、「実施状況の評価」及び「契約の締結の勧誘又は締結」の業務は、「その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある」業務とはいえず、このような業務を企画業務型裁量労働制の対象にすることは許されない。

 現行の労働基準法施行規則は、事業場の労使委員会の企画業務型裁量労働制についての決議の届出は、所轄の労働基準監督署にしなければならないと定めている(24条の2の3の1項)。ところが、建議は、現行の所轄の労働基準監督署への届出に代えて、「事業場の労使委員会決議の本社一括届出を認める」等と、手続を簡素化するとしている。しかし、事業場に対応する地元の労働基準監督署でなければ、裁量労働制についての適切な監督、指導は期待できない。労使委員会決議の本社一括届出は、労働基準監督署の監督、指導を弱める措置であり、とうてい認めることはできない。

4 「改正」案は、フレックスタイム制について、清算期間の上限を現行の「1箇月以内」から「3箇月以内」に延長している(32条の3の1項2号)。
 しかし、フレックスタイム制では、清算期間が長くなればなるほど、長時間働く労働日が生じがちになる。実質的には、それだけ、長時間労働と残業代不払いが増えることになる。清算期間の上限の延長も、とうてい認めることはできない。

5 以上のとおり、「改正」案の高度プロフェッショナル労働制度の創設や企画業務型裁量労働制とフレックスタイム制の拡大は、「1日8時間・1週40時間」の労働時間法制の大原則を破壊し、過労死を激増させ、残業代をゼロにするものであり、とうてい容認できない。
 自由法曹団は、高度プロフェショナル労働制度を創設し、企画業務型裁量労働制とフレックスタイム制を拡大し、労働時間法制の大原則を破壊する労働基準法「改正」案等の国会提出に抗議し、その廃案を強く要求する。そして、「労働時間(時間外労働)の上限を法律で規制すること」、「24時間について継続した一定の時間以上の休息時間(インターバル時間)を法律で定めること」等の長時間労働を抑制し、人間らしく働くルールを確立することを要求するものである。

2015年4月13日

自由法曹団
団長 荒井 新二

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