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2015年04月23日

全大教、声明「政府の国旗・国歌「要請」方針に抗議するとともに長・国立大学協会は自律的判断にもとづく行動をすることを求める」

全大教
 ∟●声明「政府の国旗・国歌「要請」方針に抗議するとともに長・国立大学協会は自律的判断にもとづく行動をすることを求める」

(声明) 政府の国旗・国歌「要請」方針に抗議するとともに
学長・国立大学協会は自律的判断にもとづく行動をすることを求める

2015年4月22日

 2015年4月9日の参議院予算委員会で、松沢成文委員(次世代の党)が行った国立大学の入学式・卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱の実施率が低いとして政府の対応を求める質問に対し、安倍晋三総理大臣は「(国立大学が)税金によって賄われているということに鑑みれば新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべき」、下村博文文部科学大臣は「国旗掲揚・国歌の斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着していること、平成11年8月国旗国歌法が施行されたことを踏まえ、各大学で適切な対応が取られるよう要請していきたい」とそれぞれ答弁した。さらに、4月10日閣議後の記者会見で下村文部科学大臣は「各国立大学において適切な対応がとられるよう、これから国立大学の学長が参加する会議等において要請することを検討している。各大学に対して、国会における議論の内容や国旗・国歌の意義を踏まえ今後の入学式等における国旗・国歌の取り扱いについて検討していただくよう要請していきたい」と述べた。
 4月9日の安倍総理大臣の答弁には非常に重大な問題がある。
 第一に、国立大学に対する税金投入を理由に政府の方針に従うことを求めている点である。これでは、国立大学は常に時の政府の方針に忠実に従わねばならないことになり、大学としての自主性や、大学の構成員の議論にもとづいた民主的運営が一切保障されない。
 第二に、教育基本法の規定を根拠としている点である。国旗・国歌に対する態度は個人の内心の自由に関わる問題である。だからこそ、国旗国歌法はその審議過程で個々人への強制はしないという答弁が繰り返され、そのことを前提に制定された経緯がある。安倍総理の答弁は、2006年に改正された教育基本法の第2条第5項「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」を根拠にしたものと思われるが、日本国憲法を踏まえれば、この条文を政府が特定の行為を強制・奨励・禁止することを求めているものと解釈することは許されない。しかも安倍総理の答弁は、同じ教育基本法の第7条第2項で大学について「自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」とあることを無視している。
 下村文部科学大臣の4月10日の発言は、文部科学省が国立大学の学長に対しこの問題で直接に対応を要請するとしている点できわめて重大である。2004年の国立大学法人化以降、文部科学省は、運営費交付金の配分を決定する権限と、文部科学省内に置かれた国立大学法人評価委員会による評価の権限をてこに、国立大学の運営に関して歴然とした圧力をかけ続けてきた。今回、文部科学省は各国立大学の入学式・卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱状況の調査を行っており、こうしたことは各国立大学にとってはさらなる圧力として機能しうる。文部科学省からの「要請」とこれに基づく「調査」が行われた2012年からの最大9.8%の「給与臨時減額」にあたって、多くの国立大学法人の執行部は教職員に対して、文部科学省の要請は実質上の強制であると主張し、賃金切り下げを強行したのであった。
 学術は時の政府や国家権力から自由であるべきとして「学問の自由」が保障されるとされ、そのために国立大学にかぎらずすべての大学に「大学の自治」が保障されてきた。大学内で学生と教員の自由な活動が保障されるからこそ、最高学府として社会に貢献する成果をあげることができる。
 大学は、多様なバックグラウンドにもとづく、思想信条や国籍など多様なアイデンティティをもつ個人がそこに集い、談論風発の中で切磋琢磨しあう場である。もしも個人の尊重よりも組織や国家の論理が尊重されるようであれば、そのような場で先端的な学問が切り拓かれ、あるいはグローバルな人材が育つはずはない。
 政府はあらためて、国民の思想信条、内心の自由を尊重すること、大学の運営については大学内の議論にもとづく民主的運営、「大学自治」を守ることに立ち返るべきである。
 大学は、たとえ政府のこうした言動があったとしても、大学内での議論を重ね、あくまで自主的な判断によって今後の行動を決定していかねばならない。そうした態度こそが大学本来の力を発揮し、社会に貢献していくことにつながることを改めて確認するべきである。国立大学の執行部と、国立大学の学長の団体である国立大学協会には、政府のこうした不当な要請に屈することなく毅然とした態度で政府に抗議するとともに、学内の民主的議論にもとづく行動を取ることを求める。
 全大教は、そうした大学の構成員、大学自治の担い手の集団として、学内の民主的議論の中で、政府の不当な要請に屈することのない責任ある国立大学の一翼を担っていく覚悟であることを表明する。


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