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2015年05月12日

安倍流「国立大改革」の暴走

しんぶん赤旗(2015年5月10日)

安倍流「国立大改革」の暴走(上)、3類型に再編“人文系つぶし”

 安倍内閣が進める「国立大学改革」で、人文・教育系学部の廃止が浮上しています。86の国立大はどうなるのでしょうか。

 「この夏までに『国立大学経営力戦略』を策定し、『3類型』のミッション選択に基づく自己改革を進める」

 安倍晋三首相は4月15日の産業競争力会議の課題別会合でこう表明し、そのために「運営費交付金と競争的資金の一体改革を進める」と述べました。

 「3類型」とは、文科省が「国立大学改革プラン」(2013年11月)で打ち出した「国立大の機能強化の方向性」―(1)世界最高の教育研究拠点(2)全国的な教育研究拠点(3)地域活性化の中核拠点―に基づくものです。

国策に沿い選別

 同会合で下村博文文科相は、「特定研究大学」「卓越大学院」などの創設を打ち出し、国策に沿う大学や分野を選別支援していく考えを強調しました。

 これまで文科省は、「3類型に再編」ではなく、「機能強化の三つの方向性」と説明してきました。国立大学に対する運営費交付金の検討会でも、各大学が選んだ機能強化の方向について重点支援を行うものだと説明。国立大学協会も中間まとめ案を受けて「大学のいわゆる『類型化』ではないことを改めて確認いたします」としていました。

 ところが、安倍首相が表明したのは、国立大学を文字通り三つに再編しようというものです。

 同会合では、財界人が「研究面での新しい発見がなくなってきたり、動きが止まっているような学問領域を思い切ってやめて、新しい領域、学際分野を立ち上げるべきだ」(小林喜光三菱ケミカル会長)と発言。学部学科の統廃合を公然と求めています。

 そのターゲットは人文科学や教員養成系です。国立大学法人評価委員会の「組織・業務見直しの視点」では、教員養成・人文社会科学系の「組織廃止」を打ち出しています。

 日本共産党の田村智子参院議員は4月21日の委員会で、「国策に沿った産業振興のために、大学や分野を国が選別し、予算を重点化するのと一体に教員養成・人文社会科学系を縮小・廃止するものだ」と批判しました。

 国立大学の基盤的経費である運営費交付金は、法人化後の10年で約1292億円も削減され、文科省の裁量で重点配分する仕組みが導入されてきました。

資金獲得競争に

 今後は、各大学が「3類型」から一つを選択。文科省が、各大学の取り組みを評価して配分することが検討されています。

 大学同士が類型ごとに資金獲得競争に追い立てられ、3類型に再編されていくことになり、基盤的経費の削減がいっそう拡大する危険を抱えています。

 日本学術会議は提言で、「(人文科学は)人間と社会のあり方を相対化し批判的に考察する」と人文科学系の役割を強調しています。

 田村氏は「豊かな教養や高度な専門知識をどれだけ国民の中に培うのかということが日本社会の発展にとってきわめて重要だ。学部再編や廃止を政府が大学に突きつけることはあってはならない」と主張しました。(つづく)

安倍流「国立大改革」の暴走(下)、「交付金増額を」15大学が声明

しんぶん赤旗(2015年5月11日)

 国立大学に対する運営費交付金に占める重点配分の割合は2016年度の予算編成で決められます。経団連は、運営費交付金の3~4割を重点配分に充てるよう主張。財務省の財政制度等審議会も3割を求めており、予断を許さない情勢です。

財界人や元大臣

 和歌山大学の山本健慈前学長は自著のなかで、文科省から「大改革をしていない」と評価されれば「そんな大学は退場してもらいますということに追い込まれていくと思います。まさに地方国立大学は『壊死(えし)』してしまう」と批判しています。

 日本共産党の田村智子参院議員は「運営費交付金の総額を増やさないまま重点配分を行えば、必然的にどこかを削る、縮小することになる」と追及しましたが、下村博文文科相は「増額する」とは言明しませんでした。

 こうした動きに各大学がいっせいに批判の声をあげています。

 東北、山形、福島、福井、奈良教育、和歌山の6国立大学の学長が3月、記者会見し、「(交付金の)削減は教育や研究の質の低下を招き国立大が衰弱する」と訴えました。

 各国立大学に設けられている経営協議会の学外委員も、交付金削減に反対し、財政支援を求める声明を発表。北海道教育、東北、秋田、山形、福島、筑波、静岡、名古屋、福井、奈良教育、和歌山、広島、高知、山口、宮崎の15大学に広がっています。

 学外委員にはトヨタ自動車会長、ファミリーマート会長ら財界人をはじめ、有馬朗人、遠山敦子両元文部・文科相も名を連ね、「基盤的経費の削減が続いていくならば『10年間で世界大学ランキングトップ100に日本の大学を10校以上』等の目標達成は、国立大学の衰退とともに実現が困難になってくる」(名古屋大学学外委員声明)として増額を求めています。

競争的資金では

 安倍内閣は、「競争的資金」についても「一体改革」を進め、交付金と併せて財源を確保するとしています。

 競争的資金は、各省庁がテーマを決めて募集し、審査で選ばれた大学や研究者らに出されるものです。14年度予算は4162億円で科学技術関係費の約11%を占めます。

 これまでも運営費交付金が減らされ、競争的資金が増やされてきました。しかし、競争的資金は3~5年の短期が主流です。研究者は研究しながら次の資金獲得を準備しなければならず、非常勤の研究者を増大させる要因になっています。

 日本学術会議は提言で「競争的資金で雇用される若手研究者やポスドク(ポストドクター=非常勤の研究員)等は、競争的資金での研究成果を出すことが困難となっている」と指摘しています。

 ところが、文科省は「産業界との連携を進めていく」として、財界の要求に応える仕組みや外国人研究者の登用を打ち出すなど競争的資金の性格をいっそう強める姿勢です。

 田村議員は「競争的資金を増やしても運営費交付金を減らしたままでは学術研究の発展はない」と指摘し、運営費交付金の増額を求めました。


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