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2015年08月19日

下関市立大学有志、安全保障関連法案に疑問を呈する声明

安全保障関連法案に疑問を呈する下関市立大学有志の声明

安全保障関連法案に疑問を呈する下関市立大学有志の声明

2015年8月


 昨年(2014年)7月1日、安倍政権は限定的ながらも「集団的自衛権」の行使容認を閣議決定しました。識者の指摘するように、これは1972年の「集団的自衛権と憲法との関係に関する政府資料」と同様の前提に立ちながら、「安全保障環境の変化」を根拠に結論部分を変更したものです。同資料では、「他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない」と明言されていました。したがって昨年の閣議決定により政府与党は、自衛権といえば専守防衛の「個別的自衛権」にほかならないとする従来の憲法解釈の大幅な変更へと踏み出したことになります。
 昨年12月14日の総選挙を経て、本年に入り、政府与党は11法案にのぼるいわゆる「安全保障関連法案」を上程し、国会会期を9月27日まで戦後最長となる95日間延長したうえで、同法案を7月16日、衆議院を通過させ、現在は参議院に送付され審議中です。
 この間、多くの国民が安保法制反対の声を上げています。その背景には、今回の法案が、わが国の歩んできた平和国家としての性格を大きく変えるのではないかという不安があります。専守防衛に徹し、かつ震災時を初めとする災害派遣の実績等により、国民の幅広い理解と支持を得てきた自衛隊も、今回の安保法制によってその性格を大きく変えることになります。
 そもそも昨年末の総選挙は、「アベノミクス」の中間評価および消費税率引き上げ延期の是非という経済政策を中心争点としていました。「景気回復、この道しかない。」これが自民党のキャッチコピーでした。同総選挙で多数の議席を得たことが、そのまま安全保障政策の支持を意味すると考えるのは無理があるのではないでしょうか。
 国民は、安全保障関連法案をめぐる審議過程を目の当たりにして動揺しています。そして、安保法制が今までの安全保障政策の何を維持し、何を変更するのかについても、政府与党の説明にもかかわらず、十分な知識と理解が得られたわけではありません。これはつまり、安全保障政策を争点の一つとする「総選挙」を通じて、一定期間の学習期間を経たうえで、国民自身の意向を問うべきだということを意味しないでしょうか。
 国民不在と受け取られても仕方のない政権運営が続いているように思われてなりません。平和主義や立憲主義といった憲法の理念だけでなく、私たち大学人の立場からは、学問の自由さえも脅かされているように思われるからです。周知のように文部科学大臣は本年6月8日、国立大学の人文・社会科学系学部の「廃止または転換」を通達しました。多くの大学はすでに「社会的要請」への対応において十分すぎるほど苦慮してきたわけですから、これはもはや大学自治への露骨な行政介入にほかならず、ひいては、人文・社会科学系諸学部で培われる批判的思考の芽を摘み取ったうえで、政府与党の方針に適う、または実益をもたらす分野にのみ予算を重点配分することを目指すものだと言わざるをえません。
 安全保障政策、文教政策、さらには普天間飛行場移設問題、TPP問題、原発問題…ここ数か月間の政権運営でますます目立ってきたのは、政府与党の「拙速」かつ「恣意的」な判断です。「国のかたち」を大きく変えるこれらの案件は、国民不在のまま結論を急いではならないはずです。
 下関市立大学は、「東アジアを中心に広く世界に目を向けた教育と研究」を行うことを通じて「地域社会及び国際社会の発展に寄与すること」を建学の理念とし、地方公立大学のなかでも最も古い大学の一つとして、およそ60年間にわたり多くの卒業生を世に送り出してきました。私たちは、今回の安全保障関連法案が、東アジア地域の緊張を不必要に高めることによって「地域社会と国際社会の発展」を大きく損ねることを危惧します。
 拙速かつ恣意的な判断に基づく政権運営の失敗は、太平洋戦争、そして戦後の原発政策の顛末を見れば明らかです。戦後70年というこの大事な節目に、政府与党は今一度、民主主義の原点に立ち返るべきです。私たちは、①政府与党が改めて国民の声に謙虚に耳を傾けること、②十分な理解を得られたとは到底言えない安全保障関連法案を廃案とすること、③仕切り直して総選挙において安全保障政策を中心争点とすること、そして、④各党が賛否の立場およびその根拠を十分に示したうえで、国民自身の審判を仰ぐこと、これらのことが最低限必要であると強く主張します。


呼びかけ人(50音順)

相原 信彦(経済学部教員)  木村 健二(経済学部教員)

桐原 隆弘(経済学部教員)  関野 秀明(経済学部教員)

水谷 利亮(経済学部教員)  山川 俊和(経済学部教員)

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