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2015年09月12日

参議院の強行採決は「良識の府」の自殺行為

web ronza(2015年09月11日)

参議院の強行採決は「良識の府」の自殺行為

 参議院の安保法制審議は、「良識の府」らしく、衆議院で明らかになっていなかった様々な問題点を浮き彫りにした。

 たとえば、自衛隊の内部資料(統合幕僚監部作成の法案成立後のスケジュール、河野克俊統合幕僚長のアメリカ軍との会談議事録)を共産党が次々と明らかにし、文民統制が犯されていて戦前のような軍の暴走を招きかねない、と批判されている。

 そもそも、もともとこの法案の必要性を首相が説明した邦人輸送中の米艦防護の例でも、中谷元防衛大臣は邦人が乗っていることは絶対的な条件ではないと述べ(8月26日)、立法の根拠すら崩れている。

安保法案で中谷元・防衛相(中央)の答弁を巡って審議が中断した参院特別委員会=2015年8月25日

 これらは、いずれも巨大な問題であり、本来ならばそれらの1つだけでも安保法制の成立は不可能になってしまうほどの深刻な意味を持つ。

 しかも、政府の答弁が行き詰まって、なんと95回以上も審議が中断し、審議時間は9月1日の時点でまだ63時間に過ぎないから、審議時間が不十分と批判された衆議院よりもさらに少ない。

 審議は十分に尽くされたどころか、次々と問題点が浮上している。

 これに対応して、国民の間でも今回の成立に反対する人は6割以上に及んでいる(JNN調査、賛成30%、反対61%、9月7日)。

 さらに、山口繁・元最高裁長官までもこの法案を違憲と明言し(朝日新聞、9月3日)、大森政輔・元内閣法制局長官も参議院特別委員会の参考人として違憲と述べた(9月8日)。

 それにもかかわらず、9月27日の国会会期末を念頭に、与党は地方公聴会の開催すらしないで安保法案を14日の週に採決する方針を明らかにした。

 このため特別委員会では、9月8日に鴻池祥肇委員長が野党の同意なしに理事会を再開し、野党が委員長席に詰め寄って抗議する中で、中央公聴会を15日に開催することを強引に議決した。

 与党は16日の特別委員会採決、17日の本会議採決を目指していると伝えられているので、このまま強行採決に進むのだとしたら、参議院は「良識の府」たる役割を自ら放棄すると言わざるを得ないだろう(「安保法案で『良識』が問われる参議院――主権者は『クーデター』を失敗させられるか?」WEBRONZA)。

 このような動きに対して、民主、維新、共産、生活、元気などの野党6党は、強引な採決に反対して、野党間で連携して対応することを確認した(9月4日)。野党は、どのようにこの採決に臨むべきだろうか?

法を遵守するための正義の戦い

 参議院でこの法案が「成立」すれば、いよいよ「憲法クーデター」が達成されたことになる。 日本という国家は、正義に反して自らの憲法に反した「法律」を制定することになり、立憲主義や法治主義が形骸化する「不法国家」となってしまう。このような強行採決を行う政府は、「専制政府」「暴政政府」そのものということになる。

 そこで、このような国家に反対して法を遵守する政党は、あらゆる合法的な手段を尽くして抵抗すべきである。

 現在、野党間では内閣不信任決議案の提出が検討されている。それはもちろん提出されるのが正義に適う。それだけではなく、国会の中で問題になった様々な閣僚や議員の不信任決議案や問責決議案が次々に提出されるべきだろう。

 たとえば、防衛大臣や外務大臣、さらには武藤貴也議員、礒崎陽輔首相補佐官などについてであり、強行採決をしようとする委員長や参議院議長についてである。河野統合幕僚長の国会招致なども要求すべきだろう。

 これらは、本来、国会で問題になった時点で野党から辞任が要求されて当然であり、今ほど与野党の議席数が開いていなければ辞職に追い込まれていただろう。ところが、政権は、武藤議員の離党を認めるなどの対応を取っただけで、基本的には彼らを守り通してきた。

 もちろん、現在の国会の与野党の議席を考えれば、これらの決議案が可決されることはないだろう。それでも、野党の立場から正義を問うためにこれらを提出することは大事なのである。

 さらに、野党は、久しく使われなくなっている牛歩戦術や国会内座り込みなどの方策も、封印を解いて積極的に用いるべきである。これらは、かつての左翼的な革新政党が用いていた抵抗手法である。

 民主党をはじめ近年の多くの野党は、かつての革新政党と距離を置き、責任政党としての対案の提示を重視したため、これらの強い抵抗手法を用いなくなった。これには相応の理由がある。

 しかし、今の局面では、その紳士的な姿勢を捨てて、激しい抵抗を全力で行うべきである。なぜなら、憲法が決定的に犯され、国家が不法国家になってしまうという危機は、民主政治や立憲主義にとって最大級の危機であり、文字通りこれに全力で反対しない限り、野党の存在意義すら疑わしくなるからである。

 そうすることのみが、「憲政」の危機における行動について、野党政治家が歴史の審判に耐える道だろう。

専制に対する非暴力抵抗――「ピース牛歩戦術」の勧め

 国会の外では、老若男女の人々が連日のように全国各地でデモを行い、抗議行動を繰り返している。炎天下でも雨の中でも、仕事が終わり次第デモに駆けつけたり、休日の休養や趣味の時間をなげうったりして、その思いを伝えようとしている。強行採決の時にも、多くの人びとが抗議デモに行って採決に反対するだろう。

 だから、国会の中でも、法を遵守する国会議員は、これらの人々の声を代弁する活動を、文字通り力を尽くして、最大限、行わなければならない。

 今は、法を守ろうとする野党の本気度も問われている。牛歩戦術をはじめとする抵抗手法は、通常の政治では熟議の採決では行うべきではないが、憲法そのものの危機における政治(憲法政治)において強行採決が行われる時には、むしろ法を守るための尊い最大限の抵抗行為と考えられる。

 もともと、専制政府に対する抵抗がどのような形で行われるべきかということは、民主主義における最大のテーマの1つである。

 その歴史の中で、インドのガンジーやアメリカのキング牧師の非暴力抵抗運動は、極めて重要な方法である。牛歩戦術はまさに平和的な方法である。かつてイラク反戦運動の時に若い人たちは「ピース・ウォーク」という、平和的に歩く新しい抗議方法を実行した。それに似たものとして、いわば平和のための「ピース牛歩戦術」を取ったらどうだろうか。

 過去において牛歩戦術は、1回の投票で最長で13時間を費やしたことがあるから、最大限の抵抗を行えば、参議院採決にせよ、衆議院での再可決にせよ、17日と18日の強行採決ができなくなるのはありえないことではない。

 そうなれば、週末の大型連休に突入することになり、政府は大規模な全国市民安保デモに直面することになるだろう。

 安保法制に反対する市民デモは、まさに非暴力的・平和的な形態で行われている。それに対応して、国会議員の抵抗も、もちろん非暴力的に行われるべきである。

 しかし、逆に言えば、専制政府による憲法の危機という非常時においては、非暴力的・合法的な範囲内で最大限の抵抗を試みて初めて、議員は「選良」の名に値すると思われるのである。

政党における立憲主義的な「平和への結集」

 そして、会期中に法案が成立するにせよ、しないにせよ、力を尽くした抵抗を共にすることによって、野党の間で連帯が実現すれば、これは政党における「平和への結集」の礎になるだろう。

 全国市民安保デモが人々の間での「平和への結集」を実現しつつあるにもかかわらず、強行採決が行われるならば、次の大きな課題は、政治家や政党の間における「平和への結集」をいかに実現するか、ということである。

 もし強行採決が行われれば、この法案の廃止が2016年の参議院選挙の最大のテーマになるべきだろう。その時に、野党間で強力な連携や結集が成立していれば、与党は敗北する可能性が高い。逆に連携や結集が成立しなければ、野党が勝つことは難しくなる。

 維新の党が実質的に分裂状態になり、執行部は民主党との連携を目指しているから、立憲主義的な野党の結集は可能性が高まっている。

 そこで、人々の声に基づく「平成の憲政擁護運動」が選挙に大きな影響を与え、野党の間で法と民主主義の回復を目指す立憲主義的な政党連合か、あるいは強力な新党が実現すれば、安保法案に反対する人々は、そのような政党に投票するだろう。それは、まさに「平成の政変」につながるかもしれない(「『全国市民安保デモ』で『平成政変』は起こるか?――憲政擁護運動と市民革命の可能性」WEBRONZA)。

 専制政府の強行採決に対する野党の抵抗の中から、そのような道が生まれてくるか否か。それは、野党政治家たちの勇気と知恵にかかっているのである。


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