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2015年09月02日

酪農学園大学、元学長・干場信司氏 寄稿文「大学の役割」

酪農大はやっぱりすばらしい!
 ∟●寄稿(第1回)大学の役割 干場信司(2015.08.31)

寄稿(第1回) 大学の役割
干場信司

 最初に、本ブログを立ち上げて下さった新名正勝先生と加藤博美さんに、心からお礼を申し上げたいと思います。大言壮語を好まない新名先生が、矢面に立って下さったのは、卒業生としてまた8年間にわたり酪農大の嘱託教授として、現場教育(実践教育)を担ってこられたご経験から、今回の出来事は「母校にとって良くない!」と判断されてのことと感じています。加藤博美さんも愛する母校の教育に強い危機感を感じたからこそ、「酪農大はやっぱり素晴らしい!」と言えるようになることを願って、忙しい最中にもかかわらず、ブログの立ち上げを買って出て下さったのだと思っています。改めて、感謝いたします。

 教育の問題について語ることのできる場を作って下さったので、私自身がこれまで四十数年に亘り教育・研究に携わらせていただいた経験を基に、考えてきたことを私論(あるいは試論)として、何回かに分けて述べさせていただきます。
 
 今回は「大学の役割」についてです。
 私は、大学の役割を次の4つに分けて考えています。
①学生が、これまでの知識や技術とその背景にある考え方・哲学を修得する場を提供すること
②教職員と学生が共同して、新しい知識や技術を生み出すこと
③上記2つを通して、学生ひとり一人が自分の考え方を創る力を身に着け、社会に出てゆく準備ができるようにすること
④以上の積み重ねを通して、現在および未来の社会を律する考え方・哲学を創り出し、世に問うこと
 大学の役割が、高校までの教育の役割と異なるのは、高校までは①を主体にしているのに対し、大学は②から④が加わっていることです。私は、大学入学式の挨拶の中で、「皆さんはこれまで、正解のある問題を対象に学んできたと思いますが、大学に入ってから学ぶ最も大切なことは、正解のない問題をどのように考えるかです。」とよく言ってきましたが、これはそのことを意味しています。
 上述の大学の役割は、大学の専門性にかかわらない一般的な役割と私が考えているものですが、指導内容の重点の置き方、その取り組み方や学生指導の方法は、それぞれの大学によって大きく異なると思います。酪農学園大学では、建学の理念である「三愛精神とそれに基づく健土健民」に基づき、循環型農業・社会を目指した実学教育を行っています。したがって、①から④までをそれぞれの分野の現場から学ぶというところが、酪農大の特徴になると考えています。このことについては、また別の機会に詳しく述べたいと思います。

 ところで、大学独自の役割である②から④は、どのような条件・環境の下で可能となるのでしょうか? ②から④の役割は、いずれも自由で創造的な環境の下で、はじめて生まれるものです。「学問の自由」やそれを保障する制度として「大学の自治」が大学の必須条件と言われているのは、そのためです。
 ②の新しい知識や技術は、単一ではない多様な考え方のぶつかり合いの中から生まれてくるものです。③の学生の成長は、多様な考え方を持った学生同士や教職員との意見交換・議論の中で見られてくるものです。④の時代に即応しまた将来を見通す哲学の創造は、異なった世界を体験せずに可能とはならないでしょう。
 つまり、大学がその役割を果たすためには、換言すれば、大学が大学であるためには、いろいろな意見を持った人間同士がお互いに多様性を認め合うことが原点なのです。日本の科学技術の発展も、このこと無しにはあり得ないでしょう。
 今回、酪農大で起きた出来事は、この大学が大学である条件を自ら否定し、単一に染めようとしたことから生じているように思えます。酪農大がこれまで同様に、素晴らしい学生が集まり、学生と教職員が一生懸命に向き合い、素晴らしい卒業生が生まれ続けるためには、大学が大学である条件を認める必要があると考えます。

この私論(試論)が、大学教育の今・未来を考える際の議論の材料になれば幸いと思っています。

以上

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