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2015年12月16日

大学評価学会、「無償教育の漸進的導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

大学評価学会
 ∟●「無償教育の漸進的(ぜんしんてき)導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

「無償教育の漸進的(ぜんしんてき)導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

2015年12月13日 大学評価学会理事会

 新聞等の報道によれば、2015年12月1日、文部科学省は現在約54万円(年間)の国立大学授業料(全国86校)について、2031年度には93万円程度に上がるという試算を公表した(衆議院文部科学委員会の閉会中審査)。これは、財務省の「国立大学への国の支出を大幅に削減する/減収分は大学が自己収入で賄う」という方針を財政制度等審議会(分科会)が了承した(10月26日)ことによる。減額分をすべて授業料で賄うとすれば2016年度から毎年「2万5千円」、15年間で「約40万円」の値上げが必要という。現在でも入学金や学費が支払えず大学進学を断念する者や、入学しても授業料の支払いのために長時間のアルバイトを余儀なくされたり、卒業後も多額な奨学金の借金を抱えて不安を抱えている者が少なくない。この値上げ案は、現実的に国民の高等教育を受ける権利を奪うものとなる。

 最高法規である日本国憲法第26条は「教育を受ける権利」の保障を規定し、教育基本法は「経済的地位による教育上の差別禁止」および「教育の機会均等」を明記している。くわえて、日本政府は、2012年9月11日、国際人権A(社会権)規約の第13条第2項(b)(c)に係る留保を撤回した。それ以降、外務省ウェブサイトにもあるように、日本国はこの条約の定めに拘束される立場にある(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html)。すなわち、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」(第2項(c))についても、これを「誠実に遵守する」義務を有している(日本国憲法第98条第2項)。

 大学評価学会(2004年設立)の初代共同代表であった田中昌人(故人・京都大学名誉教授)は、『日本の高学費をどうするか』という書を2005年に世に問うた。多くの関係団体が留保撤回を強く主張し、国連からも促されて、日本政府はようやく留保の撤回を行った。「無償教育の漸進的導入」(無償教育に少しずつ近づけていく)原則にかかわって、特に「授業料無償化」に関しては、立法的・行政的措置がとられるとともに、司法的にも問われるべきであるとされている(田中秀佳「国際人権法における教育の漸進的無償化 : 日本政府による社会権規約13条2項への留保撤回の意義」『日本教育法学会年報』43号、2014)。留保撤回後に、条約締約国として日本政府に求められているのは、まずもって「授業料無償化のためのアクションプランの策定」である。にもかかわらず、日本政府は「無償教育の漸進的導入」原則に基づく立法的・行政的措置を放棄し、授業料の減額化に取り組んでいない。そればかりか、「授業料値上げ」に帰結する今回の財務省方針は、同原則に背く内容である。公私立大学の学費値上げや学ぶ権利・進学機会を奪う事態のさらなる拡大にも繋がり、日本国憲法および教育基本法にも反する。仮に、このまま国立大学の授業料値上げ(国による授業料標準額の値上げ、各国立大学法人による値上げ)が強行されるとしたならば、留保撤回時に行われた過去の授業料等値上げとは異なって、明確な条約違反である。

 今回の財務省方針に反対する声明や基盤的経費拡充の要望書が国立大学協会(2015年10月27日)、国公私立大学代表連名(同年11月18日)、各国立大学からも相次いでいる(学長にとどまらず、地方財界人や首長、著名人を含む)。高学費に依存する文教政策や大学法人経営のありようは、留保撤回とともに見直され、計画的に「無償教育の漸進的導入」(学費減免措置の拡大、給付型奨学金の創設、教育ローンにおける所得連動返還制の拡充などを含む)、とりわけ「授業料減額化」「授業料無償化」が国公私立を問わずに進められねばならない。留保撤回を契機として、大学関係者は学生・地域関係者・国民などとともに、政府に対して「無償教育の漸進的導入」原則にふさわしい予算の増額や政策の転換を求めていくべきである。若者の学ぶ権利・発達の権利を侵害すれば、日本社会の未来を危うくすることになろう。

 大学評価学会理事会は、「無償教育の漸進的導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に強く抗議する。

【これまでに公表した声明】大学評価学会HPにて入手可能 http://www.unive.jp/
○2012年3月2日/大学評価学会 国際人権A規約第13 条問題特別委員会:「韓国-米国-日本」が連帯した大学学費問題に関する3月2日公表の声明 (日本語、英語)
○2014年1月22日/大学評価学会 国際人権A規約第13 条問題特別委員会:「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明」(日本語)
【これまでに公刊した書籍】インターネットにて学会事務局または書店から購入可能
○大学評価学会編『高等教育における「無償教育の漸進的導入」:授業料半額化への日韓の動向と連帯』(シリーズ本第6巻)晃洋書房、2013年。
○細川孝編『「無償教育の漸進的導入」と大学界改革』晃洋書房、2014年。
【これまでに発表したポスター】
○日永龍彦ほか:「無償教育の漸進的導入」原則にそくした大学等の在り方(2014.9.12-14.)http://www.unive.jp/
○WATANABE Akio, et al.: Impact of an international legal norm of "the progressive introduction of free education" on secondary/higher education policy in Japan(2015.10.15.)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90002882.pdf 


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