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2015年11月17日

安倍政権“横暴改革”で大学崩壊 人件費削減、研究者は非正規雇用に

dot(更新 2015/11/ 6)

 政府は、産業力強化に向けた大学改革を進め、昨年12月、産業競争力会議(議長・安倍首相)は、国立大学を3分類し、「稼ぐ大学」にするための改革案を発表。同会議には経済再生相などの閣僚のほか、産業界の重鎮がずらりと並んだ。

 こうした、産業力を重視する安倍政権の大学改革には、批判も多い。

 今年6月、当時の下村博文・文科相から各大学に対して出された「教員養成系や人文社会科学系の学部の廃止、転換を含めた組織見直し」の通知が物議をかもし、日本学術会議、大学の学部長などが反対声明を発表した。

 「文系を軽視する背景には、一つは財務省からのプレッシャーもある。厳しい国家財政の下でより社会の需要に応える教育が求められている。もう一つは、保守的政治勢力からのプレッシャーがあるのではないか。政権批判をするのはいつも、人文社会科学系の人間ですから……」(科学技術政策に詳しい大阪大学の平川秀幸教授)

 十数年前から「選択と集中」という方針で大学などでの研究を進めてきたが、元凶はここにあるという。

 元三重大学学長で鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は指摘する。

 「『選択と集中』はもともと産業界の経営手法で、大学でもうまくいくと多くの人が信じきっていて、これまで検証もせずに進められてきました。だが、その結果として、日本の大学の国際競争力は低下しているのではないでしょうか」

 豊田学長は、研究の競争力の指標である論文数の推移を調べ、ここ10年で日本の大学の国際競争力が低下していることをいちはやく指摘してきた。

 「特に工学、物理、化学、物質科学など日本のお家芸と言われていた分野で論文数が減っています。大きな原因は、大学の研究者の研究時間が減っていることです」

 論文数が減少した時期は、2004年の国立大学法人化と重なる。国は、法人化によって大学に民間の経営理念を導入することを促す一方で、大学運営の基盤となる収入で主に教員の人件費として大きな役割を持つ運営費交付金を、毎年1%ずつ削減したのだ。

 04年から三重大学学長を務めた豊田学長は、当時をこう振り返る。

 「運営費交付金が削減されたので、三重大でも計画的に教員数を減らしました。例えば医学部では1講座4人の教員がいたのが3人になった。教員が減り、研究時間が減っていくので、先生たちの疲弊感はますます高まっています」

 運営費交付金が減ることで教員が減り、ひとり当たりの負荷が高まり、研究時間が確保しづらくなった。その結果、論文数の減少につながったというわけだ。

 運営費交付金が減る一方で、研究テーマを選別して研究予算を配分する競争的資金は倍以上増加。ここ10年で国立大学の運営費交付金は約1695億円減り、競争的資金は約2465億円も増加している。競争的資金はテーマや成果によって配分が決まるため、競争が促され、効率化が進み、結果が出せるというのが国のもくろみだった。

 だが、研究者を大学で安定して雇用できる運営費交付金と異なり、競争的資金では3~5年のプロジェクトごとの雇用になる上、プロジェクトのテーマの研究しかできないなど自由度が低い。12年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が率いる京都大学iPS細胞研究所でも、運営資金の多くは競争的資金が占め、職員の約9割が任期付きの雇用だという。iPS細胞研究でさえ、この状況なのだ。

 かつて国の大学院重点化施策で増え続けていた博士研究員(ポスドク)や博士課程大学院生も、近年は減少傾向だ。豊田学長はこう懸念する。

 「法人化で大学の裁量が増すということだったが、実際には(国の予算配分によって)研究機能が縮小しました。現在国が進めている大学改革では、機能どころか組織の縮小段階に入っています」

 法人化以降、国立大学は6年ごとに中期計画を策定し国の評価を受ける。現在策定中の計画では、目標の設定によって国からの予算配分が左右される仕組みだ。

 今年4月には改正学校教育法などが施行され、大学学長の権限が強化されたと言われるが、逆に大学の自治は奪われつつあるのが現実だという。前出の平川教授はこう懸念する。

 「国からの評価と予算に、大学、学長はより縛られるようになってきています。これまで大学の自治は教授会を中心として行われてきたが、学長が国に予算で首根っこを押さえられ、国の方針に振り回されてしまう危険性がある」


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