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2015年11月12日

日本科学者会議、声明「危機的状況にある大学と学問・研究の現状打破のために」

日本科学者会議
 ∟●危機的状況にある大学と学問・研究の現状打破のために

危機的状況にある大学と学問・研究の現状打破のために

 わが国の大学と高等教育が大きな曲がり角に直面している。日本科学者会議は、これまでにも繰り返し、政府・文科省の大学政策に批判的な立場を表明してきた。しかし、事態は改善されないばかりか、ますます危機の度合いを深めてさえいる。

(1) 現時点で、われわれがもっとも危惧するのは、以下の3点である。まず第1に、本来それぞれの大学構成員が自主的かつ民主的な討議や手続きを経て確認し、実行に移していくべき大学のあり方、使命、運営方針などが、トップダウン式の管理運営という学長をはじめとする役員会などの執行部の専権事項とされる傾向が強まっていること、そして、本年4月の改定学校教育法・国立大学法人法の施行によってその方向が決定的となったことをあげなければならない。大学の自治、学問の自由の担い手が教職員、学生を含めた構成員であることなど、一顧だにされない、そんな大学が確実に増えているのである。

 第2には、こうした方向性が、政府・文科省の政治介入や財政誘導によって誘導されており、個々の大学等の執行部においてすら、自主的な判断で独自の展望をもって当該大学のあるべき方向性を打ち立てることができないという深刻な事態に至っていることである。去る6月に文部科学大臣の名で出された「国立大学法人等 の組織及び業務全般の見直しについて」の通知は、事態の重大さから、人文・社会系学部等の廃止や他の分野への転換を強制するものだとして社会的にも強い批判が寄せられ、そうしたなか、文科省も「誤解を招く文章だった」とトーンダウンの説明に転じ、経団連も文系軽視すべきでないとする談話を公表するなど、事態の収拾に努めざるをえないなど一定の変化を作り出してはいる。しかしとはいえ、文科省自体は先の文書の撤回にはいっさいふれていないし、財界にあっても正規・非正規の雇用、正社員相互間の分断などの労働政策、人材養成を見れば、額面どおりに理解するわけにはとうていいかない。第3期中期目標・中期計画素案では、文系学部の見直しを計画している大学が26大学に及んだことも報道されている。各大学の自主的な改革こそが基本におかれ、それと同時に大学の社会的役割や21世紀における大学・高等教育のあり方を、政府や財界から独立した広く国民的レベルで検討する機会も保障されなければならない。この点で、今月15日の日本学術会議幹事会声明の提言を支持するものである。

 第3は、安保法制(戦争法)の強行「採決」による「戦争のできる国」への急激な転換が、これまた法の施行前であるにもかかわらず、強権をもって推し進められていることと連動するかのように、大学における軍事研究が現実の問題として懸念されるに至っていることである。防衛省が募集した研究費交付事業には、残念ながら大学等から58件の応募があったとされる。「デュアル・ユース」とか「研究者の研究の自由」の名であいまいにされていい問題ではない。大学における軍事研究の拒否は、とりわけアジア太平洋戦争時における痛苦の経験から学んだわが国における大学と学問研究がようやくにしてわが物とした、ないがしろにされてはけっしてならない財産でもある。同時に、各大学と個々の教員は、予算削減により、研究費は本意ならずとも大変な苦労をして獲得する外部資金に頼らざるを得なくなっている実情も看過できない。国公私立を問わず、大学の予算は極めて厳しい環境を強いられており、学費値上げということになれば、学生の学ぶ権利さえ危ぶまれることになる。この苦境から逃れるためには、文科省や財務省の圧力を跳ね返し、国の高等教育予算のあり方を根本から見直されネければならない。

 日本科学者会議は、現在、大学の直面している現状や課題について広くアンケートを実施し、平和と真理の砦としての大学を取り戻し、学生が人として市民として豊かな教養と専門的素養を身につけ、そして大学が、総体として「知の拠点」たるべく、社会が解明や対応を求める諸課題に持続的に、かつ勇躍して挑んでいく、そのような使命と理念をもって、今日と明日の大学と学問研究を構築することを目指している。この課題は、すべての大学関係者、教育や学術研究にかかわる諸団体・機関や広範な国民各層の共同の取組によってこそ成し遂げうるものであることはいうまでもない。

 安保法(戦争法)案反対の国民的運動が大きく盛り上がるなか、大学においても学生と教員の新たな共同の輪と信頼の絆が形成され、今も確実に拡がり、強まっている。こうした新しい条件を生かすことによって、国民の付託に応え得るような真の大学改革が進むことが求められている。日本科学者会議は、その一翼として、現在の状況に真摯に向き合い、大学と学問研究の自主的民主的な発展のために力を尽くすものである。

2015 年 10 月 25 日
日本科学者会議常任幹事会

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