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2015年07月14日

全大教、声明「賃金臨時減額訴訟に対する三地裁の不当判決に抗議し、教職員の労働者としての権利保障と労使自治の確立を改めて訴える」

全大教
 ∟●賃金臨時減額訴訟に対する三地裁の不当判決に抗議し、教職員の労働者としての権利保障と労使自治の確立を改めて訴える

賃金臨時減額訴訟に対する三地裁の不当判決に抗議し、
教職員の労働者としての権利保障と労使自治の確立を改めて訴える

2015年7月11日

 2012年度から約2年にわたって行われた国立大学、高専、大学共同利用機関で働く教職員への不当な賃金臨時減額措置に対し、全大教は第44回定期大会で未払い賃金請求訴訟の全国闘争を宣言した。これまでに加盟組合が組織した11の原告団、600人を超える原告が各地の裁判所に提訴し、すべての加盟組合、共闘団体、市民等の支援を受けて裁判闘争がたたかわれている。この裁判闘争は、不当に減額された賃金を取り戻し組合員の不利益を回復するにとどまらず、法人化によって非公務員となった教職員の労働者としての権利がどのように保障されるのかを問う権利闘争として、歴史的意義を有するものである。

 全国11の訴訟のいずれでも、原告団、弁護団の取り組みによって、教職員の労働条件や教育・研究条件が劣悪なもとでさらにその上にのしかかった賃下げの不利益の苛烈さ、法人側の主張する経営上の必要性が法人の財政運営上の問題としても、法人の国との関係の問題としてもまやかしであること、法人側が早期の臨時減額実施に固執し労働組合との誠実交渉義務を果たさなかったことなど、今回の賃金臨時減額措置に労働契約法第10条による労働条件不利益変更の合理性がいかなる点でも認められないことが公開の法廷で明らかにされてきたし、現在進行形でまさに明らかにされつつある。自ら強行した不利益変更についてその合理性を立証する法的責任を負う法人側は、その責任を法廷の場でも果たそうとしていない。

 しかるに、今年の前半に相次いで出された三つの地方裁判所の判決では、次に示すように、主に賃金の重大な不利益変更に足る根拠として要求される「経営上の高度の必要性」を甚だしく安易に、また原告・被告の主張・立証内容を離れた裁判所の独自の論理によって認定することを通じて、原告の請求を棄却する不当な判断を下した。

・(国立高専機構事件・東京地裁2015年1月21日判決)機構にとって中期目標の達成、中期計画の実施と、それらに対する文部科学大臣の評価は存立に関わる問題だと認定。中期計画に「教育環境の整備・活用」として定められた施設、設備の整備の実施のため機構戦略経費が計上されており、中期計画を達成する観点から人件費削減を考慮せざるを得ない状況にあったとした。また、赤字決算に陥った場合の手立ては翌年度の概算要求での運営費交付金の増額要求しかなく、政府が要請した給与臨時減額を実施しないことで生じた赤字の補填要求が認められるとは考えにくいとした。

・(福岡教育大学事件・福岡地裁2015年1月28日判決)運営費交付金は前年度の算定額や毎年度の所要額をベースに定められ、物件費を支出抑制すれば次年度以降の交付額が削減される方向に作用し法人にとって財務状態の長期的悪化を招くと想定されるとして、財務上の健全性を保つため人件費を一時的に減額する必要性があったと認定した。また、国の交付金を主たる財源としながら国の要請に従わず、役職員給与の減額をしなければ、国や一般国民からの非難を受け、事業活動に悪影響を及ぼす可能性があるとした。

・(京都大学事件・京都地裁2015年5月7日判決)独立行政法人通則法63条3項及び職員給与規程附則の「当分の間、俸給表の月額及び手当の額は国家公務員の例に準拠」との規定を公的性格を有する法人としての国民に対する責任として教職員賃金を国家公務員給与に準拠すべきことを定めたものだと認定した上で、このような規定がある以上国家公務員の給与臨時減額が行われたことのみによっても賃金減額の一定の必要性が生じていたとした。加えて、国から国家公務員の給与減額に沿う対応が明確に要請されており、減額を実施すべきでない特段の事情は見出せない以上、賃金減額を実施すべき高度の必要性が存在したとした。

 これらの地方裁判所の判断は、これまで判例法理によって形成され、労働契約法に結実してきた労働条件の不利益変更に関する判断の枠組みを歪めた不当なものである。また、国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人(以下「国立大学法人等」という。)の自主的・自律的な事業運営や、非公務員化された国立大学法人等教職員の労使自治による労働条件決定のために設けられている諸制度の理解をも誤ったという点で重大な過誤を含んだものである。

 もし、これらの判決の判決理由中での認定に従うならば、国立大学法人等はそれぞれの中期目標期間中、渡し切りの運営費交付金とその他自己収入を自らの経営判断で効果的に使用してその設置目的を最大限に果たすべく適切に運営することができないし、国立大学法人等の使用者は労働者との対等な交渉を通じた自治によって教職員の労働条件を適切に決定することができないことになろう。また、国立大学法人等で働く教職員は、政府の一片の要請や法人の収入の減少の見込み、はては国家公務員の給与改定が行われたことのみを理由に、労使の十分な交渉も合意も経ることなく労働条件の切り下げを甘受させられることになろう。このような不当な判決を容認することは断じてできない。

 国立大学法人等は、高等教育を行い学術研究を推進するというその設置の目的を果たすべく、国の中期目標・中期計画を通じた関与や事業実施に必要な財政措置を受けながらもみずから自律的な経営判断を行う当事者能力をそなえた、独立した経営体である。そこで働く労働者の権利は、労働基準法、労働契約法等の一般労働法制のもとで適切な保護を受けるものであり、その中での労働条件の決定は労使間の自治によって行われなければならない。国立大学法人等のこうした自主性・自律性、そのもとでの労使自治、また高等教育機関に保障されるべき自治の精神に基づいて、独立行政法人通則法など関係法令の規定が解釈され、そのもとでの政府の措置が規律されなければならない。

 全大教は、国公立大学、高専、大学共同利用機関の自主性・自律性と自治を守り、そこで働く教職員の権利を守るために、三地裁の不当な判決への批判を広げ、控訴審でこれを覆す取り組みを強めるとともに、あとに続くすべての訴訟で公正な判決を求め、たたかいを継続する決意を表明する。


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