研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2015年07月13日

立命館大学法学部・法務研究科教員有志、安保関連法案に対する専門家の違憲論を尊重し、法案の撤回を求める声明

STOP! 違憲の「安保法制
 ∟●「安保関連法案に対する専門家の違憲論を尊重し、法案の撤回を求める立命館大学法学部・法務研究科教員有志の意見」

安保関連法案に対する専門家の違憲論を尊重し、法案の撤回を求める立命館大学法学部・法務研究科教員有志の意見

現在、国会で審議されている「平和安全法整備法案」と「国際平和共同対処事態支援法案」(以下、あわせて安保関連法案)は、米国など他国の防衛および他国の軍事行動と一体化した後方支援=兵站を目指す点で、戦争準備法の性格を持つと指摘されています。また、憲法学者をはじめとする研究者・有識者や弁護士会、さらに歴代の内閣法制局長官経験者の多くが、日本国憲法9条に違反する内容であるとして、法案への反対を表明しています。立命館大学法学部・法務研究科に所属する私たちは、「教育・研究機関として世界と日本の平和的・民主的・持続的発展に貢献する」と規定する立命館憲章の精神に基づき、戦争準備法として安保関連法案に反対します。また、政府・与党が法律専門家の違憲論に真摯に耳を傾け、安保関連法案を撤回することを求めます。

1 安保関連法案は、日本国憲法の禁ずる集団的自衛権の行使を認め、歯止めのない自衛隊の軍事行動をもたらすものです。
安保関連法案が成立すると、いかなる影響が出てくるのか、ここでは重大な問題3点にしぼって指摘します。

(a)「我が国と密接な関係にある他国」への武力攻撃を日本の「存立危機事態」だとして、自衛隊の武力行使が可能となります。これは日本国憲法が禁止する集団的自衛権の行使に該当します。「存立危機」の要件は曖昧なため、歯止めのない軍事行動に日本が踏み込むおそれがあります。

(b)「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)や、「国際社会の平和と安全を脅かす」事態(国際平和共同対処事態)という曖昧な概念の下、現に戦闘行為が行われている現場でなければ、世界のどこにおいてでも米国軍などの他国軍隊に対する「弾薬の提供」を含む後方支援=兵站が可能になります。兵站も武力行使と一体の活動として、やはり憲法の禁止する集団的自衛権の行使に該当します。自衛隊が兵站業務を行う「現に戦闘の行われていない現場」は、いつ戦闘が発生するかもわからない場所ですから、自衛官が攻撃を受ける危険は戦闘現場そのものと大差ありません。

(c)国連平和活動(PKO)のみならず、軍事的性格の強い集団的措置(多国籍軍)や国連が統括しない「有志連合軍」等による活動(「国際連携平和安全活動」)への自衛隊の参加の道が開かれます。武器使用を伴う「駆け付け警護」などの戦闘性の高い業務も拡大します。

(a)~(c)いずれの場面でも、自衛官の戦闘死や精神的健康被害の危険性が高まることは明らかです。同時に、自衛官が他国の民間人を誤射してしまうケースも増えるでしょう。また、日本が米国の軍事行動に参加することで、海外で暮らす日本人が「テロ」の標的となる危険も増えます。「国際社会に開かれた学園」をめざす立命館では様ざまな国からの留学生が学んでおり、また日本人学生の多くも海外留学を経験しています。留学生の母国が戦争の惨禍を被る事態や、留学中の日本人学生が「テロ」事件に巻き込まれる事態は絶対にあってはなりません。教学理念「平和と民主主義」に基づき、学生の学びを応援してきた立命館大学の教員として、将来のある学生たちが戦争に巻き込まれるような未来にしてはいけないと強く感じます。
安保関連法案提出の理由として、政府は、「我が国をとりまく安全環境は根本的に変容」した(2014年7月1日閣議決定、以下「7・1閣議決定」)と説明しています。しかし、冷戦期や2000年代前半と比べてアジアにおける緊張感が著しく高まったとする客観的な根拠を示せていません。米国の後方支援の強化が「抑止力」を持つという主張も観念的な域を出ず、むしろ東アジアの緊張関係を高めることにならないのか、中東地域で培ってきた日本の「平和ブランド」を損ねることにならないか、上述のような「テロ」の標的となるリスクが高まるのではないかといった多くの国民が抱いている懸念を払拭するような説明は、首相の会見の中でも国会答弁の中でもなされていません。

2 集団的自衛権の行使は憲法上認められないというのが憲法学の通説であり、従来の政府の立場です。これを政権の都合で変更するのは、立憲政治という貴重なルールと、それへの信頼を破壊します。
いずれにしても、日本が立憲主義国である以上、憲法が禁止する政策を推進できないことが大前提です。「集団的自衛権は憲法上認められない」というのが確立した憲法解釈であり、それゆえ憲法学者の多くが「安保関連法案に反対し、そのすみやかな廃案を求める憲法研究者の声明」(6月16日時点の賛同者230名)に賛同しました。日本弁護士連合会(日弁連)も法案に反対の意見書を出しています(6月18日)。
また、衆議院憲法審査会(6月4日)で参考人となった与党推薦も含む3名の憲法学者全員が「安保関連法案は違憲である」という見解を述べました。なによりも、「7・1閣議決定」以前の政府自身が「集団的自衛権は憲法上行使できない」という立場を公言していたはずです。
たしかに、憲法の文言は一義的ではなく、複数の解釈を許す場合もあります。しかし、そうした解釈の余地は、条文の文言や他の憲法規定との論理的な関連によって、あるいは過去の裁判例や慣行によって「枠」をはめられており、これを越える「解釈」はもはや解釈たりえないというのが法律学の「基本了解」です。こうした「基本了解」を政府や国会議員が守らなければ、憲法を頂点とする法への信頼は崩れます。政権の都合で憲法解釈を変更できる国は、もはや法治国家ではなく、ときの権力者の独善的な意思が支配する「人治国家」です。長年積み上げてきた政府の憲法解釈を国会での審議もないまま都合よく変更するような政権が、「徴兵制を導入することは憲法上あり得ない」(2014年7月15日参議院予算委員会・安倍内閣総理大臣)などと力説しても、まったく説得力がありません。
政府が「7・1閣議決定」の根拠とする、1972年の閣議決定は個別的自衛権を前提にしたものであることは、それ以降の政府答弁が一貫して「集団的自衛権は憲法上認められない」と述べてきたことからも明らかです。「7・1閣議決定」作成の中心となった高村正彦・自民党副総裁自身が、過去においては集団的自衛権の行使は憲法の限界を超えるという答弁を国会でしてきました(1999年2月9日衆議院安全保障委員会)。中谷元防衛大臣も、かつては、「憲法の解釈変更はすべきでない」という見解を著書で述べてきました(中谷元『右でも左でもない政治』幻冬舎2007年)。このような、過去の認識を都合よく変更するというのは、国会議員・大臣としての資質と誠実さが疑われるところです。
違憲論の声に危機感を覚えた、政府・与党は最高裁砂川判決を根拠として、「最高裁は集団的自衛権を排除していない」と強弁するに至りました。しかし、砂川判決では集団的自衛権行使などに言及しておらず、判例法理の明らかな歪曲です。与党公明党の幹部も、「7・1閣議決定」の際の与党協議においては、砂川判決では集団的自衛権は正当化できないという認識でした。ここにも政府・与党の「ご都合主義」の態度がみられます。安倍総理の「過去の憲法解釈に固執するのは政治家としての責任放棄」(2015年6月18日衆議院安保特別委員会)という発言に至っては、公務員の憲法尊重擁護義務をそれこそ放棄したものであり、総理大臣としての資質が問われる発言です。憲法学者や日弁連が批判しているのは、安保関連法案の内容自体の違憲性のみならず、こうした立憲主義の精神を無視した政治手法なのです。

3 法の専門家たちの意見を無視・軽視した法案の進め方に抗議します。
憲法学者の反対声明や日弁連意見書の他にも、「安全保障関連法案に反対する学者の会」(6月18日時点で賛同者約4600人)などが、それぞれの分野の学知を基盤として安保関連法案反対の声をあげています。法案を推進する政治家・官僚たちは、こうした専門家の意見にまずは耳を傾け、反論があるなら真摯に応答すべきです。ところが、政府・与党は、自分たちに都合の悪い専門家の意見を徹底的に無視・軽視しています。憲法学者たちの違憲論に対しても、政府閣僚や与党幹部たちは、「学者は法律の字面に拘泥しすぎ」、「憲法学者の言を聞いていたら平和は守れなかった」などと露骨に嫌悪感を示しています。前者は法令や判例の論理的な読解を核心とする法律学という知的営為の否定に等しい暴言であり、後者は実証的な論拠をもたない妄言です。このような非理性的な言葉を国政の担当者たちが簡単に口にする現状を、私たちは研究者として深く危惧します。
私たちの中にも、日本の安全保障・外交の方向性について様々な立場がありますし、日本国憲法の下での自衛権のあり方に関する理解にも一定の幅はあります。それは自由な研究の場として、むしろ自然なことです。しかしながら、憲法学者の圧倒的多数が採用し、60年間にわたり歴代政府も維持してきた、「集団的自衛権の行使は憲法違反である」という解釈は法理として確定しているという認識では一致しています。それゆえ、私たちは専門知を軽視して違憲法案を推進する政府・与党の姿勢に強く抗議し、ここに安保関連法案に専門家の立場から反対を表明し、法案撤回を要求します。
2015年7月1日

呼びかけ人(50音順): 市川正人 植松健一 大久保史郎(名誉教授) 倉田玲 倉田原志 小松浩 多田一路 中島茂樹

賛同人(7月10日第1次集約現在):赤澤史朗(名誉教授) 浅田和茂 吾郷眞一(特別招聘教授) 安達光治 安保寛尚 生田勝義(名誉教授) 生熊長幸 石原浩澄 石橋秀起 上田寛(名誉教授) 大平祐一 加波眞一 嘉門優 小堀眞裕 坂田隆介 佐藤敬二 佐藤渉 島津幸子 須藤陽子 徐勝 高橋直人 竹濵修 谷本圭子 遠山千佳 德川信治 平野哲郎 平野仁彦 渕野貴生 堀雅晴 本田稔 中谷義和(名誉教授) 二宮周平 野口雅弘 松尾剛 松宮孝明 松本克美 宮井雅明 宮脇正晴 村上弘 望月爾 森久智江 湯山智之 山口直也 山田希 山田泰弘 山本忠 吉岡公美子 吉村良一 渡辺千原 和田真一  他匿名賛同5名
(以上、呼びかけ人・賛同人計64名)

|