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2015年06月17日

文科相、国立大に国旗・国歌要請

文科相 国旗・国歌で適切な判断を要請

NHK(6月16日)

下村文部科学大臣は、国立大学の学長らを集めた会議に出席し、入学式などでの国旗や国歌の取り扱いについて、「国旗掲揚や国歌斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着している」などと述べたうえで、各大学で適切に判断するよう要請しました。
安倍総理大臣は、先の国会審議で、国立大学の入学式や卒業式で国旗掲揚や国歌斉唱を行っていないケースがあると指摘されたのに対し、「国立大学の運営が税金で賄われていることに鑑みれば、教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきではないか」などと述べました。
これに関連して、下村文部科学大臣は、16日国立大学の学長らを集めた会議に出席し、入学式などでの国旗や国歌の取り扱いについて、「国旗と国歌はどの国でも国家の象徴として扱われている。国旗掲揚や国歌斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着していることや、平成11年に国旗および国歌に関する法律が施行されたことを踏まえ、各国立大学で適切に判断いただけるようお願いしたい」と述べました。
今回の要請を巡っては、国内の大学教授らで作るグループが「学問の自由と大学の自治を揺るがしかねない」などとして反対する声明を発表しています。
下村大臣は16日の要請のあと記者団に対し、「最終的には各大学が判断されることであり、要請が大学の自治や学問の自由に抵触することは全くない。昔と比べると、国旗や国歌に対する国民の意識も変わってきたと思うので、時代の変化を各大学で適切に判断していただきたい」と述べました。
要請を受けた学長たちは
16日の会議に出席していた滋賀大学の佐和隆光学長は「国旗掲揚と国歌斉唱に関する要請にあたっては、国立大学が税金でまかなわれていることが要請の理由ともとれる発言がこれまでに聞かれたが、納税者に対して教育研究で貢献することが大学の責任だ。今回の要請に従う必要はないと思っている」と話しました。滋賀大学では国旗掲揚はしており、国歌斉唱はしていないということです。
また、国旗掲揚も国歌斉唱もしていない京都大学の山極壽一学長は「『適切に』ということだったので、大学の自治を尊重してくれていると考える。対応はまだ決められないが、これまでの伝統を踏まえて議論する」と話していました。
琉球大学の大城肇学長は「大学ができて65年になるが、日本に返還される前も国立大学になってからも国旗掲揚や国歌斉唱は行っていない。大学改革など優先して取り組まなければならない課題があり、今回の要請にどう対応するかの議論は棚上げにしておきたい」と話していました。
要請の経緯と反対の動き
今回の要請は、入学式や卒業式で国旗掲揚や国歌斉唱を行っていない国立大学があると、ことし4月、国会で指摘されたことがきっかけでした。
国会議員からの要求を受けて、文部科学省が初めて全国86の国立大学を対象に、国旗と国歌の扱いを調べたところ、ことしの入学式で、国旗掲揚を実施すると答えたのは74校、国歌斉唱を実施すると答えたのは15校でした。
教育現場での国旗掲揚と国歌斉唱。小中学校と高校では、入学式や卒業式などで国旗掲揚と国歌斉唱を行うよう指導すると学習指導要領に定められていますが、大学にはそうした規定はありません。
平成11年、日の丸・君が代を国旗・国歌と定めるための法案を審議していた参議院の特別委員会では、当時の有馬文部大臣が「大学は学習指導要領が適用されないので、少し違った立場になる。国立・公立大学の入学式、卒業式における国旗や国歌の取り扱いについては、入学式などが大学の教育研究活動の一環として行われていることに鑑みて、各大学の自主的な判断に任せられている」と答弁しました。
国立大学に対する今回の要請については反発の声が挙がっていて、教育学や憲法学が専門の大学教授らおよそ20人で作るグループが「政府の権力、権威に基づいて国旗国歌を強制することになり、学問の自由と大学の自治を揺るがしかねない」などとして、要請に反対する声明を4月に発表しました。
このグループの声明に賛同して署名した人の数は、先月末時点で3250人余りとなっています。今月に入ってからも、弁護士やNPO関係者などおよそ200人のグループが反対声明を出しています。
また、15日は全国の国立大学で作る「国立大学協会」の会長に再任された東北大学の里見進学長が会見で、「大学では表現や思想の自由は最も大切にすべきもので、それぞれの信条にのっとって各大学が対応すると思う。萎縮しないよう頑張っていきたい」と話しました。
専門家「要請は大学を委縮させる」
大学教育の在り方を研究している日本高等教育学会の会長で、筑波大学の金子元久特命教授は今回の要請について、「国立大学は国の財政負担の上に成り立っており、『要請だけだ』と言っても、大学を萎縮させる効果を持つだろう」と話しています。
そのうえで「国立大学の法人化は、政府の直接の関与を受けず大学が自分で考えイノベーションを生ませることが精神だったはずだ。グローバル化のなかで外国人の学生や教員も増えているがそうした人たちにも国歌斉唱を求めるのは現実的ではなく、大学の自立性や国際化の観点から見て問題だと思う」と述べました。
一方で、「大学の自治は守られるべきだという一辺倒でこうした動きに反対するのはもう無理だと思う。なぜ自立性が必要か、国立大学が社会に何を還元すべきか、もっと真剣に考えていかなければいけない」と話していました。

文科相、国立大に国旗・国歌要請 大学自治巡り反発も

日経(2015/6/16)

 下村博文文部科学相は16日、東京都内であった全国の国立大学長らが一堂に会する会議で「国旗と国歌の取り扱いについて適切に判断いただけるようお願いします」と述べ、入学式や卒業式での国旗掲揚と国歌斉唱を要請した。「大学の自治」への介入とも受け止められかねない発言に、各学長から様々な声が聞かれた。

 下村文科相は要請後、記者団に「最終的には各大学が判断することで、大学の自治や学問の自由に抵触することは全くない。介入ではない」と強調。国旗国歌法の制定から15年以上が経過しているとして「国民が国旗や国歌に親しみを感じるようになってきた」と要請の理由を説明した。

 小中高校の学習指導要領では、入学式などで国旗掲揚や国歌斉唱を指導するよう定めているが、国立大学にはこうした規定はない。文科省によると、全国の国立大86校のうち、今年3月の卒業式で国旗を掲揚したのは74校、国歌を斉唱したのは14校だった。

 国立大での国旗国歌については、4月の参院予算委員会で安倍晋三首相が「正しく実施されるべきではないか」との認識を示し、下村文科相も「各大学で適切な対応が取られるよう要請していきたい」と述べていた。

 一方、入学式などで国旗掲揚や国歌斉唱をしていない京都大の山極寿一学長は「下村文科相は『適切に』と言っており、大学の自治を尊重してもらっていると考える。伝統を踏まえ適切に議論する」と発言。両方していない琉球大の大城肇学長は「学内で議論すれば混乱するので当面棚上げする。大臣の話だから強制的と捉える大学はあるかもしれない」と話した。

 国歌斉唱をしていない滋賀大の佐和隆光学長は「強制とは受け止めないが、(下村文科相が言うように)国歌斉唱が慣習になっているとは思えない」と否定的な見方を示した。

文科相、国立大に国旗・国歌要請…大学側反発も

読売(2015年06月16日)

 下村文部科学相は16日、国立大全86校の学長らを集めた東京都内の会議で、入学式や卒業式の際には国旗掲揚や国歌斉唱を行うよう要請した。

 国旗掲揚と国歌斉唱を両方とも行っている国立大は約16%にとどまっており、大学関係者からは「大学の自治や自主性は尊重されるべきだ」などと反発する声も上がっている。

 会議は文科省が各国立大に大学入試改革や運営費交付金などの方針を説明するために開かれた。その際、下村文科相は国旗掲揚や国歌斉唱について、「各国立大の自主的な判断に委ねられているが、適切に判断いただけるようお願いする」と実施を求めた。

 国立大での国旗掲揚などを巡っては、安倍首相が今年4月の参院予算委員会で、「税金によって賄われていることに鑑かんがみれば、(愛国心などのかん養をうたった)教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきだ」との考えを示していた。

 小中高校の場合、学習指導要領に国旗掲揚と国歌斉唱を行うよう明記されているが、大学については明確な規定がなく、各大学の裁量に任されている。文科省の調査によると、今年の卒業式で国旗掲揚と国歌斉唱をいずれも行った国立大は14校。国旗掲揚のみ実施したのは60校で、12校はどちらも行わなかった。国旗掲揚の方法としては、式典会場の壇上に学校の旗とともに掲げたり、式場の外のポールに揚げたりで、国歌については「演奏だけ行っている」という大学も含まれている。

国旗国歌要請:文科相「適切判断」迫る 国立大学長は困惑

毎日新聞(2015年06月16日)

 下村博文・文部科学相は16日、東京都内で開かれた国立大学86校の学長を集めた会議で、入学式や卒業式での国旗掲揚と国歌斉唱を要請した。さらに、文科省が8日に通知した文系学部の廃止などの組織改編を進める方針についても説明し、改めて改革を促した。補助金と権限を握る文科省からの相次ぐ求めに、出席した学長らの間には困惑が広がり、一部の教員からは「大学攻撃だ」と反対の声も上がっている。

 国旗・国歌については、安倍晋三首相が4月に国会で「税金で賄われているということに鑑みれば、教育基本法にのっとり正しく実施されるべきではないか」との認識を示していた。下村文科相は16日、「各大学の自主判断」としながらも「長年の慣行により国民の間に定着していることや、(1999年8月に)国旗・国歌法が施行されたことも踏まえ、適切な判断をお願いしたい」と要請した。

 会議後の学長らは厳しい表情。琉球大の大城肇学長は「学内で問題提起しようと思うが、かなり混乱すると思う。集団的自衛権の議論や基地問題ともリンクして、大学改革とは違う所に話が飛んでいきそうな気がする」。50年の創立以来、慣例で国歌斉唱や国旗掲揚はしていない。「個人的には棚上げにしておきたい」と複雑な心境をのぞかせた。

 滋賀大の佐和隆光学長は「納税者には(国立大としての)責任を果たすべきだと思うが、国の要請に従う必要はない」と強調した。国旗掲揚はしているが、国歌斉唱はしておらず、その方針を継続する考えを示した。

 文科省によると、今春の卒業式で国旗掲揚したのは74大学、国歌斉唱は14大学だったという。

 一方で、文科省は国立大学に組織・業務の見直しを迫っている。8日の大学への通知では、人文社会科学系や教員養成系の学部の廃止や他分野への転換を求めた。国立大は中期計画(16年度から6年間)を作り、大臣の認可を受けなければならない。下村文科相はこの日「これらの学問が重要ではないと考えているわけではないが、現状のままでいいのかという観点から徹底的な見直しを断行してほしい」と理解を求めた。

 複数の学長は「交付金をもらえないと困る。今後、人文社会科学系の学部の定員は減らさざるを得ない」と話した。【三木陽介、高木香奈】


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